表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/77

先代の記憶と寄生兵器

リクが力尽きたのは、リリスとの戦いの直後だった。


「魔力の枯渇がひどい……このままでは命に関わるかもしれない」


カイが苦い表情で言うと、エルナも真剣な面持ちでうなずいた。


「テルメ・ルーナに行こう。そこなら……“魔泉”がある。癒しの源泉、魔力を直接回復させる温泉よ」


「そんな場所が……」


「飛行艇を捨ててでも、今は彼を助けなきゃ」


彼らは決断した。飛行艇の脱出口をこじ開け、最寄りの山あいに降下する。


森を抜け、半日をかけてようやくたどり着いたのは――


幻想的な光を湛えた、静かな温泉街。


リクを背負っていたカイは、息を吐きながら呟いた。


「……ここが、エルナが言っていた癒しの聖地か」


「うん。ここなら、魔力の泉でリクの回復を……!」


ふと、木製の門から出てきた老人が彼らに気づき、目を見開いた。


「おや……旅の方か。お困りのようだね」


「仲間が……魔力を使い果たして倒れてしまって……!」


エルナの懇願に、老人はうなずくとすぐに案内を始めた。


「急ぎ、回復泉へ。運がいい……今は“満月の湯”が開かれている。魔力回復には最も適しておる」


老人の名はミルドといい、この街で何代も湯守を務めてきた人物だった。


案内された先には、蒼い光が揺れる巨大な露天の湯。魔力を含んだ泉が、ほのかに脈動しているようだった。


リクはそっと湯へと横たえられた。


――その瞬間、魔泉が静かに反応を示した。


「……光が……リクに……」


蒼白く輝く泡が彼の身体を優しく包み、緩やかに魔力が注ぎ込まれていく。蒼光は徐々に脈を打ち、リクの呼吸も深くなっていった。


「……助かる……かもしれない」


カイとエルナが顔を見合わせる。


ミルドが手を叩いた。


「さあ、君たちも疲れているだろう。今日はゆっくり休んでいくといい。身体だけじゃない、心まで癒すのがこの街の役目だ」


そう言って、街の者たちは暖かく二人を迎え入れた。


カイは湯屋の少年たちに囲まれていた。


「ねえねえ、お兄ちゃんの剣、どうなってんの!?」「あれって魔法剣!? それとも超合金!?」


「いや、あれはもう壊れちまってな……」


少年たちが騒ぐたび、カイは少し困ったように笑ったが、どこか嬉しそうでもあった。


しばらくして。魔泉で急速に魔力を回復していたリクが目を覚ました。


「リク!」


「……おかえり」


声はまだ弱々しいが、笑みを浮かべていた。


「ここは……いい街だな。あったかくて、柔らかくて……こんなところでなら、少しの間、戦いを忘れてもいい気がする」


「少し、休もう。……それがきっと、次に戦う力になるから」


エルナがそっと彼の手に触れた。


魔力温泉街「テルメ・ルーナ」に癒やされる日々が続くなか、リクたちはようやく心身の疲れを癒していた。街の広場では地元の市が開かれ、観光客や冒険者たちが賑わいを見せている。


その喧騒のなか、不思議な気配を纏った老人がゆっくりと近づいてきた。


「ようやく見つけたぞ……“創造者”の気配を持つ者よ」


リクが振り向くと、そこには深い皺と慧眼を持つ男――エイランが立っていた。灰色のローブと杖を携え、背は丸く、しかしその瞳には決して消えぬ知の炎が宿っていた。


「……俺を、知ってるのか?」


「知っておる。いや、“お前のような者”をな。わしはかつて、王国直属の術典庁で“スキル構造理論”の研究をしておった。エイランと申す」


カイとエルナが警戒しながらも後ろに立つ。


「君が……スキルクリエイターについて何か知っているのか?」


エイランは頷いた。


「それはただの能力ではない。“意志”と“概念”を媒介に力を形作る技法。スキルとは本来、天恵に等しい。だがごく稀に、自らの内から新たな法則を書き換える者が現れる。わしは、過去にその者を……“創造主アーキテクト”と呼んでいた」


リクの目が揺れる。


「……その“創造主”とやらは、今どうしてる?」


エイランの表情が僅かに翳った。


「一人は、国の禁忌を侵し、処刑された。もう一人は、自ら力を封印し、どこかへ姿を消した。そして三人目は――わしの弟子だった。だが……彼もまた、力に喰われ、己を見失った」


しばしの沈黙のあと、エイランは小さな革の書物を取り出す。


「これは、彼らが残した“記録”と“警告”だ。わしはこの街で、“次なる創造者”を待っていた。偶然などではない。……お前が来ることを、予見していた」


リクが受け取ったその本には、精緻な魔法文字と構造図、そして呪文詠唱の可変式などが書き込まれていた。


「この力が、なぜ存在するのか……どう生きるべきなのか。お前は、選ばれし者であると同時に、裁かれる可能性を持つ存在でもある」


「……それでも俺は、この力を使って人を守りたい。それじゃ駄目か?」


エイランはゆっくりと微笑む。


「否。それこそが、“創造者”として最も尊き在り方だ。だからこそ、わしは導きに来た」


彼は広場の片隅、魔力の石碑の前へリクを誘った。


「この石碑は、かつて失われた“共鳴記憶”を蓄積するもの。お主がここで、己の力を使えば――過去の創造主たちの痕跡を見ることができるだろう」


「痕跡……?」


「己の行き着く先を知る術の一つじゃ。必要か否かは、お主が決めよ」


リクは深く息を吸い、静かに頷いた。


リクは石碑に手をかざした。


淡い蒼光が、彼の手から流れ出す。


その瞬間――石碑が震え、空間が揺らいだ。


“創造者の記憶”が、今まさに目覚めようとしていた。


リクたちがエイランの温泉街で休息を取っていたちょうどその頃――

遥か北、黒鋼の塔と呼ばれる巨大な研究施設の地下深くで、Dr.オーダは静かに報告を聞いていた。


「……リリスとヴィクトール、共に沈黙。回収不能です」


部下の無機質な声に、彼は一切の動揺を見せなかった。

薄く笑い、手元の端末を操作する。


「ふむ。ならば――そろそろ、“対リク兵器”の起動実験を開始しよう」


コードネームは、《コラプサー》。

それは、リクという存在、すなわち“スキルクリエイター”に特化して構築された魔導兵装だった。


純粋な破壊力ではなく、リクの“創造スキル”を逆流・暴走させる干渉波。

対象の精神と魔力の位相を狂わせ、創造そのものを“自壊の呪い”へと転じさせる、異質な兵器。


制御核は、かつてリクと同じく創造の才を持ちながら、精神崩壊した被験体の脳を使用している。

「彼に似た存在を、彼を破滅させる装置に転じた。実に皮肉だとは思わないかね?」


部下たちは無言だった。


Dr.オーダは立ち上がると、分厚い隔壁の向こうに鎮座する巨大な黒い装置を見つめた。

無数の呪印が刻まれた装甲板。その中心には、人間の眼球を模した“魔導視核”が脈動している。


「準備を急げ。ヤツが再び動くなら、それを迎える“贈り物”が必要だ」


その頃、温泉街では――

エルナが地元の子どもたちに射的を教えながら笑い、リクはまだ魔力の回復途中で、動けずにいた。

カイは村の若者たちと剣術の稽古をしながら、時折、険しい表情を空に向けていた。


――そして、空の彼方。

静かに“コラプサー”の瞳が、リクたちの方角を向いていた。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ