エルナの必殺技
「リリスは……私がやる!」
緊張の中、弓を構え直したエルナが一歩、前へ出る。目の奥に宿る意志は、もはや以前の彼女ではない。リクは一瞬迷ったが、静かにうなずいた。
「任せた。無理はするな、エルナ」
「うん、もう逃げない」
エルナがリリスと向き合い、魔力の矢が弦に宿る。リリスはその変化を見て、口元を吊り上げるように笑った。
「ふふ……面白くなってきたわ」
同時に、ヴィクトールがリクとカイに視線を向けた。重厚な剣を肩に担ぎながら、一歩前へ踏み出す。
「二人がかりか。だが、まとめて叩き潰すのみ」
「それはどうかな」
リクが応じ、すぐ隣でカイも剣を構える。リクの《ソウルブレイカー》が煌めき、カイの剣には魔力が宿る。短いやり取りのあと、二人は動いた。
「挟むぞ、カイ!」
「任せろ!」
リクはヴィクトールの正面から突撃し、牽制の閃光を放つ。それを受け止めたヴィクトールの隙をついて、カイが背後から鋭く斬り込む――が、その一撃すら、ヴィクトールは反応し、剣で弾いた。
「動きが読めている……!」
「伊達にリリスの守護はしていない、ということだな!」
空中で剣が火花を散らし、三者の攻防は一瞬ごとに切迫する。リクは距離を取り、魔法式を再構築。
「《コード・ギフト:バーストリンク》!」
空間に連結する魔法陣を形成し、一気に魔力を増幅して放つと、地面が爆ぜるように揺れ、ヴィクトールの足元が崩れる。
そこへ――カイが突き込む。
「喰らえ……!」
直撃寸前でヴィクトールが身を翻し、斬撃を受け流すが、肩口に浅い傷が刻まれた。
「っ……ようやく一太刀……!」
「次はもっと深くいくぞ」
呼吸を合わせるリクとカイ。連携は確実に、少しずつヴィクトールを追い詰めていた。
だが、ヴィクトールの瞳はまだ光を失ってはいなかった。
「……では、こちらも本気でいこう。これが、“本当の騎士”の力だ」
「――カイ、まだ持つか?」
「そっちこそな……!」
ヴィクトールの剣圧はなおも衰えず、リクとカイの連携でも対等以上の実力を見せていた。リクは短く息を吸い、再び詠唱を始める。
「《コード・ギフト:ライト・ジャベリン》」
光の槍が創られ、空を裂いて飛ぶ。それを合図に、次々と武器が創られた。
「《コード・ギフト:アイゼンファング》――《フレアバレット》――《エッジ・サイクロン》!」
魔法陣が連続して浮かび上がり、剣、槍、弾丸、斧。様々な武器がリクの手から次々と生み出される。それはまるで、彼の創造力そのものが戦場に具現化しているかのようだった。
「おおおおおおおおおっ!!」
リクの叫びとともに、創られた武器が一斉にヴィクトールを襲う。
カイもすかさず斬撃を浴びせ、連携の一撃がヴィクトールの鎧を裂いた。
「がはっ……!」
確かな手応え。だが――その直後だった。
リクの体がふらついた。
「……ッ、く……!」
膝をつく。視界がかすむ。口元から血が一筋、落ちた。
「リク!? どうした!」
「……創りすぎた。……魔力が……切れかけてる……」
一瞬の静寂。
その隙を見逃すヴィクトールではなかった。
「隙ありッ!」
振り下ろされる剣――カイが咄嗟に割って入る。
「ぐっ……! させるか!」
間一髪の受け止め。だが、衝撃は凄まじく、カイも後退を強いられる。
「くそっ……このままじゃ……!」
リクは必死に立ち上がろうとするが、魔力の枯渇は深刻だった。視界がぐらつき、意識が遠のく。
「まだ……俺は……!」
拳を握る。だが、創造はもうできない。代償はあまりに大きかった。
ヴィクトールの剣がリクに迫る。だが、直前で――
「させるかよっ!!」
カイが踏み込み、地を割るほどの一撃でヴィクトールの前進を止めた。剣と剣が激突し、雷鳴のような音が響く。
「お前の相手は、俺だッ!!」
強烈な一閃を打ち込むと同時に、カイの足元の重力が歪む。封じられていた力を一時的に解放し、周囲の空間に“重圧”をかけた。
「《重力場:グラビティ・シール》!」
ヴィクトールの動きが鈍る。鋼のような腕すら、鈍重にねじ伏せられた。
「今だ、エルナ!!」
その叫びに、エルナは大きく息を吸い、震える手で弓を掲げた。
目の前の敵は恐怖そのもの。だが、その背に仲間の命がある。
「……私の想いを……矢にする!」
感情が高まり、弓が共鳴するように輝く。
リクから授かった、もう一つの切り札――。
「《ルミナ・エクリプス》、発動!!」
白銀と蒼光の矢が生成され、空気が震えるほどの魔力が収束していく。
「これが、私の全部ッ!!」
放たれた一矢は、まるで流星のごとく空を裂いた。
ヴィクトールの胸を、真っ直ぐ貫く。
「……が、あっ……!」
時間が止まったかのように、音が消えた。
そして、次の瞬間――光が爆ぜ、ヴィクトールの体が後方に吹き飛ぶ。
重力場が解け、戦場に静けさが戻った。
エルナはその場に膝をついた。矢を放った瞬間に、体から魔力がごっそり抜け落ちたのだ。
「はぁ……っ……終わった、の……?」
リクがゆっくりと立ち上がり、倒れ込むエルナに歩み寄る。
「……よくやった。まさに、決定的だったよ」
カイも、深く息を吐いて剣を納めた。
「ったく……肝を冷やさせやがって……でも、最高の一発だったぜ」




