襲来
第1章:創造と代償
リクの心は、初めてのスキル創造に浮き立っていた。
歩いても歩いても音ひとつ出ない。まるで自分が忍者になったような感覚に、少年の瞳は輝いていた。
「……他にも作ってみようかな」
リクは再び頭の中にウィンドウを呼び出し、念じた。
《新規スキルを定義してください》
「えっと、“フレイム・ダガー”。炎の短剣を右手に作り出す。1回の使用で5秒しか持たないけど、強力。」
《スキル【フレイム・ダガー】を生成しました》
MP消費:13/残MP:87
制限:使用後、右手に軽い熱傷》
「えっ、熱傷……?」
思わず右手を見つめる。だが、好奇心がそれに勝った。
「やってみるか」
瞬間——リクの右手に、炎を纏った短剣が走るように生まれた。
空気が震え、赤い光が周囲を照らす。まるで小さな太陽だ。
「すげぇ……! これが、俺のスキル……!」
そのとき——
森の奥から、重い足音が響いた。
「……誰か、いるのか?」
警戒して振り向くと、木の影から現れたのは、黒衣の男だった。
仮面をつけたその男は、無言でリクを見つめ、静かに言った。
「確認完了。対象は【スキルクリエイター】……優先排除対象に指定。捕縛開始。」
「は……? なんだよお前……っ!」
男の足元に、漆黒の魔法陣が浮かぶ。
《スキル発動:シャドウ・クロー》
闇の爪が地面を裂き、リクへと襲いかかる。
咄嗟にフレイム・ダガーを突き出した。
炎と闇がぶつかり合い、火花が弾けた。
「な、なんでいきなり襲ってくるんだよっ!」
「貴様のスキルは、世界の秩序を崩す……存在してはならない」
男の目が光る。
「おとなしく捕まるか、消えるか。選べ」
リクは、思った。
(逃げなきゃ。でも、このままじゃ追いつかれる……)
その瞬間、頭の中でまたあのウィンドウが光った。
《緊急スキル作成モードを起動しますか?
MPを50以上消費することで“即席スキル”を生成可能》
「やる……! 作るんだ、今この場を生き延びるスキルを!」
震える指先で、彼は呟いた。
「“フェイク・ダミー”……分身体を一体生み出し、自分の身代わりになる。動きは自分と連動。」
《スキル【フェイク・ダミー】を生成しました》
MP消費:51/残MP:36
制限:使用後、5分間スキル使用不可》
一瞬でリクの姿が二つに分かれた。
黒衣の男がダミーを攻撃する。その隙に、本物のリクは森の奥へと走った。
ゼェ、ゼェ……心臓が破れそうだった。
けれど、彼は確かに生き延びた。そして知った。
自分のスキルは、命を守れる。
だが、それは同時に——命を狙われる力でもあった。
(俺のスキルは、誰かにとって“脅威”なんだ……)
その夜、リクは決意する。
「誰にも奪わせない。これは、俺の力だ。俺だけの——失ってたまるか。」
炎の短剣が、かすかに夜闇を照らしていた。