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交代

飛行艇内部の廊下で、激しい戦闘の末に剣を弾かれ、膝をついたカイの前に、リリスがゆっくりと歩み寄る。


彼女の紫紺の瞳は、まるで勝利を確信しているかのように冷ややかだった。


「もう立てないでしょ? なら、従ってもらうわ」


リリスは小さな手のひらを掲げる。次の瞬間、その指先に黒い魔力が収束し、空中に鍵の形をした紋章が浮かび上がった。


■ スキル発動:《拘束魔印・黒環の鎖》


カイの両手首に、カチャリという金属音が響く。闇の魔力から生まれた漆黒の手錠が現れ、確実に彼の手を封じた。


「くっ……!」


手首を引いても外れない。手錠はカイの魔力に反応して強く収縮し、力を逃がすことすらできない。


「これは、あなたのスキルを“封印”するだけじゃない。魔力の流れを逆流させて、少しでも暴れたら自分自身にダメージが返る仕組みよ」


リリスが微笑みながら手錠を持ち上げる。人差し指で、カイの顎を少し持ち上げ、顔を見下ろすように覗き込んだ。


「ふふ……あとは、エルナとリクが来るのを待つだけ。あなたには“おとり”として働いてもらうわね。ちゃんと役に立ってくれるといいけど」


歯を食いしばるカイは、屈辱を感じながらもその瞳に怒りの炎を宿していた。


「……この借りは、必ず返す……!」


「その時が来るなら、楽しみにしてるわ」


リリスはカイの後ろに回り、魔力の鎖を腰に巻きつけて完全に拘束した。


飛行艇の奥へと引きずられるカイ。


飛行艇の格納庫に、鋭く張りつめた空気が漂っていた。


中央には、拘束されたカイが意識を失ったまま倒れている。その傍らで、リリスとヴィクトールが待ち構えるように佇んでいた。


そのとき——


「そこまでだ」


鋭い声とともに、蒼白い光が差し込む。


リクとエルナが、格納庫の入り口に姿を現した。


リリスは、口元に余裕の笑みを浮かべる。


「やっと来たのね。“英雄ごっこ”の時間かしら?」


リクは返す言葉もなく、まっすぐ彼女たちを見据えて言った。


「その男を返してもらう。僕たちの仲間だ」


エルナも、震える指で弓を構える。


リリスはエルナに視線を移すと、意味深に口元を歪めた。


「弓を持つ姿……少しは覚悟ができたみたいね。でも——」


その横で、ヴィクトールが静かに剣を抜いた。


「戦うというのなら、相応の覚悟を見せてもらおう。こちらも手加減はしない」


リクは短くうなずくと、構えを取った。

彼の掌から、共鳴するような魔力が微かに溢れる。


「エルナ、援護を頼む。タイミングは任せる」


「うん……!」


■ エルナの弓:弱体矢


魔力を込めた矢が、ヴィクトールに向かって放たれる。矢は敵の動きを鈍らせる特性を持つが、ヴィクトールは咄嗟に剣で払い落とす。


「――遅い」


エルナは思わず一歩下がるが、リクがその隙を突いて前に出る。


「まだだ。こっちの狙いは……!」


地を蹴るリクの動きが、一瞬、ヴィクトールの視界から消える。だが、それでもヴィクトールは冷静だった。


二人の間に、剣戟の音が響き渡る。


「……この気迫、以前とは違うな」


「当然だ。守るものがあるからな」


リクの剣と、ヴィクトールの斬撃がぶつかり合う。わずかな隙をつき、エルナの矢がリリスに迫るが、リリスは軽く手を翳して魔力障壁を展開し、それを無効化した。


「甘いわね、エルナ。そんな矢では、私の結界は抜けない」


「でも……これが本番!」


二射目。狙いは足元。着弾と同時に細かな震動を起こし、一瞬だけリリスの足元が乱れる。


その瞬間、リクがヴィクトールを振り切り、カイの元へと駆け寄る。


「……っ、カイ!」


しかし、その刹那——


「逃がさないわよ」


リリスの手が再び上がる。魔力が渦を巻き、発動を予兆させる。


「リク、下がって!」


エルナの叫びが飛ぶ。


だが、リクの目にはすでに迷いはなかった。


「……ここで、引くつもりはない!」


リクとヴィクトールの激しい剣撃の応酬の最中、エルナが矢を放ち続けていたその時――


「……そろそろ“こちら”も出番ね」


リリスの唇が微かにほころぶ。

彼女が指をひと振りした瞬間、空中に魔法陣が浮かび上がる。


■ リリスの術:《アフェクション・バインド》


発動と同時に、宙から無数の銀の手錠が飛び出した。

それぞれに魔力の鎖が繋がれており、生き物のようにしなやかに動いて、標的へと伸びる。


「ッ……!」


リクは剣を振るって一つを弾くが、すぐに別の鎖が足元から絡みつく。


「この鎖は“意志”に反応するの。逃れようと強く思えば思うほど、締め付ける」


リリスは愉悦に満ちた声で言う。

その間も、空中の手錠は幾重にも重なりながら獲物を狙っていた。


「……甘く見るな!」


リクは重力を切り裂くような一閃で複数の鎖をまとめて切断。

だが、切っても切っても次々と襲いかかってくる。


「エルナ、気をつけろ……!」


彼女にも鎖が迫っていた。

しかし、エルナは冷静に矢を放つ。一本、二本――矢が手錠を迎撃し、弾く。


「これで……終わらせる!」


リクは再びスキルを起動する。


■ 即興創造:《コード・ギフト:リンクブレイカー》


生成されたのは、魔力鎖に対抗するために設計された“断絶の短剣”。

その刃は、魔力による束縛を一時的に無効化する。


一閃。

鎖が断たれ、リリスがわずかに眉をひそめた。


「……面白いじゃない」



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