リリス
リクは、荒い息を吐きながら地面に手をついた。
(クソッ……リリスの魔法……強すぎる……!)
まともに受ければ、精神も肉体も削られる。 しかも、放った魔法はすべて必中——避けることも防ぐこともできない。
普通なら、ここで諦める。
でも、リクは違った。
「……」
リリスの放つ魔法。 その一撃一撃が、リクの心に微かな違和感を残していた。
(……何かおかしい)
リクは必死に考えた。
なぜ……攻撃を受けるたびに、無性に「怖くなる」のか?
なぜ……体が傷つくよりも先に、心が負けそうになるのか?
(……もしかして)
リクは、直感で掴んだ。
(あの魔法……こっちの“恐怖”を力にしてる……!?)
汗まみれの顔を上げ、カイを見た。
「カイッ!」
「……ああ! わかってる!」
リクが言葉にする前に、カイも感じ取っていた。
リクとカイ。
戦いの中で互いに掴んだ、確信。
「怖がったら負ける……!」
リクは拳を強く握った。
「恐怖に飲まれたら……あいつの思うツボだ!」
カイも鋭く頷く。
「だったら、恐れねぇ!!」
◆
リリスは彼らの異変に気付いた。
「……?」
少年たちの“心の波動”が、静かに変わっていくのを感じたのだ。
これまで浴びせた魔法は、必中であり、肉体だけでなく精神を削る。 だが今、リクとカイから感じるのは——
(恐怖が、薄れている……!?)
リリスは焦った。
彼女の《絶対魅了魔術・ルクスリア》は、対象の「恐怖」を吸収し、それを魔力に変換していた。
恐怖がなければ、スリックダメージも必中効果も急速に失われていく。
「まさか……そんな、そんな……!!」
◆
リクとカイは、叫びながら走った。
「ビビってる場合かよ!!」
「負けるもんかッ!!!」
リリスが放った魔弾を、受けながらも、彼らは怯まない。
それどころか——今までのような絶望的な威力は感じなかった。
リクとカイの猛攻に、リリスは明らかに動揺していた。
「……ッ、ふざけないで……!」
恐怖を糧にしてきた彼女の魔法が、いま、通じなくなっている。
支配と絶対必中の呪いが、二人の“意志”によって徐々に崩されつつあった。
リクは叫ぶ。
「エルナを返せ!!!」
カイも続く。
「これ以上、好き勝手やらせねぇ!!」
リリスの目に、初めて焦りの色が宿った。
しかし――彼女は、次の瞬間、にやりと笑った。
「……仕方ないわね。なら、最終手段」
リリスは、胸元に指を這わせる。
露わになった肌には、黒く不吉な紋章が刻まれていた。
(あれは……!?)
リクとカイは、直感で“危険”を悟った。
リリスが紋章に指を滑らせると、それは淡い光を放ち、闇の波動をまき散らす。
■ 契約スキル発動:《黒の契約》
──代償として「魂の一部」を捧げ、禁断の力を解放する。
リリスの身体から、真っ黒な翼が生えた。
同時に、その魔力は一気に跳ね上がる。
(魔力量が、さっきまでの……数十倍!?)
リクが驚愕する。
ただの精神支配の魔術師ではない。
リリスは、極めて危険な“戦闘形態”を隠し持っていた。
リリスの赤い瞳が、冷たく光る。
「これが私の本当の姿よ……怯えていいのよ、坊やたち?」
彼女の声には、甘美な毒が含まれていた。
◆
■ 《黒の契約》の効果
・魔力量大幅上昇
・あらゆるスキル効果に対する耐性付与
・恐怖に関係なく、魔法必中
・さらに、肉体再生能力を獲得
その代償は、「自身の寿命を削ること」——だが、いまのリリスにとってそんなものは問題ではなかった。
「エルナは渡さないわ。絶対に。」
バサァッ!!!
黒翼を広げたリリスが、音速を超える突撃でリクとカイを吹き飛ばす!
(まずい、このままじゃ……!!)
リクたちは、再び絶体絶命の窮地に追い込まれる。
しかし、彼らの目から、決して光は消えなかった。
(立ち向かうしかない……!)
リクとカイは、すぐに立ち上がり、再び武器を構える。
彼らはまだ、戦う意志を捨てていなかった。




