ひとときの休息
ヴィクトールとの初戦をなんとか凌ぎ、リクたちは森の奥深くに身を潜めていた。
燃え尽きた篝火のそばで、リクとカイが武器を手に向き合っている。
互いに、今日の戦いを思い出しながら、無言の稽古を繰り返していた。
しかし──
「……ねぇ、私、ただ見てるだけでいいの?」
静かな声が、篝火跡の向こうから聞こえた。
エルナだった。
両手をぎゅっと握りしめ、小さく震えている。
「わたし……また、助けられただけだった」
リクも、カイも、顔を上げた。
エルナは、強い目をしていた。
あのとき、教会で出会ったときよりもずっと。
「私にも、できることがあるはずなの。
感情を読むだけじゃない、私なりの“戦い方”が──!」
リクが静かに立ち上がった。
「エルナ」
彼はゆっくりと、彼女に歩み寄る。
「君は、俺たちよりも……誰よりも、“人の心”がわかるんだろ?」
エルナはうなずいた。
「だったら──」
リクは手を差し出した。
「“心の流れ”を読み切って、俺たちを導いてくれ。
未来を、読み取る目になってくれ」
エルナの目が、みるみる潤んでいく。
でも、それは弱さの涙じゃなかった。
「……うん、わかった」
彼女はリクの手をぎゅっと握った。
そのとき──リクの中で、また新たなスキルが閃いた。
《スキル創造・発動:リンク・インサイト》
【リンク・インサイト】
――感情感知者と連携し、リアルタイムで敵味方の心理状態・集中度・不安定さを共有するスキル。
発動条件:信頼関係の構築
制限:共有負荷により、一定時間後に反動(疲労)が発生する
リクとエルナの間に、淡い光の帯が繋がる。
エルナが目を閉じた瞬間、彼女の周囲に──色とりどりの感情の波が可視化された。
怒り、恐れ、勇気、不安。
すべてが、音のように広がっていく。
「見える……リク、カイ……二人とも今、怖がってる。
でも、それ以上に“戦いたい”って気持ちが強い……!」
カイが驚いた顔をした。
「……おい、マジかよ。そんなもんまでわかるのか」
エルナは小さく笑った。
「だから、私は教えるよ。
“今だよ”って。
“ここで動いて”って。
“危ないから避けて”って」
リクとカイは顔を見合わせ、うなずいた。
「頼りにしてる、エルナ」
「おう、チームだもんな」
そして、再び三人は、月の下で立ち上がった。
それぞれが、自分にできることを見つけた。
それぞれが、まだ見ぬ強敵たちに立ち向かうために──。
──その夜。
エルナは小さな祈りを捧げた。
(私はもう、逃げない。
誰かの心に怯えるだけの私じゃない。
リクとカイと、共に生きるために──戦う)
遠い空。
《オーダ・セラフィム》の本部では、次なる刺客が準備を進めていた。
運命は、確実に動き始めている。




