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洋館事件⑧

 俺たちは浴場に到着した

 なんだか独特の匂いがする。

 恐らく入浴剤の匂いだろう。


「リスネ、いるのは分かっている!」


 返答はすぐになかった。

 少しの間、沈黙が流れる。


「リザちゃん、私たちはハヤテさんを捕獲する為に共同戦線を組んでいたんだじゃないの?」


 湯気の向こうから声がした。


「そんなもの、組んだ覚えはない。私は全員を出し抜いて、ハヤテを独り占めするつもりだった」


 ……おい!

 リザ、本当に正気に戻っているんだろうな!?

 最後に裏切らないよな!?


「ふふふ、そうね、リザちゃんは初めから裏切るつもりだった。香さんは欲望に支配されていたし、ローランは理性が残っていたから扱いづらい。ナターシャたちはあの状態を使いこなしていたみたいだし、手を組みづらかった。結局、全員、信用できなかったのよね」


 リスネさんは裸の姿で湯気の中から登場した。

 さすがに目のやり場に困る。


「リスネさん、降伏してくれ。君でも俺たち三人を相手にするのは厳しいはずだ」


「そうね、私一人じゃ勝てないわ」


 リスネさんは不敵に笑う。


「じゃあ……」


「誰が一人だって言ったのかしら?」


「えっ? 何を言っているんだ。もう感染者はいないはず……」


 バシャン、と何かが風呂から出る音がした。


「アイラお婆ちゃんは自分の角の効能は、自分自身には効かないと思っているみたいだったけど、それは体の表面に魔法で防壁を作っているからよ。魔法が使えなければ、効果を受けるわ」


 よろよろとアイラが歩いて、現れた。

 様子を見る限り、入浴剤の効果を受けている。


「だとしても、魔力の無いアイラじゃ……」


「しまった……」とリザが言う。



 嫌な予感がする。



「意識がまだぼやけていて忘れてた。私、リスネに言われて、アイラの首輪に炎の魔力を流した」


「えっ、それって、そういうこと?」


「あとは少し魔力を加えれば、外れる。こんな風に……!」


 リスネさんはアイラの首輪を外してしまった。

 フラフラだったアイラに力が戻る。

 

「さぁ、やっちゃいなさい、アイラお婆ちゃん!」


「まったく酷い娘じゃの……」


「えっ、なんで……!?」とリスネさんが悲鳴を上げる。


 アイラはリスネさんの頭を鷲掴みにした。


 直後、リスネさんの嬌声が浴場に響いた。


「上手くいったみたいじゃの」


 えっ、何をした!?


「アイラの奴、私が香にやるみたいにリスネの体の表面に魔力を流した」


 リスネさんは座り込み、体をビクビクさせる。


「まったくのぉ、酷い目に遭ったものじゃ」


 アイラはいつもの口調で話す。

 首輪をしていない以外はいつも通りのアイラだ。


「アイラ、手錠は大丈夫なの?」


「大丈夫なものか。こいつのせいで魔力が半減したままじゃ」


 半減したまま、って普段は十分の一の魔力だから、それを考えると2・5倍じゃないか。

 

「まぁ、とにかく良かったよ。これで……」



「子作りというものに挑戦してみようかの?」



「………………」


 あ~~、俺は疲れているみたいだ。

 とんでもない幻聴が聞こえる。


 そうだ、幻聴に決まっている!


「アイラ、あなたは大丈夫よね?」

 シャルは願うように言う。


「アイラ、首輪をもう一度、嵌めろ!」

 リザが弓を構えた。


 それに対して、アイラは…………


「青年の童貞を奪った後でならよいかの」


 狂気に満ちた笑いを浮かべた。


 最悪だ!

 いや、最悪じゃない。

 まだ魔力は半減しているから…………


「これは煩わしいのぉ」


 アイラは躊躇いなく、手錠をされている方の手首を斬り落とした。

 そして、手錠を外すとまるで当然のように手首をくっつけて、元に戻す。


 そうだった。

 アイラはこれくらい出来るんだ。

 なんだったら、斬り落とされた腕ぐらい再生する。

 規格外の存在だ。

  

 そして、そんなアイラのリミッターが全て外れた。

 

「さて、もう一回、お仕置きをしておこうかの」


 アイラはまたリスネさんの頭に手を当てた。


「や、やめて頂戴、そんなのもう一回、やられたらトんじゃう……」


 リスネさんは懇願するように首を横に振るが、


「トぶがよい」


 慈悲はなかった。


 リスネさんは嬌声を上げ、気絶する。


「なんて酷い奴だ。よくそんなことが出来るな!」

 リザがアイラを非難する。


「…………」


 リザ、香が憐れな姿(全裸)のまま廊下で気絶している理由を知っているかい?

 いや、さすがにタオルぐらいはかけて来たけど……

 それはそれで死体みたいになっているんだよなぁ……


「とにかく逃げろ! あんなのと屋敷の中で戦ったら、屋敷が崩壊する!」

 リザが叫んだ。


「儂が逃がすと思っておるのか?」


 それはごもっともな意見だ。

 どうやって逃げようか。


「私が時間を稼ぐ」

 リザが言った。


「馬鹿言うな。一緒に逃げるぞ!」


 リザは頭を横に振った。


「実は私、入浴剤の効き目、完全に切れてない。このままだと、ハヤテを襲うかもしれない。それは嫌だ。三十秒は稼ぐ。だから、アイラなんかに負けないでくれ」


 リザは微笑んだ。

 そして、俺たちを脱衣所に押しやり、一人、浴場へ残った。


「リザ……畜生……! 君の犠牲は無駄にしない……!」

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