初めての拒絶
「あれは……」
俺たちがタオグナの近郊まで帰って来ると街を背に布陣している軍を発見する。
見ると俺たちに気付いて、弓矢を構えている人たちがいた。
「なんじゃ、敵と味方の区別も出来んのか? どれ、一発かましてもいいかの?」とアイラが言う。
「駄目に決まっているだろ!」
俺たちは軍から少し離れた場所に着地する。
「アイラ、これ」
俺はアイラに大人用の服を渡した。
「どうじゃ、ハヤテ、こっちの姿ならおぬしの倫理観も問題ないじゃろ? アンペンダープが来るまで時間がある。子作りに励まんか?」
「馬鹿なことを言ってないで早く服を着ろ! フィールレイに襲わせるぞ!」
「えっ、襲っていいのか!?」
冗談だ、と言おうとした時、フィールレイはアイラにル○ンダイブをかましていた。
「何をするんじゃい!」
アイラはフィールレイを容赦なく蹴り飛ばす。
それでもフィールレイはめげずに
「大丈夫、アイラ、自分で言った。あの巨神兵が来るまでには時間がある!」
「おぬしに言ったわけではないわ!」
フィールレイはもう一度、蹴り飛ばされる。
……フィールレイ、戦闘中はまともなのになんで普段はこうなんだろう……。
「まったく、仕方のない奴じゃ……冗談はこの辺にして、軍の所へ向かいぞ」
アイラの言う通りだ。
俺たちは軍の布陣しているところへ行く。
「ハヤテ殿!」
スタンレスさんが出迎えてくれた。
「あの巨神兵はどうしましたか!?」
「パトラティアのおかげで一旦、動きを止めました。でも、また動き出すでしょう」
俺が説明するとスタンレンさんは暗い表情をする。
「叔父様、どうしてここに?」
パトラティアと同意見だ。
ここは間もなく戦場になる。
一国の王がいるべきではない。
「こうなったのには私に原因がある。この窮地に兵を残して、私が逃げるわけにはいかない。民には逃げるように言ってあるが、タオグナの周囲は砂漠だ。文明の力も無しに生きていける環境ではない」
要するにタオグナが落ちれば、多くに人が砂漠を彷徨った挙句、死ぬことになるということか。
「ハヤテ殿、身勝手なことだとは分かっているが、タオグナを守ってくれませんか? 報酬は望むだけ出します」
スタンレンさんが頭を下げる。
「一国の王が冒険者に頭を下げないでください。守りますよ。ここを失ったら、南大陸は秩序を失いますからね」
「英雄ハヤテ、レイドアの次は共生都市タオグナを救う、と言ったところじゃろうか」
アイラがからかうように言った。
「まったくもっと穏便に終わらせたかったよ。…………みんな、ちょっと良いかな?」
俺はリザたちを集めた。
「正直、リントブルムでもあの結界を全て打ち破るのは難しいと思う」
それを聞いたみんなは沈黙した。
「だから、内側でリントブルムを召喚して、結界内から『アブソリュートストリーム』を放って、巨神兵の核を破壊しようと思うんだ」
「内側、一体どういうことだ?」
リザには俺の言っていることが分からないようだった。
「それは危険じゃ」
対して、アイラは理解する。
「でも、これが確実だ。俺が結果の中に入って、リントブルムを召喚する」
結界が魔力の無いものを通すなら、魔力を持たない俺だって通れるはずだ。
「そんなの駄目だ!」
理解した瞬間、リザは叫んだ。
「結果の中に私たちは入れない。誰もハヤテを守れなんだ!」
リザは俺の腕を引っ張った。
「リザ、危険なのは分かっている。でも、ここで食い止められなかったら、多くの人が死ぬことになるんだよ」
「もし、普通に戦って駄目だったら逃げればいい! ハヤテは自分のことを英雄じゃないって言っていた」
「リザ、君は重要な局面で逃げるような男をこれから先も信用できるかい?」
「する! ハヤテが何をやっても私は好きだ。だから、やめてくれ!」
どうもリザは折れてくれそうにない。
「リザ、止さんか。ハヤテが決めたんじゃ」
「アイラ、なんで止めない!?」
リザがアイラに詰め寄った。
「実際、あの巨神兵を倒すには無茶が必要じゃろう」
「ハヤテだけが無茶をする必要はない!」
「じゃが、この無茶はハヤテにしか出来ん! 代役も共闘も出来んのじゃ!」
リザとアイラは本気の口論をし始めた。
いつもみたいなじゃれ合いじゃない。
「止めてくれ。今、言い争っている時間はない。リザ、頼む、分かってくれ」
「ナターシャ、お前は反対だろ!?」
「私はハヤテの決定に従うわ」
ナターシャにも裏切られて、リザは悲痛の表情になる。
「じゃあ、パトラティアは? フィールレイは!?」
リザは味方を探すが、誰もリザの言うことに賛同しなかった。
それを見て、リザは体を震わせる。
「リザ……」
俺はリザの頭を撫でようとした。
しかし、リザはその手を払い、拒絶する。
「!?」
俺は咄嗟に何も言えなかった。
リザが拒絶することを考えていなかった。
「あっ…………ごめん」
俺の表情を見たリザが咄嗟に言う。
「い、いや、大丈夫だよ」
と言ったものの俺は自分で驚くほど傷ついていた。
「さて、少しは時間があるでしょ? 何か作るから、器具と食材を出してくれる」
ナターシャが言う。
どうやらナターシャに気を使わせてしまったらしい。
ナターシャが作ってくれた料理を食べている間、空気は重かった。
「リザ、俺は…………」
「もういい、誰もハヤテを止めない。私だけ反対しても無駄だ」
リザが完全に心を閉ざしてしまった。
「安心しろ。ハヤテの作戦が上手くいくように私は全力を尽くす」
リザがこんなに冷たい声で俺と話すのは初めてだ。
リザはそれ以上、何も言わなかった。
多分、今は何を言っても駄目だろう。
この戦いが終わったら、謝ろう。
俺はそう気持ちを切り替えて、スタンレンさんに作戦を伝えた。
「だが、危険ではないですか?」
とスタンレンが言う。
「それは承知しています。でもアンペンダープを倒す為にはそれくらいしないと無理だと思います」
リザ、アイラ、フィールレイが全力で攻撃して、アンペンダープ自体には傷一つ付けられなかった。
たとえ、リントブルムでも勝てる保証はない。
それにリントブルムが魔王と戦って、負けた姿が今でも脳裏に焼き付いている。
魔王ほどではないにしても、今回の敵が魔王以来の強敵であることには間違いない。
俺自身が少しは頑張らないと…………
「分かりました。では、我々がすべきことはハヤテ殿が結界内へ突入する隙を作る陽動ですね」
スタンレンさんの言葉に俺は頷いた。
「アイラ、フィールレイ、申し訳ないんだけど、結界の傍まで俺を守ってくれないか?」
二人は「任せろ」と言ってくれた。
「…………リザも攻撃から俺を守ってほしいんだ」
俺が少し遠慮気味に言うと、リザは視線を合わせずに「分かった」と言った。
「安心せい。リザはちゃんと仕事をする」
心配そうにしている俺にアイラが声を掛けてくれた。
「うん、そうだね」
大丈夫、全部が終われば、元に戻るんだ。
こんな戦い早く終わらせる。




