急転
「遺跡の見学だって?」
「ええ、そうなの、闘狼人族のラウルさんからの願いで見てみたいんですって」
俺たちの宿舎へやって来たパトラティアが言う。
交渉開始から三日、大きな取り決めは全てが終了した時だった。
「妙じゃ、あのラウルとかいう男、歴史に興味があるようには見えんがの」
アイラが言う。
それに関しては俺も同意見だ。
しかし、俺たちの心配とは裏腹に国王であるスタンレンさんは遺跡の見物を快く承諾したらしい。
「叔父様はせっかく友好的になっている闘狼人族と亀裂を入れたくないみたいなのよ」
パトラティアの表情が一瞬、曇る。
「叔父様は少数の兵士か同行させないつもりみたいなのよ。もしもの為にハヤテたちも一緒に来てくれないかしら?」
パトラティアは遺跡に行くことへ対して、少し不安があるようだった。
「同行するのは別に構わないよ。…………パトラティア、ちょっと良いかな?」
俺に声を掛けられるとパトラティアは笑顔で「何かしら?」と言う。
「あの遺跡群には秘宝以外の秘密が隠されていたりしないかい?」
この時、パトラティアが少しでも狼狽えたら、俺は何かに気付けたかもしれない。
しかし、パトラティアは、
「そんなものないわよ」
とあっさりと自然に答えた。
「…………そうかい」
パトラティアの態度を見て、俺はそれ以上、追及することが出来なかった。
「アイラ、どう思う?」
パトラティアが帰った後、アイラに聞いてみた。
「分からんの。人の上に立つ者というのは嘘を平然と言えるものじゃよ」
アイラの言葉に納得してしまう。
納得するということは、やはり俺の中で何かの違和感を覚えているということか。
「だとしてもじゃ、儂らがおれば、闘狼人族共も下手な動きは出来んじゃろ」
アイラの言う通りだ。
竜人族の存在が大きな抑止力になるだろう。
「でも何も起きらなければ、それが一番いいよ」
次の日、俺はリザ、アイラ、ナターシャ、フィールレイと一緒にスタンレンさんが用意してくれた馬車で遺跡へ向かっていた。
パトラティアだけはスタンレンさんたちと同じ馬車に乗っているのでいない。
リザたちにも俺やアイラが思った違和感のことは伝える。
「任せておけ、何かあったら私が止めるぞ」
リザが弓に手を当てながら言う。
「最近の食べ過ぎで鈍っていなければいいがの」
アイラがチクリと言った。
「なんだと!?」
リザが食って掛かり、二人は言い争っているが、まぁ、いつものことなので俺もナターシャもフィールレイも止めない。
それにフィールレイはずっと外を見ていた。
「どうかしたかい?」
「いや、気になってな。ハヤテ、前回、遺跡に行った時、こんなところを通ったか?」
フィールレイに言われて、俺たちは顔を見合わせる。
外を見るといつの間に他の馬車がいなくなっていた。
「おい、ハヤテ……」
リザが深刻な表情をする。
「危機感が欠如していたよ…………」
思えば、レイドア攻防戦以降はずっと平和だった。
平和ボケしたらしい。
こんなことにも気付けないなんて……
「おい、馬車を止めてくれ!」
しかし、馬車は止まらない。
「何かに摑まるんじゃ」
アイラはそう言うと馬車を操っている人に襲い掛かった。
馬の悲鳴と衝撃の後、馬車は停止する。
「アイラ!」
俺が馬車の外に出るとアイラは騎手の首を掴んでいた。
「こやつは……」
その手をすぐに放す。
騎手の男は力なく地面に倒れた。
「殺したのか?」
「殺してはおらぬ。それにこの男は操られていただけのようじゃ。服従の魔法の痕跡が残っておった。なぜ儂らをこんなところに連れてきたのか……それは考えるまでもないの」
アイラの言葉通りだ。
何か良くないことを考えている奴らは竜人族の力を警戒したのだ。
だとしてら、事件が起きているのは遺跡だ。
「あやつ、やはり何かを隠していたのではないかの」
アイラの言う「あやつ」とはパトラティアのことだろう。
悔やむこともある。
色々と考えたいこともある。
でも今は……
「ワイバーンを召喚!」
早く遺跡に行くべきだろう。
「みんな、遺跡に急ぐぞ!」
ワイバーンは俺たち全員を乗せて、浮上する。
「誰か遺跡の方向は分かるか!?」
ここが森ならリザが頼りになる。
しかし、植物の少ない砂漠ではリザの索敵能力もいまいち力を発揮しない。
「向こうだ」とフィールレイは方角を示す。
「間違いないか?」
「間違いない」
それを確認すると俺はワイバーンに指示を出した。
ワイバーンは遺跡に向かって飛んでいく。
「間に合えばいいけど…………」
ワイバーンは俺やナターシャが振り落とされないギリギリの速度で飛んでくれた。
遺跡群が見えた時、何も起きていて欲しくない、という俺の願いは叶わなかったことを知る。
無惨に破壊された馬車が散乱していた。
人影もある。
しかし、怪我人ばかりのようだった。




