【第一章】 6話 脱出の算段
何が起きているのかセラは理解できなかった。
まさか自分を氷付けにする能力ではあるまい。
だとすれば誰が…?
「何を呆けているの。早く立って。」
冷たくも凛々しい声が響く。
リオンだ。その後ろにはシャーロンもいる。
「リオン!どうしてここに…?それにどうやって…。」
「詳しいことは後で。行くわよ。フランも外で待ってる。」
外に出ると気付いたフランが慌てた様子で駆け寄って来た。
「大変です!ここの職員さん達がこっちに来てます。三人ほどは出入り口の方にも…。」
「思ってたよりも動きが早いな。何か異変があれば即座に他の職員にも伝達されていたってことか…。」
シャーロンが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「どうなってるの!?みんな何してるのか教えてよ!」
セラは叫んだ。当然だ。さっきから訳のわからないことばかりだ。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。苦しくて苦しくてたまらない。
リオンが口を開けた。
「移動しながら説明する。フランは職員達の動向を探知して出入り口までの道案内をお願い。」
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最初に気付いたのはフランだった。
セラと施設長が向かった方向が説教部屋だと伝えるとシャーロンはすぐにセラを助けだそうと主張した。
「前からあの部屋はおかしいと思ってたんだ!出てきた奴ら,全員別人みたいになっちまう。」
「そうね。でも今騒ぎを起こしても事態は悪化する。セラを助け出せてもこの施設を抜け出せない限り最悪,四人まとめて説教部屋送りよ。」
「じゃあセラを見捨てんのかよ…!別人みたいになってもいいのかよ!」
「仮にそうなってもまだやりようがある。私たち全員がそうなってしまうのが一番最悪な状況よ。」
シャーロンがリオンを睨み付ける。
リオンもそれを冷たい眼差しで見つめ返す。
フランは二人の気持ちが痛いほどわかる。
シャーロンはセラを助けたい,リオンはみんなのことを助けたいのだ。
友達を思っての対立だ。
だがここで争っても悲しい結果にしかならない。
フランは口を開いた。
「セラさんを助けましょう。そして私たち四人だけでも施設の外に出てこの事を知ってもらうのです。」
「そう簡単に信じてもらえるとは思えないけど。」
「それを外で考えるんです。ここではできることは限られています。それに…。」
フランがうつむく。
「みんなを助けられてもセラさんが別人みたいになっていたら……,私はきっと会うたびに後悔します。」
「……。」
静寂はほんの僅かだった。だがフランにはとても長い時間に思えた。
「…じゃあどうやってセラを助けるの?」
「…来るんだな?」
「どちらにしても三人揃わないと成功しないわ。二人がセラを助けたいと言うなら私もそうさせてもらう。」
「相変わらずややこしい性格だな…。じゃあ早速救出作戦を考えなきゃな。」
「それなら考えがあります。」
作戦はこうだ。
シャーロンは障壁破りが得意だ。恐らく説教部屋の扉には特殊な障壁か術が付いているだろう。だからこれを解いてもらい,中の様子を伺う。
その後,状況に応じてリオンの氷の能力を使い,中を制圧してセラを保護する。最後は騒ぎになる前に見張りをどうにかして出入り口から脱出するというものだった。
リオンは難色を示した(特に脱出のあたり)が時間もないのでとりあえずこの作戦で行くことになった。
結果的に救出作戦はうまく行ったのだが…。
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「で,今の状況。」
四人は出入り口そばの草むらの陰にいた。
セラも話を聞いているうちに,だいぶ心も落ち着いてきた。
「穴だらけの計画ね…。」
でもその計画のおかげで助かったのだ。
「さっきは大声を出してしまってごめんなさい…。そしてありがとう。」
「感謝なら全て終わってからにしなさい。」
リオンの視線の先には出入り口の門がある。
そこにはいつもの見張りが二人いた。
いずれも強力な能力者のはずだ。
「フラン,こちらに向かってるという職員は?」
「まだ少し離れています…。でもそんなに余裕は…。」
「じゃあすぐに片付けないとな。」
「待って。」
セラがはやるシャーロンを制する。
「私にいい考えがあるの。託してくれない?」