12.バルコニーでは…。
王城で舞踏会が開かれていたその夜、バルコニーで男二人が何やら言い争っている。
先ほどまで、ここにいた公爵令嬢イリューリア・エルキュラートの事で揉めているのである。
「馬鹿だなぁ~、ローディ王子よ!お前、要するにイリューリア嬢はお前に嫌われたと思ってあんな風に自分に自信が持てなくなったって訳だろう?言ってしまった事は仕方がないにしても何ですぐに訂正して彼女が納得できるまで謝らなかったんだ?」
「直ぐに謝ろうとしたさ!彼女の屋敷にも何度も行ったが会わせてもらえなかったんだ」
「だから馬鹿だって言うんだ!俺だったら無理やり忍び込んででも彼女に会って言うね!ホントはお前の事が、可愛くて好きすぎて閉じ込めちゃいたくなるくらい好きな自分が怖くなってあんな事言っちゃったんだってな!」
「な、何を!」
「あ?違うのか?」
「ち!違わないけど、そんな事言ったら彼女に嫌われるじゃないか!」
「本当に呆れるくらい馬鹿だな!王子よ!お前が気にしているのは自分が嫌われるって事だろう?少なくとも俺だったら自分が嫌われるより彼女が自分に自信がなくなってしまう事の方がよほど嫌だね!」
「…っ!」ローディ王子はこの叔父の遠慮もクソもない言い様にぐうの音もでなかった。
ザッツは、例え相手が王であろうが王子であろうが容赦ない物言いをする。
しかも王子である自分を“お前”呼ばわりである。
相手の身分によって態度を変えることがないのは不敬ではあるが父である国王が逆にそれを信頼できると許容しているので自分がそれを咎める事はできない。
昔一度、国王である父にザッツの自分への物言いが偉そうで不敬だと言いつけると「其方の方こそ叔父に対する敬いを持て」と逆に叱られた事があった。
父も認めるこの男がローディ王子は正直苦手だった。
自分の方が身分も高く容姿も整っているのに、この自信過剰で尊大な男に敵わない…そう思わされてしまうのである。
これが他の者なら牢にぶちこんでやるのに!と内心、憤慨していた。
「少なくとも、お前が直ぐに自分の気持ちを告げていたのなら、お前は節操のない奴だと嫌われたとしても彼女がいつまでも引き摺るほどには傷つかなかった筈だ!お前の最大の過ちは、彼女の誤解を解かぬまま、謝る事を諦めて放置した事だ!」
「それは…そう…だけど」
ローディは過去を振り返って思った。
あの時は、本当は好きなのに自分に会ってもくれない彼女を逆に腹立たしく思う気持ちを少なからず持っていた。
嫌われたと落ち込みもした。
自分の方が可哀想だとすら思っていたかもしれないと、あの時の想いを思い返した。
そしてそのまま逃げるように隣国に留学に出たのである。
「まぁ、それにしたって、あれは異常だけどな?お前の事がきっかけにしても、あんなにも美しいのに自分を冴えないとか壁の花になってしまうとか思う事なんてあり得ないだろう?」
叔父のその言葉にローディ王子は驚いた。
彼女は自分に怒って嫌って自分を避けているのだとばかり思っていたが違うのだろうか?
そう言えば彼女は私ごとき者が王子殿下のお目を汚してしまい申し訳ない…とか何とか、いやに自身を卑下したような言葉を並べていたような…それこそ彼女に似つかわしくない事を言っていたような気がする。
「そんな事を彼女が?まさか?本当にあり得ない!彼女が姿を現わした時、彼女の美しさやはにかむ姿の愛らしさを賞賛する声で溢れていたのに?」
「…彼女の耳には届いてなかったようだな」
「僕のあの言葉が原因で?大嫌いだなどと…本当は露程も思っていなかったのに…」
今さらながら、自分の失言に後悔をし、表情を歪ませた。
「まぁ、まて…もしくは、その事をきっかけにして、彼女に彼女自身に価値がないかのように思いこませた何かがあったのかもしれんがな…」
「何かって…何が?」
「知るか!お前を庇うつもりは全くないが、ちょっとそう思っただけだ。だが、きっかけは、間違いなく王子よ!お前の失言からだろうな!」
イリューリアを想う男二人は、そんな事をバルコニーで話し込み、その後、どちらがまた彼女をダンスに誘うかで言い争っていた。
二人は、その間にイリューリアが国王夫妻への挨拶を済ませ、さっさと退出し帰ってしまった事など知る由もなかった。




