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大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
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【e1m22】ゲーミングマウス

ごめんなさいまた間が空いてしまいました。ラストの詰めをどうするか悩んで、気晴らしに次の巻のバカイベントを書いていました。

 ウルトラハイエンドPCを自作し、高速ネット回線を引き、LANケーブルをはわせる手伝いもした。それでも、桜さん(・・・)は、俺のPCの方が狙いやすいし、長時間集中できるし、レートも良いと言う。

「なんで? うちの洗濯機の方が、このお古より速いのに……」

 このクソウゼー女は、小1時間ほどプレーした後、真剣に考えていた。ムカつくわ、人のPCディスりやがって。奴は、今一度環境を眺め回した。そして、とうとう俺のマウスに気がついた。別に隠しているわけじゃねーが、周辺機器も、全てゲーマー向け製品で揃えている。

「このマウス、すっごい派手に光っているのね」 

「ゲーミングマウスだからな」

「え⁉︎ なにそれ⁉︎」

 桜さんは、マウスをひっくり返して、メーカーや型番を確認し始めた。

「ゲーム用高性能マウス」

「高性能って、どう違うの?」

「さっき自分で言ったろ。エイムが狙いやすいとか、長時間集中できるとか」

「わかる! 手になじむし、スッと合わせられる。それにポインタ飛ばないし!」

 どうやら、モヤモヤの原因がわかったようだ。しっかし、論戦してるわけじゃねーからデシベル下げろよ。うるさくてしかたねー。

「どこに売ってんの⁉︎ てか、どーして一緒に勧めてくれなかったの⁉︎」

「あのなぁ、オメーみたいな初心者には無用だ。こんなのはコアゲーマーが買うんだぞ。それに高けーし」

「アタシもコアでしょ⁉︎ それに金の心配はいらんて言ったじゃん?」

 俺さぁ、こいつがどこまで本気かわからん。今までゲームというゲームをしなかった女子中学生が、急に親の金でゲーム用マシンを組むのも驚きだが、周辺機器までゲーミング用を拵えようとしているんだぞ……。この浅はかな女は、数ヶ月後別の流行ごとにお熱になっているに違いねーよ。俺も羨むハイエンドPCは、埃かぶっているぜ。

「はぁ……」

 ひょんなことから目をつけられ、家まで押しかけられ、共通の話題を作るため、同じ趣味を“無理に”持ちやがった。こいつが親を散財させているとはいえ、俺も加担しているようで忍びない。

「なんなのその顔? こーいうの買い揃えれば、強くなれるっしょ? 今すぐ買うっ!」

「いいお客さんだよ、全く。勝手にしろ。けど買ったからといって、確実にレート上がるわけじゃねーからな。クレーム出したり、悪評をばらまくんじゃねーぞ」

「大丈夫! アタシは伸び代大いに残っているから、成績は右肩上がりっしょ!」

 呆れた。自分で言うか、そんな事……。

「というわけで、またアドバイスを頼むよ、大宮クン!」

「嫌です。もう俺と関わらないでください」

 どうやらPCを組み立ててやったら、縁を切るわけにはいかないようだった。


「じゃあ、マウス選定会議を開きまーす」

 なんで毎日毎日、このうるせー女と顔を合わせなきゃならんのだ。はぁ……さっさと終わらせて家から叩き出そう。

「はいはい。で? 検討している候補を見せろ」

 桜さんは、プリントした紙を差し出した。有名な機器メーカーの製品紹介ページで、ボタンが10個あるマウスじゃん。

「なぜこれを?」

「ほら、FPSってたくさん武器使うでしょ? 全部ボタンに割り当てたいの。あと“しゃがみ”とか“ふせ”とか“スプリント”とか、とにかく全部。左手をWASDから離すのがヤなの」

 大抵のFPSプレイヤーは、WASDを移動(ストレイフ)キーにしている。例えば、FやGに別の機能を割り当てているとしたら、その操作中は右移動ができない。つまり、とっさの反応ができない、ということだ。

「これさぁMMO用だろ?」

「たくさんの人が集まるゲーム?」

「FPSメインに遊ぶなら、それにあつらえたのがいいんじゃね? 移動キーから指を離したくねーってのはわかるがな」

「でも……」

「多数ボタンに慣れてしまうと、普通のマウス使えなくなるぞ」

 桜さんはそのプリントを投げ出し、別の候補を見比べ始めた。う〜んと声をひねり出す彼女は、あたかもゲーマーの重要分岐点にいるようだ。しばらくして、手に持っていたプリントを全部投げ出した。

「あ〜! スペック見てもぜんっぜんわかんないっ! もーこれでいい。一番高いの買えば間違いないでしょ? え⁉︎」

 ある意味真理だ。しかし、初心者が多機能高性能品を手に入れても、使いこなせなかったら無駄だ。

「落ち着けバカ。今のテメーがスペックの細部まで比べる必要はねーよ。どんな機器でもそうだが、見るべきポイントがあるだろ」

「じゃ最初に言ってよ! もったいぶって!」

 なんで怒られるんだよ、ちくしょう。フローリングに散らばったプリントをぶんどると、改めて吟味し始めた。

「あーわかったわかった。これでしょ? DPIとかいう数値が高ければいいんでしょ? それとも、レポートレートが高い方?」

 もうね、適当に目についた用語をチョイスしてるだけだろ、このバカ。

「はぁ。マウスで重要なのは形だよ、形」

「カタチィ?」

 諸機能やスペックではなく、最も基本的なことを指摘され、訝しげな顔をした。

「大きさや持ち方が合わなかったり、クリックが重かったりすると、違和感あんだろ?」

「形状は……左右対称と利き手専用があるんだっけ?」

「そこは押さえているのな」

「それに、なんとかクローンってあるんでしょ? 人気な奴」

「IE3.0クローンな。そのオリジナルは多くのゲーマーに支持されたんだよ。今はもう生産中止だが、各メーカーが基本形状をそのままに、独自改良を施したものを販売してる」

「いいのそれ?」

 俺は、無言で自分のマウスを指差した。

「これクローンだったんだ。すっごい狙いやすいんだよね」

 桜さんは、再び俺のマウスを持ち上げ、形状をまじまじと見た。

「マウスの持ち方も考えろよ? お前の指は長めだが、手全体としては俺よりやや小さい。マウス捌きを見たところ、“つかみ持ち”で、力を入れてぶん回している」

「キモッ! 何アンタそんな所見てんの……セクハラじゃん!」

「……」

「嘘よ嘘っ! なに引いてんのよ、冗談だって!」

 とカラカラ笑って俺の肩をバンバン叩く。

「親切にした俺がバカだった、もう帰れ」

「選定が終われば帰りますぅ。で、何? アタシが“つまみ”持ちだって? ゲーム中マウスの動きとか見ないから、わかんないし」

「ちっ。“つまみ”じゃなくて“つかみ”な? 今お前が使っているのは、ノート用小型軽量タイプだろ? あれじゃ掌とマウスの隙間が大きくて疲れやすい。そして軽すぎるので、エイムが行き過ぎている」

「軽い方がいいんでしょ?」

「“適度に”軽いって意味だからな。お前は俺と同じか、少々重たいぐらいでいい」

「じゃあコレでいいんじゃん」

 そう、クローンが多くのゲーマーに支持されたとは、いろんな持ち方問わず手に馴染みやすいんだ。全てのゲーマーにとは断言できんが、少なくとも大きくハズレとなることもない。だから、各メーカーが販売する理由だ。

「それ旧式だから、今から買うなら新型にしろ。外観は同じでも、中身は性能アップしている」

「わかった。でさ、この布もゲーム用なの?」

「目ざといな」

「だってマウスと同じマーク描いてあんじゃん!」 

 机からベローンと剥がしやがった。あのさあ……俺の座位に対して絶妙な位置に置いているんだぞ。気軽に剥ぎ取るなよ。

「……パッドとマウスの組み合わせは、また奥深いものがある。けど、基本同じメーカーでいい。ただお前は一番デカいの買え。理由はわかるだろ?」

「振り回すからね。パッドの端っこにきて、さらに移動させる場合、持ち上げて戻すのチョーめんどい」

「あ、言い忘れていたが、マウス感度の変更ボタンは、2個あるものを選べよ」

「なんで?」

「スコープ付き武器に切り替えた時、感度が高すぎる時があんだろ? 特に高倍率」

「あるある!」

「専用ソフトで段階設定ができるものがいい。高感度(1000DPI程度)、通常(800DPI程度)、低感度(600DPI程度)と別々に設定しておくと、ボタンで前後変更できるからな」

「わかった! じゃあ、早速ポチるっ!」

 桜さんは、スマホで注文しようとしたので、彼女の手首を握って止めた。

「待て」

「なにすんのっ⁉︎」

「お前さぁ、触ってもないのに、よく注文できるな。こういうのは、合わなかったら最悪だぞ。だから触感を確かめて店舗で買うんだよ」

「面倒くさ。クローンだから、これと同じっしょ?」

「基本形状がな」

「わかったわかった、そんな目しないで。んじゃ出よっか?」

「出る?」

「決まってんじゃん、今から感触を確かめに行くの」

 呆れてものも言えなかった。


 マウスとパッドを買ったら、こいつから解放されると思った。しかし、また奴の家に連行されて、ドライバのインストールからソフトウェアの使い方まで解説したっけ。ついでにエイム指導までしたときは、もう夜遅くなっていて、ご家族に夕飯まで用意してもらった。

 もうね、クラスで最もうるさい女と一日中話したので、疲れ果てて覚えていない。俺が1日に話す量を、こいつは5分で消費するからな。ビシバシと言葉を叩きつけられ、休日静かにゲームをしたい俺は、うんざりしたのだ。

「大宮、これでアップデートできんの?」

 ビビっている桜さん。

「大宮、英語できんの?」

 苦々しい桜さん。

「大宮終わった? 戦闘準備完了?」

 ウズウズしている桜さん。

「ファーストブラッドゲット! 大宮! 大宮ぁ!」


「大み――!」

「ちょっと黙れカレン! フォーリー軍曹かお前は!」

 回想シーンは終了し、現実に引き返された。目の前には、喚き散らすカレンではなく梅本先生だった。

「お前寝てたのか⁉︎」

「……」

「桜は2日後に戻ってくるから嘆くな」

 クラス中がどっとわいた。

今回も読んでくれてありがとうございます。

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