【e1m20】処分
遅くなりました本当にごめんなさい。
教室後ろのドアが力任せに開き、ビィンと鳴った。雑談をしていたクラスメイトは、今回も静まり返った。何度食らっても、慣れないジャンプスケアだよな。錆びついた金属のごとく、ぎこちなく首を回すと、やはりカレンが仁王立していた。またQTEですか?
しかし様相が違った。いや、彼女が怒ってるのは変わらないが、その矛先が俺でないこと、そして目を真っ赤に充血させて、頰に涙の跡があった。粉塵こそ舞わなかったが、重量級モンスターのようにドシドシとロッカーまで歩き、乱暴にカバンを取った。
「帰るっ!」
消え去る直前に俺に吐いた。その声色は怒り、憎しみ、諦め、混乱などの様々な感情のごった煮となっていた。
「待って」
鹿島も走り出して、教室から消えた。
「無駄だよ……」
その背中に語りかけた。カレンがあんな怒りに達すると、もう外からの慰めなんて無意味だ。今しがた、学校長からカレンと親父さんに対して、懲戒の申し渡しがあったのだろう。
帰りのホームルームになると、全担任が各教室に張り紙を出した。
『県立東高等学校 校長 長幹事(校長印)
以下の生徒は、学校の秩序を乱し、生徒間暴力及び器物破損のゆえ、教育上必要とする懲戒を受ける。
2年F組 桜カレン 【校内謹慎3日】』
周りがざわつく中、俺はホッとした。『帰る』と言ったとき、停学かと恐れたが、意外に緩かったからだ。唐揚げパンウォーフェア及びゲット&ランに関わった生徒は、これ以上の処分はないと安堵した。そして、企画者のみが処罰されるとなると、さっそく根も葉も無い噂を立て始めた。
カレンは退学処分になる予定だったが、PTA会長である父親からの“相談”で軽くなったというものだ。また、校長室で“実弾謝罪”があった、という噂も出た。カレンが暴れたという意味ではない。この場合は、親父さんが、ということだ。とんでもない。親父さんは、娘のどんな処分でも粛々と受け入れるつもりだったろう。そして最後に、『娘へのご指導を、今後とも宜しくお願い致します』と深々と頭を下げたに違いない。
『大丈夫! アタシが全責任を負うから!』
今更ながら、あの台詞が思い出される。
「どーいうつもりで言ったんだお前……」
重い足取りで帰路につきながら、雲1つない晴天に向かって語りかけた。でまかせで口にしたのかもしれんが、字面通りになったじゃねーか。
今回も読んでくれてありがとうございました。