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蜘蛛の独白  作者: 竹内緋色
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墓標(epitaph)

 墓標


「なぁ、人が死ぬってのは事故だと思うか?」

 犬が低く唸るような声で一人の警官が言った。その警官は数人の喪服の人間と多くの学校の制服の姿を見つめながら言っていた。

「まあ、場合によるんじゃないですかね。」

 隣の男、彼はだらしないスーツの着方だったが、その男が言った。しかし、制服の警官は顔をしかめる。どうやら隣の男の言ったことは警官の会話の意図から外れた者らしい。

「人が死ぬというのは明らかに事故だ。でも、殺されるのはどうだ?少なくともこれは事故ではない。」

 は、はあ、と隣の男は呆れた顔をする。いつものが始まった、という風だ。

「人が人を殺すのは明確な意思があるからだ。意思など関係のない事故とは勝手が違う。」

「でも、死んだ女の子はショック死だったみたいじゃないですか。事件性はないって鑑識も判定しましたし、上も事故として処理しましたよ。」

「不自然だろう。」

「何がです?」

 うんざりした様子で隣の男は言った。一方、警官は先ほどから視線を一ミリたりとも動かしていない。

「ここ一か月で何人もの人間が不審死を遂げている。」

「でも、事件性はないって鑑識が―――」

「原因の面ではそうだ。だが、結果はどうだ?」

「乾さんは考えすぎなだけですよ。」

「鶏だ。」

「は?」

「卵が先か鶏が先かで考えるならば、確実に鶏が先だ。」

「はぁ。」

 警官は石像のように固まって、ピクリとも動かない。男に分かるのは、この警官が物凄く不機嫌であろことだけだった。

「結果に原因はついてくる。ということは、結果さえあれば、原因はいくらでもついてくるということさ。」

「そうですか。」

 男には警官の言っていることは全くと言っていいほど分からなかった。白旗を掲げたい気分であった。

「災害や事故ならなんとか未然に防ぐことができるだろう。だが、人災は、人の引き起こす物事は防ぐことは不可能に近い。」

 どうしようもないじゃないか、それは、と男は泣きなくなる気持ちを抑える。

「俺たちではどうしようもない。俺たちでは。」

 俺たちでは、というのを警官は強調した。まるで自分たち以外の何者かであればなんとかできるような言い草だと男は思ったが、特に気にも留めなかった。


「しっかし、まあ、どうしてくれんのかねぇ。」

 廃工場の中、一人の男がいた。その身にはこの土地ではあまり似合わない、きっちりとしたスーツ。

「組織の方は今、どうなっている?」

「あっしを二重スパイに使おうって魂胆ですかい。」

 スーツの男は物陰に向かって言った。

「・・・」

 物陰の人物は何も言わない。

「アンタはホントに善人ですね。あなたにはあっしは殺せない。」

 そう言って男は廃工場の中に転がっているモノに触れる。

「アンタは組織に裏切られたんでしょう?なら、私たちの正体が白日の下に晒されようが、アンタにゃ関係ないはずだ。」

 男が触ってい折るものは数日前まで彼らと同類だったものだ。

「で、上はどうなってるんだ?」

 男は溜息を吐く。

「あなた方のことは多分把握されてますよ。だから、あっしがここまで来ることになった。でも、組織の方から何の干渉もないということは、そういうことなんでしょう。」

「つまり、様子見ってことか。」

「恐らくは。」

 男が触れていた改造人間の遺骸はだんだんと地面へと沈んでいく。

「組織が何をしたいのか、そもそも何故俺たちは作られたのか。それが全くわからない。」

 物陰の男は言った。

「案外、大した理由ではないかもしれませんよ。」

 そう言ったときには男の触れていた死体は地面に沈み、跡形もなくなっていた。

「・・・」

 物陰の男は何も言わない。

「で、どうしやすか?ムスタングの旦那。あっしを殺しやす?」

 そう言いながらも男は工場を後にする。

「全くアンタはお人よしだ。」

 男はそう言うと、日常へと溶け込んでいった。


 少女は何も考えられなかった。少女の嗅覚は煙によって燻ぶられている。目に写るのも黒の布ばかり。そして、耳に流れ込んでくるのは嗚咽と歳をとった男の平坦な声。

 少女の目の前で別の少女が笑っていた。その屈託ない笑顔は周りとは浮いていたが、それを誰も咎めることはない。いや、もう、咎めることができない。少女と違い、周囲と同じ黒髪に黒い瞳の肌の黄色い少女は額の中に収まって、もう動くこともない。

 今日は少女のことを見ているものはなかった。少女は周囲とは一致しない容姿によって常に注目されていたが、今日はいつもと違う。少女と同じ年代の子等は俯いて嗚咽を漏らすか、その子を慰めるか、そればかりしていた。少女のように涙も流さず、ただ呆然として佇んでいるものなどどこにもいなかった。

『キリエ・エレイソンさん、よね?』

 少女は目の前の少女、安らかな面持ちの少女を見下ろしながら、初めての少女との出会いを思い出していた。あれは、転校してすぐであったか。

『え、ええ。』

 ぎこちなく少女は答えた。彼女はそんな少女に慈悲を持ったような笑みでこう返した。

『私の名前は阪宮キョウ。これから仲良くしてね。』

 初め、少女は黒髪の少女と仲良くなるとは思ってもみなかった。転校生に対する社交辞令であると思っていたのだ。しかし、彼女は執拗に少女に話しかけるのであった。

少女は少々戸惑っていた。誰かと仲良くするというのは少女にとって経験のない事であったからである。少女に向けられていたのは嫌悪か畏怖か、そのどちらかでしかなかった。だから、少女は途端、学校生活から孤立した。少女に誰も近寄らなくなったのに、彼女だけが少女に優しく接してくれた。少女にとっては彼女は唯一無二の、そして、生まれて初めての友達(フレンド)だった。

しかし、それは少女の勘違いであったのか。

彼女に銃を向けられたとき、少女はいまいち何も感じられていなかった。目を閉じたまま動かない彼女を見ている今とさほど変わらない。

少女はやはりそうだったのか、とその時思った。自分に友達などできるはずもないのだ。少女はすぐに立ち直った。友に裏切られたショックから。少女は友達などという非現実なものを信じられるような現実に生きていなかったのだ。

眠っているように、今にも動き出しそうに思える彼女の最期を少女は思い出していた。

背後から化け物に襲われた彼女は、途端、表情を引きつらせて倒れた。その表情を少女は今でも忘れられなかった。というよりかは、何度も見慣れている顔であった。少女の生業は傭兵である。そんな少女は幾度となく死者の(デスマスク)を見てきた。生にしがみつく、必死な表情。死にゆくものは例外なくそんな表情をしていた。

少女にとっては彼女の死はありふれたもので、彼女は少女を殺そうとしていて。

 少女の中で様々な何かが蠢いていた。字のごとく、虫が無数に這いずり回るような、体中を這いつくばるような、そんな何かが少女の体を支配していた。

「なんなのよ、これ。」

 綺麗な花に包まれた黒髪の少女は、金髪の少女の問いに答えることはなかった。


 私は気が重かった。

 数日前上司の殺した少女の葬式があったのだ。彼女のクラスだった教室はもぬけの殻だった。クラスメイト全員で参列したのだ。

 私は上司の判断は間違っていないと思っている。あの場で、亡くなった少女が銃器を私とシャアに向けている状況では、その後の展開は見えていた。私とシャアは確実に殺されていた。賢明な判断であった。しかし、その後、何かがおかしくなった。私の上司は組織への反逆ともとれる行動、怪物の姿で現れ、私に何も言わずに去っていった。私にはその姿が縁切りを表しているように感じられた。そして、目の前で少女が死んで一番衝撃を受けていたのがシャアであった。後々シャアと亡くなった少女との関係を調べてみると、二人は同じクラスで、そして、かなり仲が良かったのだという。

 シャアは今日、再び少女の死体と会い見えているだろう―――

「人の人生で大切なのは、死ぬまでに誰かをどれだけ笑顔にできたかってこと。誰かのために何を成せたのかってこと。」

 私は呟いていた。それは誰の言葉でもなかった。自分のものではない言葉。誰かが遠い昔に言っていた言葉。

 私は溜息を吐く。昔の自分はこんなのではなかった。こんなに得体のしれない、感情というものが湧き上がってくることなどなかった。

 帰宅部の部室として使っている空き教室。そこに一人佇む私は寂しいという感情を抱いている。これが寂しいという感情で間違いないのだろう。そんなことも私は知らなかった。

「あれ?九門棗じゃない。」

 シャアが言った。

「何故あなたがいるの?」

 私は聞いていた。幻ではないのか、と疑ったのだ。

「なに?私は部員じゃないっていうの?」

「そんなわけない。」

 自分でも少し驚くぐらいに私は強く反論していた。シャアは何とも言えない、複雑な顔をしている。

「ねぇ、アンタ、あの怪物のこと知ってるんでしょ?」

 その顔は泣く寸前の子どものようにも見える。

「―――ええ。」

 私は間を置いて、答えた。

「私だって分かってる。あの状況じゃ、ああするしかなかったって。でも―――」

 シャアの瞳から透明の液体が流れ出る。

「ごめん。」

 私はシャアを抱きしめていた。

「私は一体だれを憎んだらいいの?この気持ちをどこにぶつければいいの?」

 シャアの嗚咽が私の胸の中に響く。痛切なその響きに、私は何もすることができなかった。

 私にできることはなにか。

 私のするべきことはなにか。

 私は何をする人間なのか。

 その答えは、まだ―――


 その日はその後誰も部室に来なかった。だから、重大な問題の発見が遅れてしまった。

 私はシャアが心配であった。彼女にはもう住む場所はない。一体どこに住んでいるのか、と聞くと、バイト先、とだけ答えた。私も金を稼がねばならない。

 本当に桐麻邸に帰ってもいいのか、と私は考えていた。組織が桐麻家の人々を狙う可能性は十分にある。やはりもう桐麻邸にはいられない、と進路を変えようとした時、運悪く桐麻夫人と出会ってしまった。私は本気で帰りたくなったが、彼女には勝てなかった。なんとなく、夫人の悲しむ姿を見たくなかったのだ。

 その日、全身タイツは遅くまで帰ってこなかった。そのことについて婦人たちは大して気にはしていないようだった。私は、夜中にあんな格好をしていて警察署に補導されないのかと不思議に思った。恐らくあの格好を始めて数日は声をかけられたのだろうが、あれほど堂々とされては警察もどうしようもない。警察内でも声をかけないという方針がとられているのだろう。

 そして、その翌日から、奉は姿を見せなくなった。シャアも、全身タイツも。

シャアと全身タイツは学校に来ていた。ただ、二人ともなにか用事があるらしく、部活動さえままならなかった。だが、奉は学校に来ていなかった。そのことが知れたのは、奉が家に帰らなくなって、つまり、失踪して三日たったころだった。その頃から警察はただの家出であるとは考えなくなったらしい。ここ最近で不審死が相次いだこともあって、学校側に連絡がいったのだ。ホームルームで奉が数日姿を見せていないということを知った時、私はムスタングさんの禍々しい姿を思い出していた。

 まさか、と私は思った。

 ムスタングさんが奉をさらったなどと考えられない、はず。

 ムスタングさんの目的を私はよく知っている。ムスタングさんは復讐をしたいのだ。ローリーさんの命を奪った天敵に対して。そして、全身タイツはその天敵とは同一人物ではないものの、恐らく同種の存在。

 奉を餌に全身タイツをおびき寄せるつもりで?

 それもおかしい。三日も監禁しておく理由はムスタングさんにはないはずだ。

 なにかがおかしい。悪意を感じる。人が困っている姿を見て楽しんでいるような、そんな陰湿な悪意が。

 私は奉を探すことにした。

 何故私は奉を探すのだろう。

 ムスタングさんのことがあるからか。彼が善意であることを証明したいのか。多分、違う。

 何が起きているのか、その真実を知りたいのか。それも、決定的であるとはいえない。

 つまり―――


 警察も奉を探している。でも、見つからない。このF市は面積こそ大きかれ、人々の住んでいる場所は限られている。周りが殆ど山に囲まれ、山でない平地、川の通っている谷などに住宅地ができている。生きている人間が隠れられる場所は限られる。

 だが、モノを廃棄するのは簡単で、そして、容易には見つからない。

 私は余計な雑念を振り払う。希望を捨てたくはなかった。圧倒的な絶望が迫っていても、目の前に小さな希望の光が、触れれば消えてしまいそうな儚い望みがそれでも存在しているならば、私は諦めたくはなかった。

 どうしても叶えたい望みがかつて自分にはあった、ような気がする。もう、それは思い出すことができないけれども、でも覚えている。なくしてはいけないものだったから―――

 目の前に優雅な金色の彗星がふいに目に飛び込む。

 サラサラした短めの金髪。まだ発育途中の少年の背格好。間違いなくアイツだ。

 金色の妖精は異世界へと誘うように暗い路地へ消えた。

「待って!」

 私は金色の妖精に向かって叫ぶ。

 気が付くと路地は終わっていた。その先に廃棄された家具が積まれており、そこに足を組んだ優雅な妖精が私を見下ろしていた。

「久しぶりだね。№24.」

 まだ声変わりの始まっていない子どもっぽい声で金色の妖精は言う。

「あなた、一体何者なの?」

 私は言った。私は思い出していた。この人物を私が初めて見たのは全身タイツがひったくりを追って、その後事故を起こした時であった。その時、私は能力でその場一帯を感知していた。人々が驚きを隠せない状況で、一人何事も無いように事件を見ている人物がいた。それが目の前の彼だ。そして、その後、彼はその場から消えた。実際には消えていないのかもしれない。というより、人が消えるなどありはしない。となると、それが目の前の少年の能力。

「きみはそんなことを訊くために僕を必死で追いかけたのかい?あんまりモテちゃうといいことないんだけどなぁ。」

 そう言って少年は頭を掻いている。

「何が目的なの?ムスタングさんはどこで何をしてるの?あの日、何があったの?」

「まぁまぁ。まずは落ち着こうよ。」

 年下にあしらわれて私は少し不愉快になる。

「まず、僕のことは、そうだね。ナイトウォッチとでも名乗っておこう。」

「夜警ですか。」

「それはどうでもいい話だ。そして、ムスタングのことだけど、僕は君が重傷を負った日の夜に何があったのかを知らない。そして、その後に一度会って以来、僕も見かけてないんだ。」

「あなたは組織の改造人間ですよね?」

「まあね。でも、僕はこの能力のおかげで、あ、そうか。君はもう僕の能力を認識はできないんだね。傷を負った後、能力は著しく劣化しちゃったみたいだから。僕はたぐいまれなる能力によって、単独行動を許されているんだ。」

「改造人間の狂暴化について、なにか知っていますか?」

 そう。事の全てはそこから始まったのだ。

「よくは知らないけど、一か月前くらいに一人の研究員が抹殺されたよ。分かってると思うけど、組織の人間ね。そして、それと同時期にシグレ、ローリーの暴走事件が起こった。」

 シグレというのは蝉の改造人間である。

「つまり、事件がつながっていると。」

「それがよくわからないんだよ。研究員が何を研究していたのかは誰も知らない。そして―――」

「研究資料は何者かに持ち去られた、と。」

「研究員が根城にしてた施設は火災にあってね。そのとき彼の死体が現れたんだけど、顔は焦げてて誰かは判らず。組織の調査ではDNAは一致したみたいだが、ね。」

「そのくらい我々なら偽装できる可能性がある、と。」

「まあ、その研究員が生きているのかも分からないし、狂暴化と関係あるのかも分からないんだけど。」

「しかし、何者かが狂暴化を引き起こしていると?」

「今のところはこの街でしか起きていないんだ。その現象は。そして、三例も続いている。ローリーの例から、ウイルスか、もしくは何らかの成分が引き起こしたのか、と考えられていたけど、今回のゴキブリの件で、前の二例とほとんど関わり合いがないということが証明されてしまってるからね。そもそも、きみや僕が何の異常もないのはおかしいから。」

「はっきりしませんね。」

「まあ、混沌の欠片が足りていないんだろうよ。」

 だが、それはどうでもいいことで。私は為さねばならぬことがある。

「奉千花という女性の行方を知りませんか?」

 フッ、と夜警(ナイトウォッチ)は鼻で笑った。

「きみはその少女を見つけてどうするんだい?それは意味のないことじゃないのかな?そもそもきみは何のためにまだ生きているんだい?」

 少年は軽々と家具の山から飛び降りると、私のわきを影のようにすり抜けていく。

「あ、そうだ。きみにいいことを教えてあげよう。この街に新たに二人、改造人間が派遣された。彼らは試作型(プロトタイプ)だ。」

 金色の妖精はそうとだけ言い残すと、再び夜の闇に溶けて言った。


 この世界には本当か嘘かが分からないものがある。それは大抵が証明のしようのないもので、そういうものを総じて伝説とか噂とか形容する。真実か虚偽かさえはっきりさせることができないから、そういう中途半端な概念に包括せざるを負えなかった。

 そんな伝説やら噂というのは改造人間の中でもあった。私が追っていた天敵でさえも噂の存在せあった。

私たち改造人間にとって出生とは最大の謎である。恐らく人間から改造されたのではないか、という噂。それはどうしても確かめられない。その真実を知った時には、息絶えているだろうからだ。

改造人間には選ばれた存在がいるという。それは改造人間の始祖ともいえる存在で、数多ある改造人間の原型(アーキタイプ)であるという。その原型は改造人間の中でも飛び切り能力が高く、その原型をモデルに量産されたのが改造人間一般である。

だが、量産型である我々、始祖原型とは別にもう一つ伝説の存在がいた。それが試作型である。彼らは大量生産のため能力を低下させた量産型とは違い、原型とほぼ同等の能力にされているという。さらには能力を改良させ、原型よりも能力が高くなっている試作型もいるとか。

そんな、伝説の存在がこの町にいるのだ―――

「そんなのと、どう戦えばいいっていうのよ。」

「また、そんなところにいる。」

 私は顔を上げる。すると、ある日のように目の前に一人の少女がいた。

「もうあなたに野宿なんてさせないからね。」

 シャチ子はそう言って私の腕を引っ張る。

「おにぃも最近帰ってこないから寂しいんだよ。」

 何故か怒った口調でシャチ子は言う。だが、私に全身タイツの悪口を言われても困る。

「でも―――」

 シャチ子とその母親はいい人であった。だから、巻き込めない。能力の計り知れないような存在を相手にするのだ。奉のように二人に危害が及ぶ可能性がある。

「あのさぁ。」

 シャチ子は私の目をうんざりしたような目で見る。

「なっちゃんが何を考えてるのか分からないけど、遠慮なんてしたらダメ。どうせ、私たちの迷惑になる、とか思ってるんでしょうけど、迷惑をかけられるのなんて、おにぃのおかげで慣れてるの。だから、迷惑かけてもいいんだよ。ほら、映画でよくあるじゃない。相棒(おまえ)に背中を預けるぜ、って。家族なんだから、迷惑かけていいんだよ。」

 背中を預ける。

 ローリーさんもムスタングさんもそう言ってくれた。そして、シャチ子もその母親も、そう言ってくれる。家族だと言ってくれる。

「え、ヤダ。私そんな感動すること言ってた?」

 シャチ子はそう言ったが、シャチ子の言葉の意味が私は分からなかった。



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