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9.龍と盾

 古代龍がセイジたちに気づかれず、80㎞離れた飛行場から瞬時に移動した方法はわからない。だが、一つだけ言えることがある。


「あれは、転移じゃない」


 転移魔法なら、最初にアリスが古代龍の接近に気づいたのはおかしい。アリスがいかに優れた感知能力を持っていたとしても、転移されればその場に現れるまでわからない。転移で移動してきたならば、古代龍に気づくまでの時間に個人差は生まれないはずだ。

 ならば、何らかの高速移動をしていると考えられる。


「それなら、逃げ切れる」


 高速移動なら、セイジの転移魔法の方が速い。

 問題は、今まで見せてこなかった高速移動をあのタイミングで使用したのはなぜなのか分からないのと、古代龍あいてに確実に転移するためには一瞬でも隙を作る必要があることだ。


「グォオ……」


 追跡してくる古代龍の咢が妖しくゆらめき、膨大な魔力が集中する。


「ブレスだ!」


 もう一度、避けられるか……!?


「任せて!」


 ナナは立ち上がり、背後の古代龍に向かい合った。

 またも、膨大なマナがナナの魔力のもとに収束し、渦を巻きはじめる。


「天に召します我らが女神よ……空を覆う雲、西に向かう送り火、鏡と輝石と青銅、神の雲は邪を払い、守り手の剣に貫かれて石の蛇はその身を滅ぼす……防げ、アイギス!!!」


「ガァァアアアアッ!!」


 古代龍の咢から巨大な魔力砲が射出されるのと、ナナの神器魔法が生み出した巨大な盾がミツキの背後に現れたのは同時だった。

 強力なブレスは、盾に直撃した。その理不尽なまでの破壊の力が、魔力が盾に吸収されていく。


「……流石に重い一撃だねー……でも、アイギスは破れない……よっ!」


 アイギスに吸収されたブレスは、その勢いをそのままに方向だけを真逆に変え、跳ね返した。

 反射されたブレスが古代龍を直撃する。


「よしっ!」


 ナナがガッツポーズを決める。

 だが、古代龍から感じる強大な魔力は少しも弱まっていない。自らのブレスの直撃を受けた古代龍は多少の傷は負っているものの、飛行に支障はなさそうだ。


「あちゃー、ダメかー」


「……ナナ、もう一度、今のを使えるか?」


「え、うん。アイギスはブリューナクより負担が小さいから後3回は余裕だけど……」


「反射のさせかたを変えたりできるか?」


「うん。ちょっと拡散させたり、返す方向や出力を調節したりならできるけどー?」


「なら、一回は残しておいて、俺が合図したら使って欲しい、できるだけ拡散させて広域に反射させるように」


「んー? よくわかんないけど了解!」


「これから、攻撃も激しくなる。しんどいけど頑張ってくれ」


「セイジもねー」


「ああ。よし、ミツキ行くぞ!」


 ミツキが、大きく咆哮をあげる。まだいけそうだ。


「それじゃー、もう少し軽い魔法で牽制するよー」


 ナナが杖をクルクルと回し始めた。

 さっきまでの神器魔法とは少し違う魔法のようだ。膨大なマナがナナの周囲に集まっているのは変わらないが、渦をまいてはいない。回している杖を中心に球状にマナが収束している。


「神に仕えし聖獣よ……その魂は赤く、その血は弓と為す、舞い踊り、舞い歌い、その翼に七色の光を宿す……はばたけ、ラン・ケツァール!!」


 ナナの周りに球状に収束していたマナから、四つの球体が放たれた。マナの球体は、自在に空を飛び回り、その姿をやがて青い鳥へと変えていく。

 これは神獣魔法だ。使い魔を呼び出す魔法、使役魔法の最上位。使役魔法はマナを実在する生物の形に変え、使い魔とする魔法だが、神獣魔法は伝承にしか存在しない空想上の生物をマナで形成し使役する魔法である。

 実在しない生物を使役するため、マナ形成から操作のイメージを掴みづらく難易度の高い魔法だったはず。それをこの歳で使えるなんて……。神器魔法といい、このナナも只者ではない。


 ナナが生み出した四匹の青い鳥は、古代龍の周りを飛び回る。時に古代龍の攻撃を躱し、時に古代龍に突撃して自爆し古代龍を攻撃していた。


「くっ……この子たちが体当たり一回で自爆しちゃうなんて……」


「え、わざと自爆させてたんじゃないのか?」


「そんなことないよー、自爆は最終手段なの。並みの魔物なら体当たりで穴あけられるんだけどなー」


 失った数だけ青い鳥たち新たに召喚しつつ、ナナは不思議そうに首をかしげる。


「……だが、古代龍は随分とうっとおしそうにしてる」


 古代龍の動きの牽制にはなっているようだ。強力な魔法が、それ以上の効果をなしていないことは恐ろしい限りだが。

 その古代龍は、逃げ回るミツキを追いかけつつ、青い鳥を迎撃している。その顎に魔力が揺らめくのを、セイジは見逃さなかった。


「……ナナ、アイギスの準備を!」


「え、わ、わかった! ランちゃんたちー! あとはお願いっ!」


 ナナは回していた杖を止め振り下ろすと、収束していたマナが八つに分裂して青い鳥と化す。


「天に召します我らが女神よ……空を覆う雲、西に向かう送り火、鏡と輝石と青銅、神の雲は邪を払い、守り手の剣に貫かれて石の蛇はその身を滅ぼす……防げ、アイギス!!!」


「ガァッ!!」


 ラン・ケツァールの鳥たちを同一射線上にとらえた古代龍のブレスの一撃は、10以上の鳥たちを消し去り、セイジたちに迫る。

 ここから先は、タイミングだ。

 アイギスの盾が、ブレスを受け止める。膨大な魔力が、盾に吸い込まれていく。


「……頼むぞ、ウィズ」


 広く反射させたブレスが、一瞬、古代龍を覆いつくした。


 古代龍には、どういうわけか魔法が効きにくいようだ。だが、先ほどのアイギスで跳ね返したブレスには効果があった。破壊力で言えばナナのブリューナクの方が上のはず。背面に食らったブリューナクで無傷だったのに、正面から受けた自分ブレスで傷を負ったのはおかしい。

 自分の魔力には反応しないのか、もしくは自分の魔力は効果が薄いのか。ともかく、古代龍は自身の周りに何らかの魔法に抵抗のある結界か力場があると考えられる。これはセイジの予想だが、おそらく魔法を湾曲させるものだ。ブリューナクは魔法の力が曲げられ斥力だけが残った、古代龍は地面に叩きつけられたが、ブリューナク自体は古代龍に届かなかったのだ。セイジたちが共和国に転移した際、古代龍の上に転移したのも古代龍によって転移先を曲げられてしまったせいだろう。


 だからこそ、ナナの魔法では致命的な隙を生み出すことはできない。生物にとって、最も動揺を誘うことができるのは死の恐怖だ。反射的に自分の身を守ってしまった時、それこそが逃走の最大の機会!


「転移する、掴まれナナ!」


 アイギスの盾はセイジに触れていない、置いていける。

 ナナが自分の身体に振れたのを確認し、セイジはもともと置いておいた魔法陣を目標とし転移魔法を行使する。

 世界は真っ白に染まり、次の瞬間には木目調の天井が視界に映っていた。同時に、木を砕いたり折ったりするような音も聞こえる。


「……ぷうっ!」


 目をギュッと瞑っていた、ナナは立ち上がってキョロキョロと周りを見渡したあと、首をかしげた。


「セイジ、ここどこ?」


「あー、えっと……あははは」


 ドドドドドドと階段を駆け上がる音が聞こえると、バンッ!! と勢いよく扉が開かれた。


「あんたたち!! なーにやってんだいっ!!」


 鬼の形相のおばちゃんが、怒鳴り散らしながらセイジの胸倉を掴んで持ち上げる。


「ちょ、セイジ!?」


「ま、まて、ナナ!」


 慌ててセイジを放させようとおばちゃんにせまるナナをセイジは手で制す。

 悪いのは、こちらだ。だって、ここは……。


「ここは、宿屋の一室だからな」


 転移してしまったせいで、盛大にぶっ壊れた部屋の中央で。

 呆れた様子のウィズを乗せたミツキが、申し訳なさそうに一声鳴いた。

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