第二十五章 幾多の星粒のなかで☆
「はい、こちら天界電話交換手。」
「え?おたくのネコちゃんが…。」
「ええ、朝から…。」
「朝ごはんもたべていない?」
「ええ…?どこにつなごう。動物病院の番号いくつだっけ?」
「はい、こちら天界電話交換手。」
「ええ。」
「天界学校の生徒が2名、朝から行方不明。」
「家にも戻っていない?」
ここは天界のさらに上。
真っ白な神殿のような建物が連なる天界の官公庁街。
ここでは天界の幾多の情報がとびかう。
天界の電話はすべてここへつながっている。
街に異変があれば、三大天使へと報告され、警備兵が派遣される。
ここでは迷子から明日の天気まで様々な情報が飛び交う。
そのほとんどはどうでもよいような内容のモノばかり…。
「よかった。ネコちゃん元気になって帰って来たんですね。」
だが、ごく稀に、ごく稀にだけ、とてつもない情報が迷い込むのだ。
「え?行方不明ですか?」
「天界学校の生徒が…。」
「はい、はい…。」
「学校に来ない?」
「家にもいないと…。」
「学校の方に連絡は…。」
「ええ…。」
☆☆☆
カラン。
レンズの中で形を変える様々なキラキラした図形。
一度、回せば、また違う模様が姿を現す。
「あらっ。」
丸い部屋で窓から長い筒を出し、見つめる茶髪の長い髪の天使。
レンズの中には先ほどと違いぼやけた古い神殿がうつる。
ここではないどこか別の場所、別の土地。
徐々にピントが合わさっていく視界。
よりはっきりと。
そして、より鮮明に。
くっきりと描き出す。
映像は移り変わり、神殿の屋根の穴から内部へと進む。
映っているのはなにやら長椅子に腰掛け、話し込んでいる三人の人影。
いや、天使二人とそして…。
人間がひとり。
「ミカエルー。おはよー。きいーた?今日のニュース、天界で…。」
バーンと豪快に扉を開け、手に何か紙のようなものを持ち、入ってくるのは少しつんとした紫色のふわっとしたボリュームのある髪の天使。
「静かに。もういいとこだったのに―ガブリエル。」
口の前でしっーというポーズをとるミカエルと呼ばれた茶色い髪の優しそうな声の天使。
「ああ、ちょっとピントがずれちゃった?」
先ほどと違い写るのは何もない砂漠の景色。
「これ、ピント合わせるの結構、大変なんだから。」
再び万華鏡のようにくるくると回るきらきらした図形たち。
「いやっ。何、見てるかまでは私、知らないし…。」
ガヴリエルは紫のツインテールを片手でいじりながら、そう答える。
「それより、さ。聞いた?今日のニュース。」
と、手に持った新聞紙をみせるガブリエル。
「天界で…天界学校の生徒が二人見当たらないってヤツ。」
「それなら、ほら、もう見つけたよ?」
ミカエルはガヴリエルに長い筒を手渡し、みせる。
「あんまり、動かさないでね。」
「わぁった。わぁった。もうミカエルは心配性なんだからっ。」
そう言いながら、筒を受け取り、のぞくガブリエル。
「んー。よく見えないわね。」
カラン。
「ちょっと調整するわね。」
そう言ってミカエルは長い筒をいじる。
映し出されるのは先ほどと同じ映像。
「あっ見えた、見えた。」
神殿の中で仲良く談笑する二人の天使と一人の人間の女の子。
「えっ、人間…?。まだいたの?」
どこからか、ラッパを取り出すガブリエル。
「もうまた、すぐそういうことしようとする。」
そういって。ミカエルはガヴリエルのラッパを制する。
「冗談よ、冗談。」
ガヴリエルは出したラッパを服の中にしまい込む。
「それで?なんで、天使が人間といるの?」
何しに行ったの?といった感じで問いかける。
「さぁ私もそこまではわからないけど…運命の出会いとか?」
ミカエルは窓辺の手すりに体重をかけ、そんなことを言う。
「んっなわけないでしょうに。」
ガヴリエルはその辺のイスに座ると、紅茶を飲み始める。
ティーポットはどこから出てきたのだろうか。
角砂糖とミルクはもちろんましましである。
甘ったるいものが好きなのである。
「これ返すわっ。」
そういってミカエルに長い筒を渡すガブリエル。
「うん。」
そして「はぁっ。」とため息一つ。
「どうりで天界を探してもいないわけね…。」
「なんだ?さがしてくれてたの?」
それに微笑みかけるミカエル。
「散歩してただけよっ。」
ちょっとそっぽを向いて、照れる、ガヴリエル。
「ありがとね。」
「ホントに散歩してただけだから…。」
「そー?」
「うん。」
☆☆☆
「それで、あの子たちを連れ戻してくればいいの?全く、手のかかる生徒たちねっ。教師は何してるのかしら。」
一息つくと部屋いっぱいに大きく羽を広げるガブリエル。
部屋の窓に足をかけ、飛び立とうとする。
「待って、ガブリエル。もう少しだけ、見てましょ。」
それを手を伸ばし、止めるミカエル。
「えっ。でも連れ戻した方が早くない?」
「んー。でももうちょっと、様子見ててもいいんじゃない?」
少し笑みを浮かべながら窓の向こうの空を見つめるミカエル。
「それに、あの子たち自身の力で帰ってこなければ、意味がないじゃない?」
「現に私たちもそうだったでしょ?」
少し間を開け、そういうミカエル。
「ま、ミカエルがそういうんなら、私はいいけど。」
窓枠から降り、そういうガブリエル。
「でも、見て、何か起こりそうな予感。」
再び、長い筒を地上へと向け出すミカエル。
「まったくどうなっても知らないわよ?」
「まぁ、2人にもいい経験になるでしょうし、ここで見守るのも私たちの仕事でしょ?」
「まーね。」
それに空で返事をするガヴリエルなのだった。




