55マモ 魔本の意外な正体
「大悪魔ヴォラクか……」
思いがけずに、大物を手に入れちゃったマーモット。その名はマーリンです。
とりあえずカジカジと魔本を見ながら、ヴォラクの描かれたページにムフフと笑う。
『ヴォラクスロット:魔力をコインに変えてスロットができ景品として様々なアイテムが手に入る。大当たりのアイテムを創造するのに足りないエネルギーはヴォラクの魂を使うので、使い続けると、ヴォラクは消滅する』
おぉ……なんかエグい性能の魔本だな。捕まえた悪魔が消滅するまで搾り取るとはドン引きだけど、ヴォラクは元々人の寿命を吸い取っていたみたいだから自業自得でもあるか。
『にしても、大悪魔にしては弱かったね? もっとドコーンとか、まもーんとか激闘で大変なことになるかと思ってたのに拍子抜けだよ』
ピギーピギーと鳴いて、語彙の乏しさを誤魔化しながら、マーモットは憩いの部屋まで戻る。気絶していたランはマーモットでは運べないので放置しておきました。
『それはこの世界に来た神々がカスのような力しか残っていないからですね。知恵の実もとい、人の魂を吸い取って、信仰心などを集めないと弱体化した神々はマーモットにも負けます』
『マーモットは強いよ? 本当だからね? これまで数体の悪魔を倒したよね? 報酬はないの?』
『封印しただけなので報酬はありません。多くの人が犠牲になっていたりしたら別ですが、あの悪魔は一人も殺せずに封印されましたし』
『残念。それじゃ経験値が欲しければ殺して、スキルが欲しかったら封印という形なのかな。よくできてるシステムだこと』
ちょっと残念だけど、二つを得ることはできないらしい。
まぁ、今回手に入れたスキルが役に立つかは試してみるしかないな。
魔本を持って、テチテチと憩いの場に移動。
「見てみて、ママ〜、あのマーモットさん、本を抱えて歩いてるよ」
「まぁ、よく躾けられてるわ。キャベツをあげてもよいか店員さんに聞いてみましょ」
どこでもマーモットは大人気だ。もちろんキャベツは食べるけど、キャベツと聞いた途端に俺を押し退けてくる仲間たちがいるんだけど?
「俺様がキャベツを食べるから安心しろよ」
「天才たる僕はそろそろお腹が空きました」
「ここは隅っこで手を振ってアピールよ」
「あ~ん、ミカはお口を開けて待ってるよ〜」
人間のように2本足で立ち、なおかつ相手をお手々で押し退けたり、後ろから引き倒すマーモットたちの他愛ない争いに人間たちは大喜び。地球では見慣れていたけど、チヤホヤされるのは何回でもよい物だ。
まぁ、今からもっと驚くことになるけどさ。
皆が注目している中で、俺は尻尾をフリフリ、テチテチと壁際に歩くと魔本を開く。
「よ~し、マモトガとか詠唱は必要が? 必要なくても詠唱するけど」
ピギーピギーと鳴いて、肉球ハンドを魔本に乗せると、ヴォラクのスキルを発動させる。
「出でよ、ヴォラクスロット! 略してマーモットスロット!」
略して名前が変わるのは気にしないで、俺が魔力を注ぐと魔本が光る。そうして目の前に自動販売機のような大きさのスロットマシンが床からせり出してくるのであった。
ピギーピギーと聞き慣れた鳴き声がBGMで、デフォルメされたマーモットたちの絵がスロットには描かれている。うん、マーモットスロットで名前は決定だ! もちろん最近のスロットマシンに相応しく液晶画面にアニメが映し出されていた。今時のパチンコやスロットはアニメとタイアップしていて、普通のスロットマシンを探すならラスベガスにでも行かないと見れない。
なんのアニメとタイアップしてるのかなと確認したら、『マーモットの冒険』と言う聞いたこともないアニメだった。マーモットがブラックスライムと戦ったり、マレージャーとバトルしていたりと……これ、俺の冒険じゃん! まぁ、いいんだけど、何者かの介入が疑われるね。
「うわぁ、なにこれ? なんでスロットマシンがここにあるの?」
「使い方が書いてあるぞ? なになに、魔力をコインに変えられます。そのコインで遊びましょう。豪華なアイテムがたくさん用意してあります、だってさ」
「魔力10でコイン1枚か。面白そうだね、手を翳して、ゴフッ」
憩いの場に設置しただけあって、皆が集まってきて、スロットマシンに書かれた説明書通りに、スロットマシンのレバー横にある水晶に手を添えて……倒れた。どうも一般人は魔力10もないらしい……。
一般人は死屍累々。魔力が足りなかった場合、全部吸い取られて気絶する模様。復活には1時間かかるそうな。
一般人が倒れ伏す人々とスロットマシンを見比べて、ドン引きする中で騒ぎを聞いたアミたちも集まってきた。
「ニニーもコイン変えりゅね、んと、2枚出てきたでしゅよ」
ダンジョンガーディアンの幼女は強化されているので魔力もたっぷりあり平気らしく、2枚もコインに変えられて、父親のヴェア男爵に嬉しそうに見せている。
「これは……私は1枚ですね、結構ごっそりと魔力が減りましたよ」
ヴェア男爵は1枚だが余裕はありそうなので、20に少し足りないくらいの魔力か。ヘンリーたち兵士も同様でコインを1枚手に入れていた。
「自分は2枚であります。ふむ……」
アミは2枚か。やはり魔力は平均して30を超える人はいないんだな。コインを変換して、アミは少し考え込み俺をチラリと見てくる。なにか思いついたのか、その表情は真剣だ。あとで話を聞こうっと。
だけど、とりあえずはスロットである。
「まずはニニーからやりゅね? ニニーが一番で良いよね? んと、コインちょーだい?」
子供は副引きとか、大好きなので、ちょこちょこと父親やヘンリーからちゃっかりとコインを集めていた。
「んと、コインをここに入れれば良いのかな?」
5枚でライン全体に賭けられる仕様なのでコインの消費を、まったく気にせずに全部入れちゃうとウキウキとレバーを引く。
ピピピピギーと、液晶画面にマーモットが現れて、スライムを倒していく。何匹かを倒すと、賑やかな音とランプが激しく点滅し、ブラックスライムがマーモットの前に現れる。
『ブラックスライムとの激闘! 星3』
「なんかピカピカ光ってりゅ! なんかしゅごい光ってるお!」
結構熱いリーチだ。マーモットがブラックスライムと戦い始めて、幼女は大興奮だ。
「まーちゃん、頑張って!」
興奮するニニーが応援して、その応援が力となったのか、マーモットは見事ブラックスライムを倒し、5列全てを指輪の絵柄に揃えるのであった。
まさかの一発。設定が甘すぎたかな? 5列揃うのは地球でも見たことがあんまりないよ!
驚く俺たちに、ぴょんぴょんと飛び跳ねて幼女は大興奮。将来ギャンブラーにならないように要注意である。
そうして微かにお婆さんの泣き声がBGMに混ざり、コロンと指輪がニニーの前に転がるのだった。
『ニニーヴの指輪。ニニーヴのみ装備すると全ステータスを2倍にする』
なんかチートアイテム出た。ビギナーズラック恐るべし。
「おぉ、なんか凄そうなアイテムを出したぞ」
「イカサマじゃないみたい」
「誰かコインに変えられないの?」
見守っていた人々も強力なチートアイテムを前に判断力をなくしたのか、今度は俺もと集まってきた。さっきまでは魔力を吸い取る恐るべき呪いの機械と呼んでたのに現金なものである。
魔力が足りなくて倒れる人など気にしないで、皆コインに変えていく。
そうして、スロットマシンの結果に悲喜こもごもの結果となり、皆の喜ぶ声や泣き声が響くのであった。ギャンブルで身を持ち崩すって物理的に倒れるんじゃないと思うけど、俺はマーモットだから人間のことはあんまりわかんないや。
「ボス、あのスロットマシンは軍を強化するのに使えるであります」
小声でアミがこっそりと声をかけてくるので、コテリと首を傾げる。
『スロットで大当たりをした人を隊長にするとか? それって人間性を無視するから危険じゃない?』
「いえ、そのような運任せではなく、単純に魔力10以上は戦闘職に就けるだけの地力があるということでありますよ」
『ははぁ〜、なるほどね。そんな使い方ができるとは盲点だった。そっか鑑定がない世界だからこういう方法で魔力を数値化できるんだ』
高ステータスなら戦闘職に就きやすい。でも、将来にスロットマシンの前でコインを変えることを大人になる洗礼の儀式とかになると少し嫌だな……。おぉ、この子はコインを5枚も交換できたとは逸材じゃ! とか、斬新すぎる。
でも、来るかどうか分からない未来を気にしても仕方ないか。
『オッケー。それじゃコインに変えることができる人は軍に勧誘してよ。アミが元帥ね』
『了解であります。あとは装備の問題でありますね』
『素手は限界あるしね。四肢身中の虫ならぬ、マモ身中の虫がいるか確認を━━』
アミとこれから先の話をしようとしていたら、魔本がぽふんと煙を出して、少女へと姿を変えた。
「げっふ! ひ、ひどい目に遭いました!」
あれ? この子は本屋鍵音だ。なんでここに? 俺の魔本はどこに消えたの?
「ひひひひひ、酷いですよ、マーリンさん。私は盾じゃなくて本だったんですから、剣を受け止める盾にしないでくださいっ!」
「魔本に変身してたの!?」
「そうです! わたわたわた、私は大天使たちに選ばれし聖女本屋鍵音なんですから、扱いに気をつけて!」
プンスコ怒る鍵音だけど、そっか、これが鍵音の使い方とか言う話だったのか。魔本とは便利で助かるよ、謎のメイドさんありがとう。
感謝の念をお手々を合わせてメイドさんに送るマーモットだ。これから先に魔本はきっと役に立つ。
「マーリンさん、私の話を聞いてますか!? 魔力が尽きるまで人間に戻れないと分かって泣きそうだったんですから! あと齧るの禁止でお願いします。破れるかとヒヤヒヤしてたんですよ!」
「うんうん、分かったよ。これから先、持ち運ぶの大変だなぁと思ってたんだ。なぜかアイテムボックスに魔本は入らなかったし。これからはマ王の秘書にするから一緒に悪魔を倒そうね」
「精神力が回復しないと無理ですっ! こんな契約なんて……たしかに悪魔を封印できますし? そのスキルを使うこともできますけど……こんなはずじゃないと思います〜」
感動で嬉し泣きをする鍵音をぽんぽんと叩きながら、俺は新たなる仲間を手に入れたのであった。
「ママ〜、あのおねーちゃんマーモットとお話ししてるよ〜?」
「ペットと話す人は多いのよ。きっと孤独で寂しい人なのね」
あと、鍵音は変人だとも思われるようになったが些細なことであろう。
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