5マモ 逃げる準備をしよう
「まずは防寒対策として拠点を暖かくする必要がある。これ、なんのスキルを取得すれば良いのかなぁ」
AIアシスタントに相談したいけど、相談した途端にスキルを勝手に取得させられる可能性が高い。なので、質問は躊躇っちゃうんだよ。
早くしないと、ガラスが割れちゃった窓からはどんどん冷気が入ってくる。天井も崩れてるし、ここは生活拠点としては、もう駄目だ。
愛すべきお家だったけど、ここは生活拠点を変えるしかない。だが問題なのは仲間たちだ。一度お家にしたこのビルから移動するのは嫌がるだろう。それに外に出るのも危険すぎる。いくら念動力があっても、複数の魔物に襲われればおしまいだ。
「ウ~ン。ミカたちを守りつつ移動する方法……。召喚術か?」
どうあっても俺はマーモット。リス科の中で最大の生き物でも他者から見れば子犬程度。弱い存在なのだ。庇護してくれる者が必要なんだ。
そして、それは裏切らない者が絶対条件。マーモットはのんびり屋だから、知らないうちにさらわれそうだし。特に俺等は野性ゼロだし。飼われてる動物は外では生きていけないと言われてるし、のほほんと寝ている姿からサバイバル能力は感じられない。そもそもマーモットは野生のマーモットでものんびり屋さんに見えるしね……。
となると、裏切らない存在。即ち召喚獣一択なのだけど、良いのあるかな。スキル一覧を閲覧していくと━━驚くべき内容だった。
「げげ、召喚獣と契約する普通の召喚術と元から契約済みの一人しか召喚できない固定召喚術に分かれてる! むむむ、今の状態だと魔物と契約なんて夢の夢、そのまた夢だから契約済みの固定召喚術しかないか……まぁ、ある意味楽だけどね。レベル1の固定召喚獣も多いなー」
さすがは全スキルを取得できるという言葉は伊達ではない。本来は各神々の固定召喚獣だろうに全てが表示されており、しかもその数は数万匹はある。
一覧を見ていき━━。面白い召喚獣を見つけた!
「これ! これ良いな。君に決めた!」
『経験値千を消費し、デビルバギーレベル1召喚術を取得した』
ホラー映画とかで、車に乗り走っている主人公を延々とついていき殺そうとする謎の車。その中身はお化けだったというやつだ。
「早速、外で使ってみよう」
テテテと四本脚で走って、ビルの外に出る。二本足で立ち壁に張り付いて、そ~っと外を覗く。マーモットなのに不審にしか見えないが、マーモットは二本足で立つのが得意なんだ。
外は酷いものだった。ビルが大木に貫かれて崩れたり、煉瓦の家屋が潰れたりしてる。道路のアスファルトは砕けて岩が突き出ていたり、信号機は傾き、車両が放置されひっくり返っていたりする。
……なんか変だな? まるで元からあった場所に街が無理やり融合したような……。異世界転移で土地ごと転移したからか?
途切れ途切れのクリスマスソングが不気味に奏でられており、遠くから悲鳴やなにかの鳴き声が聞こえる。ゾンビゲームの導入部分みたいで、かなり怖いんだけど?
「ゾ、ゾンビが現れても、マーモットを食べようとはしないよな。ゾンビの相手は常に人間。俺はマーモット。狙われない狙われない」
ものすごく怖い。ブルブル震えて、そっと外に出ると、手早く手を翳す。小動物の無詠唱発動! さっさと試してお家に戻ろう!
無詠唱でも即時発動というわけではないようで、自分の身体から青いオーラが吹き出すと、オーラが地面に魔法陣を形成させていく。1分くらいだろうか、魔法陣が描き終わると光り輝き、ゴツい様相の軍用バギーが姿を現した。
「見かけは普通の軍用バギーだな。これが召喚獣なのか?」
『軍用バギー:下級悪魔が憑依したバギー。エアコン完備。掃除もしてくれる優れもの。頑丈さとオフロード、水上も走れる万能性を持つ』
おぉ、予想以上に凄い優れものだ。見かけはモスグリーンのシャーシ。装甲が付いていて頑丈そう。完全密閉型のバギーだ。四人乗りで後部に荷物を置けるスペースあり。
「えっと……バギー君で良いのかな?」
『%%%%%』
恐る恐る近づいて、友好的に手を挙げると、ガタガタと車両を震わせて、なんか脳内に語りかけてくる。うん、さっぱりわからないや。悪魔語とか習得しないといけないのかな?
「え~と、言語読解系統は……これか」
『経験値千を消費し、言語読解レベル1を取得しました』
これでOKか。
『%%%%%』
「……まじかー。悪魔語はレベル1だと駄目かぁ。それじゃレベル2に……げげ、経験値4000必要!? ぐぐ、でも話せないのは困るから取得!」
『経験値4000を消費し、言語読解レベル2を取得しました』
これでOK。
『%%%%%』
……こ、これでOK。
『%%%%%』
ガーン!
わからない! 悪魔語はもっと高レベルなのか。ちくせう、レベル3を取得するしか━━。
「ガガーン。経験値9000必要!? 経験値テーブルえぐっ! ネトゲー並みにえぐっ! そ、そそりゃそうか。千ずつ加算だと、一カ月くらいで最強になれそうだし。妥当な経験値テーブルというわけか。……はぁ、もう経験値を消費するつもりもないし、そもそも足りないし。フィーリングで会話するしかないかぁ。あ、『念話』ならどうだろ? 召喚獣との好感度って大事だもんね」
なにがなんでも召喚獣と話そうとするマーリン。その姿はギャンブルで負けすぎても懲りずに金を賭けるおっさんにも似てるが、考えなしに取得した。
『経験値千を消費し、念話レベル1召喚術を取得した』
『念話:半径14キロ内の仲間と念話可能。ただし返信を貰うには相手も念話スキルを持っていないと駄目である』
ガ~ン
思わず立ち上がって、呆然と口を開けちゃう。そんなんあり? スマホじゃないんだから……え~! うぁ、哀しいけど……試してみるか。
両手をこめかみにあてて、ウ~ンと唸り念話を送る。大きなリスのようなマーモットがウンウンと唸る姿は可愛いので、見た人は写真撮影お願いしますと強請ってくるかもしれない。
『バギー君。聞こえてますか? 聞こえていたらドアを開けてください』
ガチャとドアが開いた。どうやら声は届いた模様。念話スキルは一応使えるか。死にスキルにならなくて良かった。なんとなく納得できないけど良しとしよう。会話? 動物との会話はジェスチャーとオヤツが必要なんだよ。
「それじゃ次は人間系統。誰も運転席にいなかったらおかしいしね。これだっ!」
次の取得スキルはもう決めてあるのだ。ペチッと爪でステータスボードを叩く。
『経験値四千を消費し、デビルアーミーレベル2召喚術を取得した』
『デビルアーミー:魔界の下級軍人』
デビルアーミーを選択すると、続けてスキルを取得!
『経験値千を消費し、複数召喚レベル1を取得した』
『複数召喚:取得レベル分の召喚獣を同時召喚可能』
「ふははは。ここにも罠があるのは『理解』してたのだ! 召喚獣って、本来は一体しか召喚できないんだろ? AIアシスタントめ、俺は引っ掛からない!」
もふもふの身体をそらして、ピギーピギーと高笑いしちゃうマーモット。このスキルは必ず罠がある! たぶんある! 油断すると、使えないシステムなのだと『理解』してる。
「さもーん、デビルアーミー!」
ちっこいお手々を振って、デビルアーミーを召喚する。と、一気に身体から血を抜かれたかのようにふらついてしまう。うぅ、これがマナが消費するということか……さっきのデビルバギーよりも多いな。
ステータスを見るとマナが5減ってた。バギーは2減ったから倍以上か。
それにしても、不思議なことだ。なにしろマーモットなのに自然と魔法を使えてる。まるで昔から使えたかのように不自然さがない。これも小動物の加護の力が加算されてるのかな?
魔法陣が描かれると、漆黒の光の中で人間が姿を現す。頭にはヘルメットと目を防ぐバイザーとフェイスカバーを着けており、足まで隠れる黒い服の上に防弾服と軍用ブーツ。肩には長方形のアサルトライフル。たしか無薬莢弾を使う浪漫のアサルトライフルだ。腰にはハンドガンと軍用ナイフ。閃光弾と手榴弾も着けてる。
特殊部隊って感じでかっこいい! 顔が見えないけど、中身は悪魔とかゾンビでないことを祈るよ。
そして、背中には『MAMOOTO』との英文が書かれていた。SWATではなく、マモットだ。マーモットを守るための兵だね!
「か、かっちょいいー! よろしくね、俺の名前はマーリンだよ」
二本足でよちよちと歩いて、デビルアーミーの脚をペチペチと叩いてご挨拶。ふふーん、ここは召喚獣を使い捨てにはしないマスターだとアピールだ。マーモットのかわいさにメロメロになるが良い!
「……」
「よろしくね、俺がマスターのマーリンだよ」
「……」
反応ないな? んんんんんんん?
も、もしかして……。
『よろしくね、俺の名前はマーリン。君のマスターだよ』
「デビルアーミー。コンゴトモヨロシク」
念話を使うと、地獄から這い出してきたようなガリガリと人の心を削る声音で答えてくれた。
日本語で。
ガ~ン。分かっちゃった。
マーモット語は他の人たちにはピギーと鳴いてるようにしか聞こえないと! マーモットは人の言葉を喋れないことが判明しました!
ある意味当たり前のことを自覚して、ショックでぐでーんと寝そべるマーモットだった。同情したのか、デビルアーミーが撫でてくれるのがちょっぴり嬉しい。
そっかぁ。マーモット語は鳴き声に聞こえるのかぁ。そりゃそうだ。人の言葉を話せる声帯持ってないもんね。取っててよかった念話スキル。
「あっ! ということは今までの会話は、他の人には高音の鳴き声に聞こえていた? ということは……」
まずいことをしていたと、慌てて周りを確認する。だってマーモットの鳴き声は本当に防犯ブザーのように甲高いのだ。
こんな町中で鳴いていれば……。
「アぅぅぅ〜」
「ヴァぁぁ~」
「脳味噌をくれぇ〜」
放置された車両や、破壊されたビルの陰から人間がゾロゾロと大群で姿を現すのであった。
嘘です。白目を剥いて、血だらけの奴らはどう見てもゾンビです。
ヤバい。強制イベント、『ゾンビの大群から逃げろ!』を発生させたみたい!
マーモットだから、考えなしなのは仕方ないよね?
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