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どうしても、彼の姉妹は納得がいかない、の形

「結局あんた、何を考えてるの?」


 九十九家のリビングにて、せっせと洗濯物を畳んでいた俺はお姉ちゃんに問い詰められていた。助けてママ~と母さんに泣きつきたいが、生憎と母さんは今日も遅くまでお仕事だ。まなみが夕飯を作ってくれている間、珍しくリビングでくつろいでいた姉さんが今日の生徒会室でのことを思い出して、不機嫌そうに言った。


「あんたがその気になれば空手で勝つなんて簡単なことでしょ? わざわざ私たちにまで頼って、何のつもり?」


 さすが姉さんだ。話の内容によらず、言葉一つ一つがヤマアラシみたいにとげとげで、いつでも俺を刺してくる。


「いや、あいつは高校生全体で見てもトップクラスの実力者だから、流石に」

「だから、それがどうしたの? そんなこと、あんたには何の意味もないでしょ?」


 ほんとこの人、俺の話聞かないな。ここまでくるとちょっと逆に嬉しくもある。病気かな? 一応怪我は治ったんだが。

 心底不思議そうに、不機嫌そうに、眉根を寄せてソファーの上から、洗濯物を畳む俺を睨みつけるという言葉が一番似合う可愛らしいルンルンで見つめて来る姉さん。


「なになに! 何の話してるの?」


 そんな姉さんにどう答えたものかと考えていると、夕飯の支度を終え机の上に食器を並べていたまなみがちょっと興味深そうに聞いてきた。……ふむ、食器を見る限り今日は鍋か。奉行として腕が鳴るな。ちなみにうちでは灰汁代官も兼任している。立派な役職だけど残念ながら俺以外主君しかいないんだよな。どちらにせよ使いっぱしりの雑用です。


「……なんか、今週末の空手大会で空手部のエースと勝負するんだって」


 一瞬、部外者に一から説明するのを面倒そうに顔をしかめた姉さんは、しかし簡単にではあるがまなみに説明した。

 姉さんは基本的に人に厳しく人当たりはすこぶる悪いが、嫌っていたりわざとそういう態度を取っているわけではない。それが姉さんの素なのだ。俺に対しては拒絶百パーセントで勇気満々なのだが、それ以外のまなみや母さんに対しては普通に……というとちょっとあれだが、厳しいだけで根は優しい。いやまあ、俺が言ってもなかなか伝わらないとは思うが、とにかく、根っこのところはお姉ちゃんなのでまなみに甘い。勉強教わってるときはびっくりするくらい厳しいけどな。


「え、お兄ちゃんが出るの?」

「いや、そういうわけじゃないんだが。前に育才部って部でちょっとした生徒のお悩み解決みたいなことやってるって話しただろ? あれの一環でちょっとな」

「育才部……って、花火大会のときの時に会った、一ノ瀬さんたちとやってるって言ってたやつ?」

「ああ、その部の依頼でちょっと強い奴と戦わなくちゃいけなくなって、そのままじゃちょっときついからズルするんだけど、その協力を生徒会に頼んでんだ」


 ここまで話したのならきちんと話しとくかと経緯を簡単に説明すると、まなみは「ほんとに部活してたんだ!」ってちょっと驚いていた。いや、あなた部長にも会ったよね? たしかにちょっと遊んでいるだけというかイチャつている(一ノ瀬×皇)だけと言われてもこれと言って否定できる要素はないが、それにしてもお兄ちゃんちょっとショックです。


「てゆうか、ズルすること前提なんだ……」

「始めから正々堂々戦う気がまったくありませんって顔で協力頼みに来たからね、この子。あらためて考えるとあんたちょっとおかしいわよ?」


 まなみの呆れたような声にそういえば確かにそうねと思い出したように言いながら、姉さんも呆れ混じりの目を向けて来た。いや、姉さんもちょっとどころか大分おかしいからね? 気づいてるか分かんないけど。でもそう考えたら俺の周りはおかしい奴しかいないので、これが普通なのかもしれない。何気に俺が一番常識人じゃないか?


「でもお兄ちゃんなら、べつにズルなんてしなくても簡単に勝てちゃうんじゃないの?」


 いや、だから何でみんな変なところでそんなに俺の評価高いの? ブラコン? ブラコンなの? 俺もシスコンだから相性良いと思うよ? ……こういうこと言う奴が一番合コンで煙たがられるんだよな。というか普通にいるだけで煙たそう。タバコ吸ってる的な意味じゃなくて、人間的に。


「余裕で勝てるのなら苦労はしないけど、そうじゃないからこうしてズルしてるわけで」

「でも、お兄ちゃんだよ?」

「お兄ちゃんだな」

「お兄ちゃんなのに?」

「お兄ちゃんなのに、だ」

「うーん……」

「いや、うーんて……」


 妹に自分の不甲斐なさを自ら話すという中々の拷問に、眉を八の字にしながら答えるも、なかなか納得いかない様子の我が妹。母ちゃんに全力で挑んだテストの答案を見せて「なんであんた本気で勉強しないの? ゲームばっかりしてるからこんな結果になるのよ!」と、信頼しているのか煽っているのかよく分からない感想を受けている気分だ。内輪贔屓って出来ないことを自覚してるとメチャきついんだよね。……たぶん。


「……本当に、何を企んでるの?」


 まなみとともに「うーん」と何やら納得いかなそうに首を傾げていた姉さんが、いよいよ限界が来たらしく、きっつきつに眉間に皺を寄せてどすの利いた声(*鈴の音のような響きだよ?)で睨みつけて(*リカちゃんみたいな瞳だよ?)くる。


「……な、なにも?」

「ハア?」

「はい! イエス! イエス、マム‼」


 きゅるるんとした可愛らしい効果音がつくこと間違いなしの愛くるしい、それこそ少女向け人形のような瞳で言うと、世紀の大悪魔然とした地の底より響くがごとき低い低い返事が返ってきたので、九十九帝国に忠誠を誓った一兵として手を挙げた。ほんと、姉さんは我が家の暴君(ヒットラー)。その()()ミがト()そのもの。


「……まったく。鬱陶しいわね」


 さすが姉さん。ゲゲゲの下僕であるところの俺の忠実な敬礼に吐き捨てるように言って、フイっとそっぽを向いてしまう。ほんと、心の底からぞくぞくするな。……いや、嫌わないであげてね? 姉さんこれでもすっごい根はいい人だから。ただちょっと九十九万才(特定の人間)だけ全否定しちゃうだけだから。世間ではそれを差別って言うだけだから……。


「あはは……。ねえ、ホントに勝てないの?」

「………」


 から笑いしながら、まなみが言った。そっぽを向いていた姉さんもチラとこっそりこちらに視線を向けている。


「勝てないんだよなあ」

「「………」」


 変わらない事実を伝えるが、やっぱり二人は納得のいかない様子で唇をムッツリさせていた。


 まったく、ブラコンだな。


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