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カイの温もり


 最初はとっても寒かったんだ。誰かが僕を抱っこしているだけど、その手はとても冷たくて気持ちが悪かった。


「へっ!これで俺様も高位貴族の仲間入りだぜ!」


 汚い声、汚いくて冷たい心。こんな所に居たくなくて爪を伸ばし引っ掻いた。


「いてぇ!クソが!」


「ニィー!」


 僕は暗くて狭いところに閉じ込められた。袋の中だったと思う。怖くて怖くてお母さんを呼んだけど、迎えに来てくれなかった。


 次に僕はとても良い匂いのするあったかくて大きな掌の上にいた。この人は怖くないって思った。


「ベルワイト卿、本当に彼の国はこの子を我が国に譲ってくれたのだな?」


「ええ!勿論ですとも、国王様!私の必死の努力とお願いで!」


 嘘だ。僕には分かる。あの冷たい人は嘘をついている!


『んな訳ねーんだよ!拉致って来たに決まってんじゃねーか!誰がこんな貴重な生き物を渡すかってんだ!このお人好しの国王が!!』


 何か良くない事を考えているみたいだったけど、嫌な気配しか僕には分からなかった。

 でもあったかくて大きな手の人は、小さくて震えている僕をあっためてくれた。僕はこの人が好きになった。


「そうか、そうか!良く我が国にいらした!末長く仲良くして欲しい。……名前はそうじゃカイなんてどうじゃろう」


 僕はカイって名前になった。それから僕はまた冷たい所に閉じ込められた。


「カイ様に病気が見つかりました。魔術治療を施します」


『な訳ねーだろ、洗脳と封じだよ!この国から出られないように慎重に呪いをかけるんだよ!』


 冷たくて大っ嫌いな人はあったかくて大好きな人から僕を掴み上げる。嫌がると、なんだか眠くなってくる……。


「カイよ、早く良くなっておくれ。もし、わしがいなくなっても、わしの孫やわしの血筋の者とも仲良くしてくれると嬉しい。わしに連なる者とお前が仲良く暮らす日を想っておるぞ」


 僕は眠くなる、色々な事を忘れていく。でも、あったかい手と仲良く暮らせる未来は僕の中にしっかり残った。


 ずーっとずーっと夢を見ていた。僕はあったかい手の男の子と一緒にご飯を食べて、お昼寝をして、ちょっぴり苦手な勉強をする。

 木登りをして、怒られて。庭で走り回って夜一緒に眠るんだ。


「……カイ、一緒にご飯を食べよう」


「あれ?」


 夢の中の男の子はいつの間にか大きくなっていて、大人になったその子は小さな頃とは全く別人になっていた。


「カイ?」


 青い目が僕を呼ぶ。


「にゃん!」


 僕は、大好きな目が昼間の空みたいに青くて、キラキラする銀の髪の人の腕に飛び込んだ。



「あれ?」


 ぽかぽかと午後の日差しに暖められた布団の上で僕は目を覚ました。


「起きたかい?」


 机で書類を書いていた手を止め、僕の大好きな人がやって来る。


「キルリス様。僕、昼寝してました?」


「うん。お昼ご飯食べ過ぎたって言ってたからね。ふふ、面白かったよ?人で寝始めたのに途中で猫になってね、何か夢でもみてたの?カイ」


 夢?夢を見てた。あんまり覚えてないけど、何かとても昔の懐かしい夢だった気がする。


「はい!でも最後にキルリス様が出てきて僕を抱っこしてくれたんです」


 僕の今の姿は猫だ。布団の上で尻尾を高くして、飛びかかるポーズをする。


「ははっ!夢の中だけでかい?」


 キルリス様は両手を広げてくれた。


「にゃん!」


 ぴょん!と躊躇わず、僕はキルリス様に飛びついた。


「ふふ!可愛いなあ!」


 何なく僕を受け止めて、なでなでしてくれる暖かい手。僕がうっすら覚えている大きな手より、もっともっとあったかくて大好きな手。


「えへへ、ずーっと一緒にいて下さいね」


 すりすりと擦り寄ると僕のお腹にもふっ!と顔を埋める。


「にゃっ?!」


「あー、暖かいお日様の匂いがする。カイはあったかくて良い匂いだ」


「僕、あったかいですか?」


 黒い毛が良く熱を吸収したかな?


「うん、私の疲れも吹っ飛ぶくらい暖かいよ」


「じゃあ僕がキルリス様を暖めてあげますね!」


「ありがとう、カイ」


 僕はもう暖めてもらうだけの子供じゃない。大好きなこの人と暖め合いながら生きて行くんだ。ずーっと仲良くね。



 カイの温もり 終


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