10 ミリオネア(10) -三人side
「エマさん、こんな所で何をしているんですか?」
「ファリス様」
何か音がすると思って食料庫の方まで来てみると、カリーナの侍女として船に乗った人が、閉じ込められている。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
「どうして食料庫なんかに」
「私が聞きたいですよ、急に背中を押されたかと思えば、外から鍵までかけられて、、、嫌がらせをされる程厳しくしたつもり無かったんですけどねぇ」
「誰にですか?」
「侍女見習いにと連れて来て娘ですよ」
「商隊にいた?」
「ええ、でも良かった、このままここに取り残されたらどうしようかと思っていましたよ」
「もっと早く来ていたら、、、」
「とんでもない、これで充分ですよ。まさかこんな所に人がいるなんて考え無いでしょう?」
「それにしてもどうして?」
「嫌な人だと言われましたよ、貴方も嫌な人だって」
「貴方も?」
「えぇ、確か、、、」
「貴方もって誰の事だろう? カリーナ?」
「まさか、船に乗れたのだって、カリーナ様のおかげなのに、、、」
「ちょっと気になるな、甲板に上がってみましょう。そろそろ暗くなるし、ミリオネアにも着く頃だ」
「まぁ、大変。カリーナ様の服装も整えないといけないのに、、、」
エマさんと一緒に食料庫のあった船内から上に上がる。
本来ならそろそろミリオネアに着く頃だと思うが、出発が遅れたので既に辺りが暗くなっているのにまだ船が移動している。
『珍しいな、ヒューイ様がこんなに時間をかけるなんて』
精霊は気まぐれだ、彼等に当たり前を求めても仕方がないのかも知れないな、、、そんな事を考えながら船上に戻ると、侍女見習いの娘に手を引かれたカリーナが目に入る。
*****
「どうしてアレス殿は、あの娘をカリーナの側に置くのかな?」
「なんだ、侍女まで側に寄らせないつもりか?」
「あれが侍女?」
「まぁ、確かに見習いとは言っていたが、、、」
カリーナの手を取って船尾に連れて行く様子は、彼女が友人の我儘を聞いているだけにしか見えず、とても侍女のする事では無い。
「あれがカリーナに甘いのは、今に始まった事では無いのだろう?」
「それにしても、仕事の出来ない娘を側に置いても意味がないだろう? まだエルメニアのドレスを着ているじゃないか」
「もう一人いたと思ったのだがな」
「そう言えば姿が見えないな、船酔いでもしてるのか?」
「船酔いする様な者を連れて来るとは思えんが、、、」
「全く、何をやってるんだ。あんなに船尾に行ったら危ないだろう」
「なんだか無理矢理連れて行こうとしているみたいに見えるな」
「確かに、ちょっと止めてくるよ」
*****
「アレス、また飲んでるのかい?」
「少しだけだ」
「量は関係ないだろう? 北の酒は強いんだから」
「お前もカリーナに"ネロの実"を渡していただろう?」
「ちょっと船酔い気味だったから、少し眠った方が楽になるかと思ってね」
ミリオネアで取れる"ネロの実"は、発酵すると酒になるが、アルコールに慣れない者ならそのまま食べてもちょっと酔った様な状態になる。
「今まで酒を口にした事も無いんだぞ」
「キミはカリーナの兄君より口煩いね」
「ロアンが船酔いで酷い状態なんだから、カリーナの面倒を見るのは当たり前だ」
「キミにとっても妹だから?」
「、、、そうだ」
「始末に負えないな」
「何が言いたい」
「別に」
「それより、船の進行を任せていたんだけどな」
「心配しなくてもちゃんと進んでいるよ」
「リュートも弾いていないのにか?」
「ちょっと休憩中」
本来なら精霊に贈り物をしなければ進まない船が、彼がリュートを弾いてもいないのに進んでいる事になる。
「知られるぞ」
「困るのかい?」
「言っただろう? 俺はお前を気に入っているし、お前以上の"精霊使い"を知らないんだ」
「分かったよ、役目に徹する事にしよう」
「頼む」
「キミも部屋から出て来なよ、カリーナも目覚めたみたいだ。港に着くまで寝ていると思ったんだけどね」
「そうか」
「だが危ないな」
「何がだ」
「船尾に行きすぎだ、風が舞うと巻き込まれる」
「お前は船を頼む。俺が様子を見てくる」




