11 旅の途中(11) -ロアンside
「なぁ、ロアン。少しミュールの方を周って行かないか?」
「何かあるのか?」
「いや、お前が早く帰りたい気持ちも分かるが、、、この辺りに来たのも始めてだろう? それに荷を少し奪われたからな」
「それならロニアの方がいいのでは無いか? ミュールの香水はルートが確立されていて、入る余地が無いと言っていただろう」
「それはそうなんだが、、、今の時期、あの辺りは花も咲いていて、、、綺麗なんだよ」
「何か考えがあるのか?」
「いや、、、そう言う訳ではないが、、、」
珍しい、いつも即断即決のこの男が言葉を濁してハッキリしない。
「俺はいいよ、まだ時間は十分あるしね。寄り道するなら少し留まって街を良くみておきたいな」
「そうか、なら街の中にも泊まるようにしよう、手配をしておくよ」
安心したように妙に嬉しそうな顔をする。
『なんだ? ミュールに気に入った娘でもいるのか?』
王都の屋敷では全くその様子が見えなかったが、彼が数年前までそう言った相手に不自由していなかった事はよく知っている。
18歳の頃から“赤の騎士”と呼ばれ、王都やその周辺で彼に敵う者はいないほど強かったし、明るく茶目っ気のある性格の彼はとにかく人気があった。
婚約するような相手との付き合いは無かったが、割り切った付き合いをする夫人はいたし、この男は、そういった相手からもなぜか憎まれる事がない。
五年前、義妹のカリーナの相手にどうだと聞かれた時も、なんと答えて良いか迷ったのを覚えている。
友人としては信頼もしているが、これが義妹の夫として信用できるかと言われると自信がない。
幼い義妹など、片手であしらわれてしまいそうで、幾ら先の話だと言われてもどうにも納得出来ない物を感じていたが、結局、それは杞憂に終わった。
彼は幼い義妹ではなく、よく笑う明るい女性に惹かれ、その時、本気の相手が出来れば彼も変わるのだと思った。
彼を本気にさせた相手は、全く別の相手を選んでしまったが、今ではその恋敵とも友人関係が続いている。
彼が北の国から帰って来ても、以前惹かれた相手の話ではなく、恋敵だった相手の話をよく聞くようになっているが、残念ながら、彼の相手が一向に出てこない。
屋敷に入り浸っていれば妙な噂が出る始末だし、気楽な付き合いもしていないようなので、心配していたが、気になる相手がミュールの街周辺にいるなら良い事に違いない。
自分もここ数年は、随分彼の手を借りたので、出来れば友人にも恩を返したい。
しかしどんな娘だろう? と興味を引かれる。
確かミュールのイスレイン家には、20歳になる未婚の娘がいる。
ウエストリアのファーレン殿に恋をし、彼の心を捕らえ、ローエングルグ家の嫡男であった彼をイスレイン家の当主とした女性の娘。
元々、サウストリア地方の女性達はとても強い。
海に面した土地が多いので、男性は海岸線の警備や船に乗る事が多いため、土地を守るのは女性になる。
その為か、家を守り子どもを育てる女性が相手を選ぶという感覚が強いので、気に入った相手がいないと婚姻関係を結ばない娘達もいると聞く。
確かにアレスは、選ばれそうな気がする。
それに気付いていてその土地に行こうと思っているのなら、彼もその気があるという事なのだろう。
これは是非、後押しするしか無い。




