3.
デスクトップのショートカットからツールを再起動したマサトは、画面に手を伸ばし、また眠りこけているアニマトリンの頭をタップする。
「ふぁい」
眠そうな声に続いて顔を上げたアニマトリンが大あくびをする。
「とにかく、使い続けられるってことで安心したよ。セキュリティパッチが降って来なくなるのは気になるけど」
すると、目を覚ましたアニマトリンがヒョイとステータスバーの上に跳び上がり、拳を握った右手を胸の前に当てた。
「ご安心くださいませ、ご主人様。私が未知のウイルスを撃退して見せます」
「それは頼もしいAIだね。ヒューリスティック検知の機能まであるの?」
「いえ。アシスタントAIが使うネットワーク経由で感染者からパターン情報をもらいます」
「それ、未知じゃないよね……。それより、4Dプリンター出力は着色まで終わったかな?」
マサトは、自分が平面で描いたキャラクターをアニマトリンに3Dデータ加工をしてもらい、それを朝から4Dプリンターで出力していた。造形の複雑さによって半日から1日かかるのはざらで、完了時刻の予想が難しく、気長に待つしかないが、待った分だけ楽しみも多い。
何もアニマトリンに訊かなくても自分がこの目で確認すればいいと気づいて部屋の片隅を見るマサトに、直ぐさま答えが返ってきた。
「ご報告が遅れました。申し訳ございません。すでに終わっております」
「今度のフィギュアは、どうやって動かすんだっけ?」
「拍手すると、一緒に拍手します。頭を撫でると喜びます。声は出ませんが」
「頭を叩くと?」
「痛そうな顔をしますが、いじめないでくださいね、ご主人様」
床に置いてある、3方向が30センチ以上ある4Dプリンターに目を向けると、ガラス越しに着色済みの2頭身キャラが出来上がっているのが見えた。市販のなんとかドロイドより少し大きめのサイズ。なんとなく、ミユキがショルダーバッグにぶら下げていた人形の大きさに見えなくもない。
3Dプリンターだと動かない物しか出来ないが、4Dプリンターは環境の変化に合わせて動く物が作れる。今回の物は、音を出すことと触れることで反応するフィギュアだ。
自分が描いたキャラクターが動くフィギュアになる。この楽しみがまだまだ続けられると思うと、マサトは発売元の倒産による心配事が薄れていった。