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変な人とおきつねさま  作者: 鈴谷
番外編
17/17

番外さん:おきつねさまと小さな約束〈後〉

 教室に戻って袋に割烹着を仕舞い込み、人心地ついて伸びをする。

 次はお昼だ。今日は教室にしようかな、日差しも丁度良いし外もアリだよね。

 暖かな日差しが零れる机に手を当て、鼻歌交じりに昼のプランを練る。


「そーひふぇふぁ。かふぁぎもふむ」


 後方から謎の言語で話しかけられ、浮かれかけた気持ちが引っ込んだ。


「南野。何言ってるのか――少し分かるけど飲み込んで喋って」


 三科の机に浅く腰掛け、頬一杯に洋菓子を詰め、「そう言えば笠木さぁ」とふもふも喋っている南野へ冷たい視線を向ける。


「まひふぁっ!? さふふぁんぐ。やっぱ笠木はただ者ではないよな」


 驚愕に瞳を見開き「マジか!? 流石」とか言われても全く嬉しくない。

 変人さんはお返しに渡したマドレーヌを黙々と、だがリスのような勢いで囓っている。

 練ろうとした昼食プランを思考の端に押し込み、机の脇に下げていた二人分の弁当箱を引っ掴んでどう見ても飢えている変人さんの元に急ぐ。


「はい今日の分っ」

「わーい。おべんとー」


 やや乱暴に置かれたのも気にせず、黒い瞳を潤ませて無邪気に喜ぶ変人さん。

 長きに渡るわたしの懇願きょういくの成果で「いただきます」と丁寧に両手を合わせるまでになった三科が食前の挨拶を述べて箸を持つ。

 うんうん。偉いぞ三科。


「それで南野、なんだっけ」


 幸せそうにおいなりさんにかぶりつく三科を横目で眺め、首を傾げる。


「笠木の肩に狐居るだろ」

「うん」

「む。違う。おきつねさまー」


 大人しくご飯を頬張っていた三科が、相槌を遮る。

 どうしても「おきつねさま」と呼ばないと駄目なんだな三科。


「あーはいはい。おきつねさまが居るよな。それって何時からなのかふと気になってさ」

「随分唐突な。んー、そういわれてもねぇ。

 わたしだって三科に言われてなかったら居る事すら分からなかったんだし」


 南野の素朴な疑問に思わず考え込む。そう言えば、どうしてわたしの両肩に狐が居るんだろうか。

 変人さんの存在自体が充分すぎるほど怪奇現象だったから、おきつねさまの事まで頭が回らなかった。

 冷静に考えればわたしの現状はおかしい。

 三科に初めて声を掛けられた時だって「何言ってるんだ」と思った位は普通じゃない状況に置かれている。

 あれ、待てよ。と言う事はもしかして、怪奇現象は三科ではなく他ならぬわたしだと言う事に。

 …………。そんなはずはない!

 うん、そんなはずはないな。わたしはフツーの人間だ。非の打ち所のない常識人!

 よし、それ意外の帰結は無い。終了。

 不吉な予想をその辺の壁に塗り込めて考えを切り替える。


「笠木。……やしろ

「ん?」


 箸の先端をくわえていた三科が、小さく言葉を零す。

 黒いメノウみたいな目を見返すと、覗き込むように三科が顔を上げた。


「おまいり、覚えてない?」

「うーん。お参りなんてあちこちでしてるし」

「そういや、この辺って社多いもんなぁ」


 眉を寄せるわたしに南野が首を縦に振った。

 うーん、と小さく唸った変人さんは、わたしの肩に向けて数回口を開閉する。


「古い社は覚えてないか、っておきつねさまが言ってる」


 視えない肩の住人とナチュラルに会話する三科。

 もう日常風景になりつつあるその光景を深く考えず、記憶を探る。


「あー、そう言えば。なんかさっき……ちらっと」


 調理実習の最中浮かんだ白昼夢が頭をよぎる。

 崩れかけた、社。苔むした壁。

 三科の呟きに引き出された記憶が、網膜の奥で映し出されていく。



 何年前かは思い出せないけれど、ずっと昔。

 小さなわたしは探険をした。町のはじっこにある蛇みたいな裏道を、アテもなく歩く小さな冒険。

 行き止まりになった道の片隅に小さな社が俯くように佇んでいた。


『かみさまかみさま、こんにちは。

 ここにはもう誰も来ないの?

 ボロボロになってるね、みんなもう忘れたのかな』


 湿った裏道の奥で見つけた石造りの社を覗き込み、小さなわたしは首を傾げた。

 大切にされると聞いていた建物のあちらこちらはひび割れ、砕け散った破片があちこちに散らばっている。

 あまりに古くて忘れ去られてしまったんだろうと納得したわたしは、崩れかけて寂しそうに佇む社が可哀想になった。


『寂しくないのかなぁ。わたしはこんな風になったらたぶん寂しいよ』


 昼でもこんなに薄暗いのだ。夜はとても暗くて怖いだろう。

 理由は分からないけれど、静かな夜はなんだか寂しくなる物だ。

 社の前で腕を組み、うーんと唸ったわたしはお願い事を一つ思いつく。

 これだけ傷ついてしまっているなら難しいお願いは叶えて貰えないだろうけど、きっと大丈夫だと根拠のない自信を抱えてわたしは神様が居そうな社の奥を見た。 

 きっと居るはずのひとりぼっちな神様に、わたしはお願い事をする。

 余計なお世話なのかも知れないけど、お婆ちゃんも言っていた。『ソデすれアウものも多少の縁』だっけ? と、うろ覚えの言葉を噛み締めて頷く。

 小さなわたしはお願いをする。酷く我が侭で身の程知らずとも言える願いを口に出し。


『――一だから、かみさま。わたしとお友達になろう』


 ひとりぼっちだった神様は、その時一人じゃなくなった。




「あぁぁぁぁぁあああ!!」


 脳裏に鮮烈に蘇るその日の感情と記憶に、わたしは頭を抱え、絶望の声を上げた。


「うおっ。どうした笠木」


 南野が身を反らして机から落ちかけたが、知った事ではない。というよりそれどころじゃない!

 若気の至りという言葉はあるが、幼い頃のわたしはそんな単語で済ませられない事をしでかしていた。


「言った。わたし言った! こんなに人が来ないと寂しいよね、わたしと友達になってね。とか言った」


 幼い頃のわたしは、無邪気にも寂しがっていると思われる社に向かって微笑み。

 『わたしと友達になって』と今から考えるととんでもない事を願った。


「…………うわ」


 青ざめ呻くわたしに、南野が気の毒そうな目線を注ぐ。

 変人さんは半泣き気味の彼女であるわたしを宥めるでもなく、深々と頷く。


「その後の笠木の言葉に、おきつねさまは感動したんだって」


 のほほんとした三科の台詞で更に記憶の糸が手繰り寄せられていく。

 どうしよう、思い出したくない。非常に嫌な予感がするっ!

 涙目のわたしの想いとは裏腹に古い記憶が網膜を流れていく。


 友達宣言を済ませた小さなわたしは少しだけ空を眺めて、人差し指を立てて小声で神様に声を掛けた。

 この先の言葉は内緒の話。


『おばーちゃん言ってたよ。かみさまは皆と仲が良いんだって。ここは寂しいから一緒に帰ろう。

 かみさまは沢山なんだから、一人二人増えてもかわらないもの。

 だからおいでよ。あ、でもお母さんにはないしょだよ?』


 つい最近仔猫を拾って怒られてしまった小さなわたしは、こっそり神様を家に招き入れる決意をした。

 いずれ気が付かれたら、その時はその時。

 TVかなにかでやっていた『キセイジジツ』とやらをつくってしまえばいいんだ。

 小さい割にそんなしたたかな事を考えたわたしは、社にいる神様に向かって手招きした。

 

 悪夢としか思えない酷い回想に、背中から冷水を浴びせかけられたような寒さを覚える。


「小さい頃、家においでって言ってた」


 しかも、猫や犬を連れ込む位の軽い気持ちで。

 幼い割にかわいげの欠片もなかった自分の思考に内心二重にショックを受け、机に両手をつく。


「うっわぁ」


 幼き頃とはいえわたしの軽率な行動に、ますます同情的な眼差しになる南野。

 でも、おきつねさま。わたしは家に来ないかと言ったんであって、肩にどうぞと言った記憶はないんだけど。

 おきつねさまと意思疎通を図っていた変人さんが口を開く。


「元々は広い道があったらしいんだけど、えっと。うん、ビルが建ってから誰も来なくなったって。

 笠木がきた時点で十年はほっとかれてたらしいから」

「ああ、確かに表にビルがあった」


 そう言われれば、入り込んだ裏道付近で巨大なビルが建設されていた記憶があったので頷いた。

 朧気に思い出した社がやたらと薄暗かったのは、建物の影になっていたからか。


「そんなのあったっけな」


 南野が首を捻って疑問符を飛ばした。

 思い返せば、ビルが建った記憶はあるのに付近にそれらしきビルはない。

 あれ、おかしいな。


「笠木の言葉で、おきつねさまは考えを改めたって言ってる」

「何が?」


 改めた、って何かを考え直したんだろうけど。わたしにどう繋がりがあるんだろう。

 おきつねさまの声に耳を傾けていた三科の眉が微かに寄る。珍しい。

 僅かな逡巡の後、非常に言いにくそうな顔で変人さんが唇を開いた。


「ええと――少したたろうと思ってたらしいから」

『ちょっ!?』


 三科が口ごもるなぞ天変地異の前触れか、とはやしたてかけたわたしと南野は『祟り』の三文字に悲鳴を上げた。

 祟りって。あの祟り!? それ洒落にならないよおきつねさま!


「マジで祟るのか」

「ううん、笠木の肩は住み心地良いからどうでも良くなったって」


 震える南野の台詞に首を横に振る三科にほっとする。


「笠木、まじ救世主だなお前」

「意識してなかったけどねー」


 感謝の眼差しで手の平を組む南野に苦笑する。意識していないどころか社の事すら忘れかけていた。

 目を輝かせていた南野が「あ」と小さく声を零し、


「思い出した。ビル!」


 ぽん、と掌を打ちわたしを見る。


「ん?」


 すぐに思いつかず瞳を瞬いてしまう。ビルって、さっき話題に出した建物か。

 顎に手を添え思い返しているらしい南野が首を傾けて宙に視線を向けた。


「確かにあったけどさ、そのビルって暫くしたら潰れたんじゃなかったか」

「あ、ああ。そっか」


 告げられた言葉に胸の奥に引っかかったつかえが取れた気がした。

 潰れてしまったから大きなビルの記憶がないのか。それなら納得である。

 近所にあるはずなのに見当も付かなかったのが不思議だったのだ。

 納得して話を切り上げようとするわたしを制すかのように、南野が右手を広げ、こめかみに左指を当てる。


「ちょいまて。更に思い出してきたぞ。ええっと、ビルの跡地に様々な店舗が建ったはずだけど…………なんでか長続きせず、その上店舗や建設会社をも縮小、倒産する悲劇が相次いだらしい。

 その周辺に出店すると必ず没落するというジンクスが付き、魔の土地と呼ばれているって話だったような」


 南野の唇から次々と吐き出される情報に絶句する。

 なんだその呪われた土地は。


「……おきつねさま、祟ってないんだよね?」


 ギギ、首を三科に向けて恐る恐る話しかけると、黒い瞳をぱちくりさせて頷く。


「うん、祟っては居ないらしいよ。笠木の所に住んで落ち着いた時たまに思い出して『あのビル嫌い』程度ならちらっと思ったって言ってるけど」


 そうか、ほんの少しは考えたのか。

 おきつねさま。ビル周辺の状況に襲いかかる異常な不幸を考えたらほぼ確実に原因はおきつねさまじゃ。

 きっと思念が漏れてるか何かしてるんだと思う。

 脳裏をよぎった程度でこれなら、おきつねさまに真剣に祟られたらどんな事になるんだろう。

 全力で不幸を願われたらこの町、荒野と化すんじゃ。


「あ、そういやその曰く付きの土地に勇気ある挑戦者きぎょうが名乗りを上げて、そろそろ開店らしい。

 きんの止まり木って言うケーキ屋だったかな」


 恐ろしい想像を巡らせているわたしの耳に、あっけらかんとした南野の声が入った。

 世の中には怖いもの知らずな勇者が居るなぁ、と聞き流そうとして聞き覚えのある店名に思わず反応してしまう。


「えっ、あの有名店来たの!? やった、出来たら食べに行きたいっ」


 金の止まり木と言えば甘い物好きなら必ず耳にするとまで言われ、雑誌でも特集が組まれるほどの有名店だ。

 美味しい上、値段も手頃で庶民向けの店舗として人気が高い。

 町にもこないかな、と何時も思っていたから聞く切っ掛けが何にしろ、これは素晴らしい朗報である。


「名前があれだけど、有名なのか?」


 甘味に対してはあまり明るくないのか、テンションの跳ね上がったわたしを見た南野が怪訝そうな顔をする。


「ケーキのスポンジが凄く美味しくて幾つも食べられる程らしいし。値段も手頃な庶民の味方なんだって。女子の中だと常識の情報だけど」


 わたしの言葉に南野が瞳を見開き、感心しきりに頷いた。


「女子。そうか、笠木ちゃん……女だったな」


 待て。その驚きはわたしが女子らしいことをしていることに対してなのか。


「締められたい?」


 無意識に上向きに開いていた掌の爪先を意識的に鋭く立て、失敬な男をじろりと睨む。


「いえっ、笠木ちゃんは女の中の女だと思ってる! マジ思ってます。その今にも締め上げそうな怖い目は止めて!」


 じりじりと喉元まで迫る腕に恐怖を覚えたか、南野は額に脂汗を掻きながら必死の形相で勢いよく首を左右に揺らす。


「それより笠木、祟りかどうかは分かんないけどさ。まずいんじゃないのか」


 あからさまなミスリードだったが、おきつねさまが不機嫌な限り、出店した店舗は没落の定めだろう。

 下手をすれば本店にすら災いが降りかかる。

 新規参入の有名店舗、謎の事故に見舞われる!なんてセンセーショナルな見出しが脳裏をよぎった。開店前に閉店するなんて嫌すぎる!


「お、おきつねさま、御神酒や油揚げ用意するから機嫌直して! 新しいケーキ屋さん潰さないで」


 必死の懇願を眺める三科が、呼びかけられでもしたのか耳を肩口に向け、変人さんにしては珍しく困ったような表情となる。


「ビルを思い出したら少し腹が立ってきたって」


 うわ、どうしよう。怒りが再燃した!

 感情を鎮めて貰うつもりだったのに、話題に出した事で不機嫌さが加速してしまったらしい。

 こ、こうなれば子供を味方に付けるまで!


「子ぎつねさま。ケーキは気にならない? ふわっふわだよ?

 誠心誠意頼んだら狐のケーキも作ってくれるんじゃないかな(きっと)」


 三科の肩に座り込み、お行儀よく前足を揃える子ぎつねさまをお菓子で釣る。

 これが人間の幼児相手なら、わたしは完全に不審者だ。

 片耳を倒し、子ぎつねさまは(恐らく)思案げに顎に右前足を当てた。

 食べられはしないが、話の中身には気が引かれるのだろう。柔らかそうな尻尾を左右に揺らしている。

 遠巻きに見ていた人々が子狐の想像を絶する愛らしさに悶えつつ、熱い視線をぴくぴく動いている耳に注ぐ。

 考え込んでいたらしい子ぎつねさまは三科の頬にちょんと桜色の肉球を当て、肩上で尻尾を追うようにぐるぐる回った。


「……子ぎつねさまは興味あるみたい。え、うーん。うん、上手く行くと良いね」


 話しかけられたらしき三科が小さい子供にするように、にっこり笑って子ぎつねさまの頭を撫でる。

 微笑ましい光景だが、頷きかわされる一人と一匹の相槌は妙に不安を煽る。


「笠木の言う通り、お店の人にお願いしてみるって。狐型」


 こちらの不安を知らない変人さんは、無邪気な笑みを浮かべて黒い毛並みを撫でた。

 子ぎつねさま、頼むんだ。狐型のケーキ。

 どうやってだろう。もしかして毎夜枕元に立つ気なのか。


「う、うまくいくといいねー」


 自分が言い出した事なので止める事も出来ず、乾いた笑い声しかでない。


「店の人間が悪夢に襲われないと良いな」


 尻尾を振る小さな狐を眺めて腕を組む南野の声が空虚に響いた。

 これは完全な余談になるが、後日開店した『金の宿り木』には、オーナー、シェフが一丸となって開発した狐シリーズなるケーキが追加された。

 後の雑誌のインタビューで、「連日夢の中で、くるくる回る子狐が現れて前足で宙を必死に掻いてケーキをお願いしてきた。あの愛らしさを伝えたい!」と熱く語ったオーナー、そして後方に控える店員達が同意代わりに拳を握った。

 子ぎつねさま必死のお願いは届いたらしいが、熱意が伝わりすぎたのか狐シリーズは店内の棚を侵食しつつある。そのうちグッズ展開もしそうな勢いだ。

 おきつねさま子ぎつねさま大歓喜である。


 悪夢にはならなかったようだが、どう考えても焚きつけたわたしが原因です。本当に申し訳ありません。


 後日わたしが平伏して店舗のある方向に謝り倒す事など知らず、三科がおきつねさまの言葉を通訳する。


「おきつねさまがね、笠木にお返し出来なくてごめんだって。あと」


 お返しを気にするなんて、意外に義理堅いなおきつねさま。


「な、なに」


 だが、相手は理解の上を行く非生命体だ、警戒の為思わず身構えてしまう。


「おきつねさま、今、幸福だって」


 まるで我が事のように溶けるような笑みを浮かべる姿に、少しの照れくささを覚える。

 しあわせ、か。

 元々聞こえるはずのない感謝の言葉が聞けるだけ充分だと思う。

 それに、わたしは既にお返しを貰っているんだから。


「……そっか。お返しは良いわ。おきつねさまのお陰の縁もあった事だしね」


 ちら、と三科に視線を掠めさせ。頬が火照るのを感じながら言葉を紡ぎ。茶化そうと腰を浮かせる南野を睨み付け牽制する。


「そうなんだ」


 勇気を搾り出し、羞恥を飲んで告げたのに、感心したように頷いて良かったねと微笑む三科。ゴン、と鈍い音を立て南野が机に顔面をぶつけた。


 お前の事だ。気が付け変人!


 だけど、まあ。

 知らない間に住み着いた住人でも、幸せといわれて悪い気はしないので口元が緩む。

 思い切り頭部を強打した南野が、「のうぁぁ」と芸人並みのオーバーリアクションで床を転がっている。


「それじゃあ末永く宜しく頼みますか。おきつねさま」


 十年以上の同居で既におきつねさまと一心同体に近い気もするが、改めて挨拶する。

 ケーン、と微かな声が耳朶に響き。

 三科の肩に乗っかった子ぎつねさまも、ぴんと耳を立てて吼える真似をした。

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