114 イビルユグドラシル
「イビルユグドラシルが眼を開けたのですわ。気持ち悪い眼なのですわ」
撫子ちゃんの声に振り向いてイビルユグドラシルを見ると、わたしたちに一番近いところにあるイビルユグドラシルの眼がひとつだけ開いてこっちを見つめていた。
そのイビルユグドラシルの眼が全部開いて、こっちを見た。サイレンも鳴り始めたよ。まずい。
『メグちゃん、ジョーちゃん、情報板領域に退避して!』
「みぃー」『アバターを出すのー』
「わたしもアバターを出すのー」
他の6本のイビルユグドラシルの眼も全部開いた。視線の先にいるのはわたしたちだ。7本のサイレンが共鳴している。イビルユグドラシルが一斉にダークボールを撃ってきたよ。5000個くらいありそう。黒い壁がせまってくる感じだね。こっちに向かって飛び始めたエンシェントドラゴンたちが、ダークボールに当たって消えていってるよ。
〈領域防御魔法、撫子ちゃんの前に展開〉
〈魔導砲、全力斉射〉
わたしは魔力たっぷり魔導砲を全力斉射して、ダークボールをなぎ払ったよ。イビルユグドラシルにも当たっているけど、すぐに再生しちゃうんだよね。
撫子ちゃんの前に領域魔法をはったのは、魔導砲の全力斉射の余波から、撫子ちゃんを守るためだよ。
『みんな、ダンジョンを出るよ。ジョーちゃんは防御魔法をお願い』
「領域魔法、24枚展開したのー」
「ドラゴンネストダンジョンゲート、開けゴマ!」
わたしは爆音とサイレンが鳴り響く中、ゲートを開くキーワードを叫んだよ。キーワードが長すぎるし、ゲートがあらわれるのも時間がかかるね。
「みぃー」『撫子ちゃんのはにゃ飾りが光っているの』
「領域魔法、24枚追加なのー」
撫子ちゃんの花飾りが桜色に輝き出しているよ。なんだろうね。魔導砲の白い閃光の中でも目立つね。黒い空間渦が出てきた。
『みんな、ダンジョンゲートに入って!』
「みぃー」『撫子ちゃん、ゲートに入るの』
「脱出なのー」
頭が桜色に輝いている撫子ちゃん、メグちゃん、ジョーちゃんが黒い空間渦に飛びこんだよ。わたしも脱出だ。
◇
「ドラゴンネストダンジョンゲート、閉じろゴマ」
わたしはゲートを閉じるキーワードをつぶやいて、黒い空間渦が消したよ。いつものポップル社のマンションのリビングに戻ったね。これでひと安心だ。
『みんな大丈夫だった?』
「みぃー」『わたしは大丈夫なの』
「わたしもなの」
「わたくしも大丈夫ですわ。わたくしより美紀ちゃんは大丈夫なのですわ? 美紀ちゃんの服がボロボロになっていますわ」
『あー、魔導砲の余波で服がボロボロになったんだよ。着替えてくるから、座って待ってて』
わたしが着替えてリビングに戻ってくると、リビングのテーブルの上に置いた幼ドラシル花飾りを3人で見ていたよ。花飾りは輝くような強い光がおさまって、淡く桜色に光っている。花飾りにくっついている小さな空間ネットワークコアも、緑の光を淡く放ちながらピカピカ明滅しているね。
『お待たせー。ごめんね、撫子ちゃん、せっかくのピクニックなのに変なことになって』
「わたくしはメグちゃんとジョーちゃんに会えただけで大満足ですわ。最後のこともあっと言う間で、なにがなんだかわからなかったのですわ」
「みぃー」『イビルユグドラシルは今まで盆地の中に入らにゃいと反応しにゃかったの。山脈の頂上は安全地帯だったの』
『イビルユグドラシルがあんなにたくさんダークボールを撃ってきたのも初めてだったんだよね』
「いつもは100個くらいだったのー」
『そのくらいだよねー。この花飾りも光っているけど、なんだろうね?』
わたしが幼ドラシル花飾りを指でつつくと、身体からスッと力が抜けるような感じがして、花飾りがまばゆく輝いたよ。ダンジョンの時より強い光だね。目をあけていられないくらいだ。
ポムん♪というちょっと間抜けな音がして、光が消えたあとには、身長10センチくらいのハムスターサイズの小さな小さな赤ちゃんがいたよ。ちょっと茶色がかった黒髪で桜色の赤ちゃん服を着ている。桜色の瞳でわたしの顔をジッと見ているね。わたしはびっくりして固まってしまったよ。
「赤ちゃんなのー」
ジョーちゃんも見た目は赤ちゃんだけどね。
「みぃー」『ジョーちゃんといっしょにゃの』
「わたしは8歳なの。もう大人なの」
赤ちゃんが「あうー」と言いながら、ふわりと浮き上がって、わたしの肩に飛んできた。この懐かしい感触はあれだね。耳たぶチューチューだ。よくわからないけど、たんと食べて大きくおなり。
「赤ちゃんですわ。ジョーちゃんより小さいですわ」
赤ちゃんは撫子ちゃんにも見えているみたいだね。
「みぃー」『アドバイスさんに聞いたの。この子はユグドラシルの幼生体にゃの』
『ユグドラシルって木だよね』
「みぃー」『木だけど木じゃないそうにゃの。わたしたちで育ててあげるといいって言ってるの』
『わたしたちで? 大丈夫かな? この子のご飯は魔力と霊素でいいの?』
「みぃー」『そうにゃの。わたしもお世話するの』
「わたしにまかせるの。お姉ちゃんとして、この子をきたえるの」
『きたえるのはまだ早いかなー』
「はいはーいなの」
『ジョーちゃん、どうぞ』
「この子の名前がいるの。わたしはドラちゃんでいいと思うの」
『ドラちゃんかー。なかなかいい名前だね。じゃあ、この子の』
「みぃー」『ちょっと待つの。アドバイスさんが撫子ちゃんにこの子の名前をつけてもらうように言ってるの。この子は女の子だそうにゃの』
『アドバイスさん、いつもより強く勧めてくるね。めずらしいね』
「みぃー」『新顔のアドバイスさんにゃの。ドラちゃんはダメみたいにゃの』
新顔……。 アドバイスさん、相変わらずよくわからないね。
「ドラちゃんでいいと思うの」
「みぃー」『ジョーちゃんには悪いけど、アドバイスさんがそう言ってるの。撫子ちゃん、お願いするの』
「わたくしでいいのですわ?」
「みぃー」『撫子ちゃんにつけてほしいそうにゃの』
「女の子……桜色の瞳……ちょっぴりとがった耳…………」
撫子ちゃんが熟考に入ったね。
「みぃー」『アドバイスさんが、最初の字はオがいいそうにゃの』
「オですわ?」
「みぃー」『次の字はウがオススメだそうにゃの』
「ウですわ?」
「メグちゃん、わかったの。オウサマなの」
「みぃー」『ブーにゃの。はずれだそうにゃの』
「はずれたのー」
「決めたのですわ。オウカ、桜の花からとって桜花ちゃんにするのですわ」
「みぃー」『当たりだそうにゃの』
「だーうー」
撫子ちゃんが名前をつけた時、赤ちゃんがちょっと光ったそうな。
こうしてわたしの家族に桜花ちゃんが加わったよ。
次の投稿は1〜2ヶ月先くらいになると思います。また書きためたら投稿するのでよろしくお願いします
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