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ちび白猫と小さな赤ちゃんと現代ダンジョンへ  作者: 南瓜と北狐


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1 ちび白猫と小さな赤ちゃん

「ダンジョンが生まれてちょうど80年目の今日、五月晴れの空のもとで、我が松高中学校もスキル実習遠足の善き日を、迎えることができました。どんな人でも持つことができるスキルは、たった1つだけです。ここで得たスキルは、皆さんの一生の宝物になります。皆さんは中学3年生の自覚を持って……」


 教頭先生は今日も絶好調だ。よくあんなに話せるね。ちょっと引っ込み思案なわたしには無理だ。

 出席番号順に整列している生徒たちは、教頭先生をそっちのけで、ダンジョンの黒い板モノリスを注目中だ。授業で習った通り、宙に浮いてゆっくり回転している。大きいね、モノリス。

 モノリスは幅3m×高さ5mほどの構造物で、厚さはなんと0ナノm未満。表面には幾何学模様が描かれていて、ところどころの記号の一部が金銀パール、赤青黄色で彩色されている。材質は不明で機器での測定もできないそうな。存在するけど存在しないというなぞなぞクイズみたいな物質なんだって。

 探索者のパーティ?が来たよ。なんだろうね、あのパーティ? 全員、ツナギ姿でスコップを担いでるよ。穴掘り? 探索者たちは、そのままモノリスを触ってダンジョンの中に消えていったよ。


「スキルにハズレはありません。どんなスキルでもそれぞれの価値があります。ハズレスキルと言う子の頭がハズレなのです。1組から順番に始めてください。先生の指示をよく聞いて、授業で習った通り順番にモノリスに……」


 ◇


 スキルを得た子たちは悲喜こもごもだ。お調子者のトオルが狂喜乱舞している。火魔法スキルだと。大当たりじゃないか。うらやま。

 とうとうわたしの順番がやってきた。このスキルガチャでわたしの人生が決まるよ。いくよ!スキルガチャ!!


『きて良スキル! 神さま仏さま、良スキルをお願いします。天国のお父さん、お母さん、力を借して』


 わたしは心の中で祈りながら、ゆっくりとモノリスの裏側の左下に手を伸ばして……冷たい金色の星形マークにふれて魔力を流した瞬間、貧血の時みたいに頭がスッと冷えて、身体が豪快に倒れた。


「田中さん! 田中さん!」


 担任の先生がわたしを呼んでいるけど、そのまま目の前が真っ暗になった。


 ◇


 目を覚ましたわたしが見たのは、見なれた養護院の保健室の天井だ。


「知ってる天井だ」


 わたしが幼稚園に行っている時に、両親がダンジョンの魔物氾濫に巻き込まれてからは、養護院がわたしの家だ。昔、住んでいた福岡のアパートは魔物領域の中。もう両親の顔も思い出せなくなっているけどね。


「知らない赤ちゃんと白い子猫だ……浮いてるし小さすぎ……」


 わたしの目の前には、水色の赤ちゃん服につつまれた10センチくらいのハムスターサイズの小さな小さな赤ちゃんと、これまたハムスターサイズのピンクワンピースを着たちび子猫が浮いていた。金髪の赤ちゃんはおやすみ中だね。ちび子猫はクンクンと鼻を動かしながら、わたしの顔をのぞきこんでいるよ。真っ白な毛並みに空色の瞳。額の赤い宝石が映えるね。

 わたしはベッドからそっと起き上がって、浮いている変な赤ちゃんとちび子猫を360度ぐるりと観察してみた。やっぱり見まちがいじゃないね。


「えーと?……」

「みぃー」『わたちの念話が聞こえるの?』

「頭の中に声が……念話? ちび子猫……なの?」

「みぃー」『そうにゃの。わたちにゃの。わたちには前世の記憶があるの。転生ちたの』


 語尾がちょっと変でカミカミの女の子の声が、前世だとか、転生だとか中二病みたいなことを言ってるよ。


「転生って……ラノベのやつ?」

「みぃー」『そうラノベのにゃの』

「転生って本当にあるんだー。すごいね」

「みぃー」『ここがどこか教えてほちいの?』

「帝国陸軍松高基地の隣だよ」

「みぃー」『帝国にゃの? ここは日本じゃにゃいの?』

「日本だよ」

「みぃー」『カレンダーも日本語にゃの。2026年にゃの。アドバイスさんも2026年の日本って言ってるの』

「2026年、霊和8年の大日本帝国で合ってるよ。アドバイスさんって?」

「みぃー」『大日本帝国にゃの? 日本じゃにゃいの?』

「だから日本だって」


 ◇


 白いちび子猫ちゃんと、ちょっとかみ合わない感じの会話を続けてわかったこと。

 ちび子猫の中の人は、前世ネーム佐藤めぐ美ちゃん。メグと呼んでほしいって。前世では8歳の小学2年生。心臓の病気でずっと入退院を繰り返していてラノベをよく読んでいたそう。

 メグちゃんはダンジョンがない日本から転生してきたそうな。ダンジョンがない日本ってどんなだろうね。

 ちび子猫に転生したら、アウターネットというよくわからない物を使えるようになっていて、動画を見れたり、情報を検索できたり、アドバイスさんがいろいろなアドバイスもしてくれるんだって。メグちゃんは『たぶん転生特典にゃの。チートにゃの。ラノベのテンプレにゃの』ってニコニコうれしそうにみぃみぃ言ってたよ。転生チート特典うらやまーだね。

 スヤスヤおやすみ中の金髪赤ちゃんも、前世有り。異星の国の聖女様だったけど、前世の記憶はきれいさっぱり消えてるって。全部アウターネットのアドバイスさんが教えてくれたそうな。なんでそんなことまでわかるのか、びっくりだけどね。

 ここでちび子猫のメグちゃんが『活動限界にゃの』と言って、宙に浮いたままおやすみタイムに入ったよ。生まれたばかりだもんね、おやすみ。


 ◇


 寝起きにふわふわ浮かぶちび子猫と話すというびっくりイベントで忘れていたけど、今日わたしはモノリスの金色星形マークにさわって魔力を流したんだ。だったら授業で習ったあれができるようになってるはず。やってみるよ!


「良スキルがもらえていますように。ステータスオープン」ポムん♪


 ちょっと間抜けな音といっしょに、わたしの目の前に黒くて半透明なステータスボードが現れたよ。


 [田中美紀 女 14歳 レベル1

   ギフト 霊種人形幼生体(情報板)

       霊種猫形幼生体アウターネット

   スキル 刻印魔法]


『ギフトってなにさ? そんなのステータスにあるって習ってないよ。霊種人形幼生体ってなに? 情報板? 霊種猫形幼生体? アウターネット? アウターネットってメグちゃん? 猫形幼生体はメグちゃん? スキルは? 刻印魔法だ……』


 20センチ四方のステータスボードに書かれている白い文字のスキルを見たわたしはベッドにゆっくりと震える手をついてorzの体勢に移行した。


「刻印魔法……ハズレスキルになっちゃった……どうしよう……軍学校、無理だ……どうしよう卒業まで1年もないのに……」


 平凡な後方軍人になって、安定の親方日の丸生活、老後はのんびり恩給生活というわたしの野望が、ボロボロと崩れ落ちたよ。

 刻印魔法スキルは、ダンジョンができて80年も経つのに[切れ味強化][刺突強化]の2つの魔法陣しかわかってなくて、せっかくの魔法スキルなのにいらない子扱いされている残念スキルの代表だ。進学も就職もとってもきびしくなる。


「そうだ! お嫁さんという手が……最初からないね……こんな身長だと就職もたぶん無理……」


 なぜか、わたしは他の人よりほんの少し発育遅れていて、小学4年の夏から身長が5ミリしか変わっていない。1年1ミリペースだ。中学校ではちび座敷わらしという呼び名をいただいている。おつきあいしている男子もいない。わたしのモテ期は小学5年で完全終了だった。涙がにじんできたよ。本当どうしよう。

 急に眠気がこみ上げてきて、わたしはそのままうずくまって眠ってしまったよ。


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