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行列のできるスキル鑑定士  作者: ポムの狼
雪残る

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第11話 サラの決断

「じゃあ、行ってくるね。ブルームト」


「ホテルの外で待ってるから、困ったら呼んでくれ」


 ブルームトは冒険者時代の黒いジャケットに着替えていた。先日、パウラとクリストフがサラ宛に送ってくれたのだ。流石に剣までは入っていなかったが、手紙には「もしブルームトがそっちに行っていたら、預かっておくから取りに来るように伝えてほしい」と書かれていた。


 サラはブルームトに一時の別れを告げて、自室を出た。

 今日のサラの装いは、ホテルの制服だ。今日も今日とて、サラはしっかり働こうと思っていた。


 城の前にはリオネルとオベール卿がサラを待っていた。サラの格好を見て二人は驚いた顔をした。


「今日はドレスじゃないのですか?」とオベール卿は不思議そうだ。


 オベール卿にも今のうちに伝えなくては……


「私、このイベントが終わったらベランジェを出ます。今日は一従業員としてイベントに参加させていただきます」


 オベール卿は開いた口が塞がらないようだ。


「分かっている…… サラが決めたことだから、応援する……」


 リオネルはサラに背中を向けてそう答えた。


 三人で一台の馬車に乗り込んだ。馬車の中は気不味い空気が流れていた。リオネルはずっと窓の外を見て、サラと目を合わせなかった。


「あの……理由を聞かせてくれませんか?」とオベール卿はサラに聞いた。

 サラは、亡くなったと思っていたブルームトが生きていた事、リオネルに頼んでベランジェを出る事を許可された話をした。


「幸いにも、まだ婚約者としても正式には発表できていませんし、リオネル様にご迷惑をおかけする事はないかと思います」とサラは言う。


 オベールは最近のリオネルの様子がおかしかった理由はこれだったのだと理解した。サラはリオネルから許可されたと言っているが、連日の様子を見ているオベールからは到底許可されたとは思えず、心配になった。


 リオネル様は何か考えがあるのではないか……


 そんな気がしてならなかった。


 サラのベランジェを出ていきたいと言う気持ちは、リオネルには悪いがオベールには理解できた。サラの実家の行いやサラが逃げていた経緯を考えると二人の婚姻は認められることはないだろう。――とするならば、このままサラをベランジェにとどめておくのは、オベールとしても心苦しかった。それ程、サラに愛着が湧いてしまったのだ。


 リオネル様にもサラ様にも幸せになってほしい……


 オベールは心の中で二人の幸せを祈るばかりだった。




* * *




 ホテルについたサラはさっと馬車を飛び降り、他の従業員に挨拶をしてせっせと働いた。


 オープンイベントを必ず成功させる


 サラの心の中には、それしかなかった。




* * *




 昼頃になると、続々と招待客がホテルに到着した。サラとリオネルで話合い招待状を出したお客様たちだ。貴族や裕福な商家を中心に招待状を送り、殆どの招待客から出席の返事を頂いていた。


 サラはリオネルや設計士のマルタンと並んで、招待客に挨拶をした。


 しばらくすると会場がざわめきが起こった。ホテルの前に王家の紋章が入った馬車が止まったからだ。

 サラは王家の人を招待していた事を知らなかったので、リオネルを見たが目を合わせてはくれなかった。


 馬車の中から出てきた人物は、フラン王国国王その人だった。全員が頭を垂れて姿勢を低くした。

 国王は立派な見た目に反して、とても気さくな人だった。他の招待客が頭を垂れているのを見て、手を振って止めた。


「あぁ、気にしないでくれ。今日は甥っ子の仕事ぶりを見に来ただけじゃから。皆、楽にしてパーティーを楽しんでくれ」


 国王の声を聞いて、会場は先ほどまでの雰囲気に戻った。

 国王がホテルの階段を上がり、サラの顔を見ると驚いた顔をした。


「……君が、もしかしてサラさんかい?」


 サラは頭を下げカーテシーをする。


「はい、陛下。お初にお目にかかります。サラ・バロンと申します」


「少しだけ、君と二人で話がしたい。案内をお願いできるかな」


「陛下、私も同席致します」


 リオネルが話に割り込んできたが、国王は首を横に振った。


「リオネル。わしはサラさんと二人で話がしたいんじゃ」


 リオネルは何か不都合なことでもあるのか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「……承知致しました。出過ぎた真似を致しました……」


「許す。では、サラさん案内を頼む」


「では、陛下。こちらへどうぞ」


 サラはホテルの一階にある応接室へと国王を案内した。


「君の事を見て驚いたよ。若い頃のわしの妹にそっくりじゃ。リオネルの母じゃよ。リオネルからは何か聞いているかい?」


「いいえ…… 初めて聞きました……」


「そうか…… リオネルの母はリオネルが赤子のうちに亡くなってしまったから、気づかぬうちに君と母親を重ねていたのかもしれないな……

 すまない、今日話したかったのはその事じゃないんじゃ。わしは今日のイベントが成功したら、会の最後に二人の結婚を認めることを発表するようにリオネルに頼まれているんじゃ。サラさんがその事を承知しているのか確認したかったんじゃ」


 サラは困惑した。マルタンの予想していた通り、リオネルはサラと別れる気はなかったようだ。


「存じ上げていませんでした…… 陛下……大変、申し上げ難いのですが、私の話をしてもよろしいでしょうか」


「勿論じゃ。何でも相談してほしい」


「実は――」


 サラは今朝オベール卿にした話と同じ話をした。


「打ち明けてくれてありがとう……

 目上の貴族からの求婚は断れないから、君も随分気苦労があったのではないか?

 わしの甥っ子が君の気持ちを無視してすまなかったね」


 サラは国王の優しさに目が潤んだ。


「ここからは、わしの提案なのじゃが、今からでもここから国外へ逃げなさい。君が亡命できるように数人の護衛も連れて来てある。君を国境まで安全に案内しよう」


「ご提案ありがとうございます。実は迎えが来てくれていますので、案内には及びません。ただ……」


 サラはこのままリオネルに何も言わずにいなくなっていいのか悩んだ。愛してこそいなかったが、サラにとってリオネルは尊敬できる人だった。

 もしもの時の為にとマルタンが抜け道まで教えてくれていたが、いつの間にかサラがいなくなっていたら、リオネルはどうするのかをサラは想像すると踏み切る気にはなれなかった。


「………このままリオネル様に何も言わずに逃げる事が、私には正しい行いとは思えません……

 一度はお引き受けした事ですので、けじめをつけたいと存じます……

 リオネル様と最後に話す機会を頂いてもよろしいでしょうか、陛下」


「……分かったよ。もしもに備えて、わしの護衛を部屋の前で待機させておこう。何かあれば、すぐに助けを呼ぶんじゃぞ」


「……ご配慮、感謝いたします」





 国王が退室後にしばらくしてからリオネルが入ってきた。サラと向かい合ったソファにどかっと座り、額の前に両手を組んだ。


 しばらく沈黙の時間が流れてから、リオネルが話し始めた。


「……陛下から聞いたのか」


「……今日のイベントの最後に婚姻を認める発表をするという件でしたら伺いました」


「…………幻滅したか?」


 リオネルは俯いていた顔をあげてサラを見た、今にも泣きだしそうに顔を歪めている。


「……いいえ。周りからは嘘をつかれているのではないかと、前々から心配されていましたから」


「はなから信用されていなかったと言う事か……」


 サラは首を横に振った。


「あんなにあからさまに監視が増えれば分かります。それに、私は領主としてのリオネル様を尊敬しています。数カ月の短い間ではございましたが、仕事で沢山助けていただきました。今のあなたの姿が本来のリオネル様の姿とは思っていませんので、幻滅などいたしません。

 リオネル様、もう一度お願い致します。婚約を白紙に戻してください。

 あなたは私などいなくても十分立派な領主です。今回のリゾート開発だって、私は手伝っただけで、殆どはリオネル様がされたではないですか。

 あなたには【審美眼】という能力があります。私じゃない、もっと素晴らしい方に必ず出会えます。私の鑑定はよく当たるんですよ」


 サラは膝の上の拳を握りしめた。目からは涙が溢れた。


 リオネルはサラから目をそらして、再び俯いた。


「……逃げることも出来ただろうに、私のために話してくれたんだな……

 もう行ってくれ…………… 今まで、ありがとう……」


 リオネルは両手に顔を埋めて泣いていた。


 サラは再び拳を握りしめてから立ち上がり、自身の涙を拭いた。


「……お世話になりました」


 サラは深々とリオネルに一礼してから応接室を出た。



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