助けてくれ!
『頼む。力を貸してくれ。礼なら、俺たちに出来ることなら何でもする』
それからアグナは、ことの顛末を語り始めた。
もともとスカイウルフは一ヶ所に定住せず、獲物を追いながら、いくつかの拠点を転々と移動している。
ある日、草鹿の群れを追って、とある森の中にある泉のほとりで翼を休めていたところ、戦闘を担当する若いスカイウルフを中心に、謎の奇病にかかるようになったのだという。
『三日三晩、高熱が続き、全身の皮膚が赤く爛れていく。仲間を見捨てて移動するわけにもいかず、衰弱していく仲間たちを看病していたんだ』
幸い、数匹のスカイウルフは回復の兆しが見えたという。
しかし運の悪いことに、その森には夜狩りをする魔獣、血喰いヒドラが棲みついていた。
黒い鱗を持つ三つ首の捕食獣で、夜になると森の獣を狩る凶暴な魔獣だ。
病んだ仲間たちを守るため、残ったスカイウルフたちは必死に応戦したが、夜ごとに襲ってくるヒドラたちを迎え撃っているうちに、次第に数を減らしていったのだという。
そこにちょうど、生まれ育った群れを独り立ちして放浪の旅に出ていたアグナが通りかかった。
同胞を見捨てられず、群れの長に代わり指揮を引き受け、今日まで守り続けていたのだという。
「大変だったんだね……」
アルテミスが小さく呟く。
『同胞を治療できれば、すぐに空へ飛び立てる。だから治癒魔法の使える精霊を探していたんだ。しかし、そんな力を持つ大精霊はめったに現れない』
そこで突然、皇都の方角から強い魔力の移動を感知したから、追跡して確認しに来たのだと言う。
『あんな大地を揺るがすような魔力の移動を感じたのは初めてだ! 世界がひっくり返ったのかと思った! さぞかし強大な精霊が動いたのだろう、頼む! 我々が出来ることはなんでもする! 仲間を助けてくれ!!』
必死の形相で頼み込むアグナだったが、あいにく我々にはただの唸り声にしか聞こえない。
アルテミスの通訳によってようやく事情を理解したアリスたちは揃って首をかしげた。
「皇都から移動した強い精霊って、なんでしょうか? 私たちが出発したときに一緒に移動したんでしょうか?」
「わからないな。皇都で活動している精霊は小精霊がほとんどで、大精霊はほとんどいない。魔法塔にならいるだろうが……」
首をひねるアリスとウィリアムに、私は素知らぬ顔で空を眺めていた。
十中八九、アグナのいう『強大な精霊』の正体は私のことだろう。
数千年皇都に居座っていたのだから、すっかり地に馴染んだ大地の魔力が動けば気づかれても仕方ない。
事前に対策を打つべきだったのだろうが、久しぶりの旅行に浮き足だってつい忘れてしまっていた。
ユミルが知ればまたガミガミと怒りそうだから黙っておくが。
幸い、アリス達はなんのことか見当もつかないようだった。
だが――ユミルがじっとこちらを睨んでいることに気づく。
私はとぼけた顔で、ひらりと翼を広げると、ユミルの肩に降り立った。
「どうした、ユミル? そんな顔をして」
声をひそめて囁くと、ユミルは嫌味ったらしくため息をついた。
「とぼけないでください。スカイウルフ達は、バーティミアス様の気配を追って来たわけですよね」
「ふむ」
すぐにバレた。
「つまり――これは、バーティミアス様が呼び込んだ厄介ごとです!」
「呼び込んだとはずいぶんな言い方だ。お前たちのために数千年ぶりに重い腰を上げたというのに」
「まったく先が思いやられます」
ユミルは深いため息をついた。
「少しは気配を隠してくださっているものとばかり思っていました。目立ちたがり屋で見せびらかし屋の貴方に期待した僕が馬鹿でした」
「なんだと、私は目立ちたがり屋ではない。美しく聡明で偉大であるがゆえに目立ってしまうだけだ」
「そういうところ! そういうところですよ!!」
小声で言い争う私達に、アルテミスが不思議そうに首をかしげた。
「ねぇ、ユミル。助けてあげようよ。ぼくはまだ治癒の魔法は使えないけど。ディアウッド先生なら……」
「ふむ、そうだな」
傷ついたスカイウルフが何頭いるかは知らないが、たとえ百頭いたとしても私にかかれば造作もない。
それに、色々あってアルテミスの魔法の授業もしばらくやっていない。
これは新しい魔法に挑戦するいい機会かもしれない。
私は翼をたたみながら、ゆっくりと頷いた。
「いいだろう、アルテミス。お前が治癒魔法を試すなら、手伝ってやらなくもない」
「えぇっ!? ぼ、ぼくが!?」




