67 アリバイ
それから3日ほど馬車は、何事もなく進み続ける。
帰りはディモール城を素通りしたので、非常に気楽な旅となった。おそらく侯爵の指示だろうが、互いの平和の為の素晴らしい判断だった。
花園から救出した女性たちは、シモベの女性陣の指示の元、獣人たちと一緒に生活拠点の整備や、旧ダンジョンでのレベル上げに勤しんでいる。
レベル1が、5層でレベル上げをするというのも大変だと思うが、みんなの表情は明るかった。
マイダンジョンに行く度に、みんなの歓迎が物凄い。
一番喜ぶのが、シモベの女性たちというのはどうよ、とは思うが。他のみんなも、朗らかな表情で感謝を伝えてくる。
それにしても、人数増えたよなー。
50人近いのだから、マイダンジョンも賑やかになった。
男性が5分の1しかいないのが、ちょっと気になると言えば気になる。
しかもある程度の年齢以上だと、さらに人数が限られるしね。獣人成人男性は、結構居心地が悪そうだ。
そろそろ、3層への階段も近付いてきた頃、我々一行に接近してくる騎馬の集団があった。
イシュルたちの知らせにマイダンジョンから、馬車に戻る。
「王宮兵ね」
ネズミの視界で確認したシャルが言った。
馬車の護送兵たちも気がついているようだ。馬車を止めて、道の中央をあけた。さらに全員馬車や馬から降りている。(ただし、我々は除く)
30騎程の王宮兵は、我々の馬車の前で止まる。中にはエルマーと、百騎長がもう一人いた。
「5層の亜人どもを護送している馬車か?」
エルマーじゃない方の百騎長が、馬上から尋ねた。なかなかに高圧的な感じだ。
「はい。そのとおりであります」
護送隊の隊長が、今まで見たことのない丁寧さで応える。
相手によって露骨に態度を変える生き様、嫌いじゃないぜ。
「3日前はどこにいた?」
「3日前ですか?」
質問の意図が分からず目が泳いでいる。結局、素直に答えるようにしたようだ。
「1層から2層に降りた辺りですが」
「ふむ」
百騎長は渋い顔で考え込む。
「なにか私たちに落ち度があったのでしょうか」
「今、それを調べているのだ」
素っ気なく百騎長が言い、護送隊の隊長は改めて姿勢をただした。
「亜人どもは、この馬車に乗せているのか」
「はっ」
「厳重だな」
馬車の外側に書かれた魔法封じの魔法陣(封じてない)を見て、百騎長が頷く。
「王宮を出発以来、何度亜人どもを馬車から出した?」
「一度も出しておりません」
「え?一度も?」
一歩下がった位置にいたエルマーが声を上げた。
「はい。5層の尖兵も含めて、一度も。食事もこの小窓から与えています」
悪いけど、その食事、一口しか食ってないけどね。まさか、尖兵用の携帯食よりマズい物が、この世に存在するとは思わなかった。
出された食事は、マイダンジョンで力素として吸収させてもらっている。
「何とまあ。だがこんな状態では今回の件とは、関わりがなさそうですな」
呆れ半分でエルマーが言う。
そう。花園から人が消えれば、その直前に会った者が疑われるのが当然のことだ。
なので最初の計画では、彼女たちを連れ出すのは、もっと時間を置いてからにするつもりだった。
だがこの馬車で監禁されながら護送される事がわかり、計画は大きく前倒しされた。
第2ダンジョン卿直属の兵が、無実を証明してくれるのだ。
こんな確かな証言はない。
読んでいただきどうもありがとうございます。
なんか予約投稿を1回しくじってしまったようです。申し訳ありません。