第一章③
別にいいさ。お前のせいじゃない。
俺は家への帰路を歩きながら卓郎の言葉を思い出した。あいつは俺の失態を笑って許してくれたが、それが返って恥ずかしさが増した。
駅までやって来た。
改札を抜け、石段を登る。最近運動不足な為か、それを登るだけでもかなりの体力を使い、息切れが起きた。
ホームに立った時、もうすぐ電車が来る事を告げるアナウンスが流れたので、俺は急いで他に誰も待っていない乗車口へ向かった。
目的の駅に着くまで、先ほど街で買ったコーラをこっそり味わうとしよう…そう考えていた時だった。
背中に衝撃が走ったかと思えば、俺の身体は夏の陽気で熱くなった線路の上へと転がっていた。目の前から電車が迫ってくるのが分かった。
まずい…轢かれる!
俺は立ち上がると、自分の頭の高さにある点字ブロックに手を掛けた。
「おいっ!掴まれ!」
太った中年のおじさんが手を差し伸べてきた。その手を握ると同時に、俺の身体は宙に浮いた。左足の爪先が電車に掠ったのが分かった。
た…助かった…
しばらく安堵に浸っていたが、人ごみを掻き分けて逃げるようにその場を去ろうとするそいつの姿を見たとき、俺は再び恐怖に浸けられた。
紫のコート、帽子、手袋、そして仮面…
夢で見た、紫の怪人だった。