第二章①
周囲の大人達の反対を他所に、警察にも病院にも行かずそのまま家に帰ってきた俺は、ベッドで横になっていた。
紫の怪人はホラー映画【パープル・マスク】に登場する殺人鬼だ。紫尽くめの衣装に身を包み、昼夜を問わず街に出て来ては無差別に人々を殺戮していく。そして如何なる手を使用しても逃れる事が出来ない…
俺はこの映画を小学四年生の時に、ホラー映画好きの両親に付き合わされて映画館で観た。単純な両親は「おもしろかった」だの「また観たい」だのと言っていたが、俺にしてみれば、ただ単に人々が残酷な方法で殺されていく様を描いただけの面白くともなんともない映画だった。
しかし、どうしてそんなフィクションの世界の住人が、わざわざこの俺を殺そうと…
「お兄ちゃん」
頬にいきなり冷たい物が押し付けられた。
「でゅあああぁぁぁ!?」
怪人の件で神経が高ぶっていた俺は、奇声を発しながら仰け反った。
「あはは。そんなに驚く事ないじゃないの」
「………」
妹の薬橋為代がアイスを二つ手にぶら下げて立っていた。為代は中学一年生。甘い物が大好きで、俺はよく彼女のおやつに付き合わされている。
「はいこれ」
アイスの一つを突き出された。バニラアイスだ。余り食欲は湧かなかったのだが、せっかく持ってきてくれたのだ。
「ありがとう」
アイスを受け取ると、ゆっくり噛り付いた。
為代に今日のホームで起こった事を話しておいた方がいいだろうか?いや、変な事を言って怖がらせても仕方がないだろう。
俺はいったん口からアイスを離すと、彼女自身の事について聞いてみた。
「中学に入学して、もう三ヶ月経つが慣れてきたか?」
「うん。小学校からの友達も来たからね」
為代は家の近くにある中学校に入学していた。「受験はしないのか」と両親や俺は聞いたのだが「友達と離れるのは嫌だから」と言って、どこの中学校も受験しようとしなかった。
それもそれで、一つの道なのだろうが…
「そうだお兄ちゃん」
為代のアイスを食べる手が止まった。
「明日の夏祭り、村崎さんは来るの?」
「ああ。この前その事を聞いたら、予定を合わせて来るって言っていたよ」
「そう…」
再び為代はアイスに噛り付いた。為代は卓郎と、この家や学校の行事等で何度も会っている。彼女は卓郎に、気があるのかもしれなかった。
「楽しい夏祭りになるといいね。お兄ちゃん」
為代はアイス棒をゴミ箱に放り込むと、部屋から出て行った。
「…楽しい夏祭り…か」
俺はベッドから立ち上がると机に向かい、引き出しからある物を取り出した。




