第1話 見知らぬ世界
俺は砂漠のド真ん中に立っている。
風が吹き、砂埃が舞い、視界が完全に遮られる。
視界が晴れると目の前に1人の男が立っていた。
もう一度風が空間を斬り、戦いの火蓋も切る。
相手は俺に詰め寄り雷を纏ったアッパーを繰り出してくる。
俺は最小限のステップで後ろに回避をし、相手の腕を掴んで下に叩きつける。
「もらった!」
下段の蹴りから上段の回し蹴りにつなぎ、相手を吹き飛ばす。
「よし、いける!」
追撃を入れるため、相手に詰め寄り右フックを放つ……
その時、相手がもう1度雷を纏ったアッパーを繰り出してくる。
「まずい……」
攻撃モーションに入っていた俺は避けられるはずもなく――
シットジャブからまたアッパーにつなぎ、跳んでから拳を叩きつけてくる。
さらに地面に落ちた俺は掴まれ、下投げをされたあとに、さらにアッパーに繋がれる。
そして、相手の渾身の右ストレートが俺に突き刺さる。
負けた……
「くっそが!」
俺はコントローラーを枕に投げつける。
クソキャラすぎるだろ!なんで技1回あたっただけで負けるんだよ!!
1度深い深呼吸をして心を落ち着かせる。
窓の外を見るとすっかり暗くなっていた。時計を見ると午後11時を回っている。
そういえば腹が減ってきたな。
コンビニに行って夜食を買ってくるか。
そう思い俺は自分の部屋から出て、階段を降り、玄関を出た――
その時俺の視界はブラックアウトした。
目を開けると、見知らぬ木々が視界いっぱいに広がっていた。
「……は?」
起き上がり、周囲を見回す。
背の高い木々。見たことのない植物。頭上から聞こえる鳥の鳴き声。
そして、地面に広がる柔らかな土。
森の中だ。
「いや、ちょっと待て……」
慌ててポケットを探り、スマートフォンを取り出す。
電源は入る。しかし、圏外。地図アプリを開いても、現在地は表示されなかった。
夢だろうか。
そう考えて頬をつねってみたが、普通に痛い。
「……マジかよ」
俺は大きく息を吸い、大きな声でこういった。
「異世界転移きた〜!!」
ということは……
「スキル!」
そう言った瞬間、半透明の文字が目の前に表示される。
「……え?」
思わず目をこする。
しかし、文字は消えない。
『固有スキル:《万物売買》』
続いて、見慣れない画面が目の前に展開された。
『《万物売買》』
『森羅万象あらゆる商品を購入できます』
『購入可能商品一覧を表示しますか?』
思考するだけでいいのだろうか。
そう考えた瞬間、画面が切り替わった。
『基礎身体能力強化』
『魔力操作補助』
『剣術基礎技術』
『初級魔法習得』
『特殊装備』
並んでいるのは、まるでゲームのショップのような項目だった。
しかも、商品名の横にはそれぞれ価格らしき数字が表示されている。
「……本当に、こんなベタな異世界あるのかよ」
不思議と、少しだけ気持ちが落ち着いた。
目の前にあるのは、俺が何度も小説の中で見てきたような力だ。
その中で、真っ先に目に留まったのは『基礎身体能力強化』だった。
戦うにしても、逃げるにしても、まずは身体が動かなければ話にならない。
俺は迷わず、その項目を選択した。
『基礎身体能力強化』
試しに購入を念じてみる。
『購入できません。銅貨が1枚が不足しています』
「ですよね……」
どうやら、何でも自由に手に入るわけではないらしい。
そもそも、支払いに使うものすら持っていない。
俺は画面を閉じ、深く息を吐いた。
せっかく異世界に来たというのに、いきなり行き詰まってしまった。
それでも、いつまでもここで立ち尽くしているわけにはいかない。
まずは人のいる場所を探そう。
街にたどり着けば、食べ物も手に入るかもしれない。
自分がどこにいるのかも分かるはずだ。
そしてお金を稼げれば固有スキルのことももっと知れるだろう。
そう考え、俺は森の中を歩き始めた。
どれほど歩いただろうか。
木々の間を進んでいると、地面に奇妙な足跡を見つけた。
犬のようにも見えるが、明らかに大きい。
「……何だ、これ」
嫌な予感がした。
その直後。
ガサッ。
すぐ近くの茂みが揺れた。
足が止まる。
茂みの奥から、低い唸り声が聞こえてきた。
グルルルル……
全身から血の気が引いていく。
何かがいる。
逃げなければ、
頭では分かっているのに、足が動かなかった。
やがて、茂みの奥から一匹の獣が姿を現した。
鋭い牙。赤く光る瞳。そして、普通の狼よりも一回り大きな身体。
その姿を見た瞬間、俺は理解した。
ああ、これ、絶対にヤバいやつだ。




