俺は悪くない
追放物でもざまあばかりだから、仲直り系は逆に新鮮なのでは?という気持ちで書きました。
――幼いころ、フールとワイズは、小さな村で出会った。
ワイズは、生まれつき魔法の力を持っていた。しかしそれゆえに、村の人々からは「気味が悪い」と恐れられ、他の子どもたちも、誰一人としてワイズに近づこうとはしなかった。
ある日、村外れの木の下で、一人ぼっちで座り込んでいたワイズに、フールは無邪気に声をかけた。
「なあ、お前、一人で何してるんだ?」
「……僕に、近づかないほうがいいよ。僕は、みんなから、化け物って呼ばれてるから」
「化け物? そんなふうに見えねえけどな」
フールは、ワイズの隣に、どかっと腰を下ろした。
「俺はフールだ。お前、名前は?」
「……ワイズ」
「ワイズ、お前、魔法使えるんだろ? すげえじゃねえか! なあ、俺と一緒に、世界一の冒険者を目指さねえか?」
「世界一の、冒険者……?」
ワイズは、目を丸くした。生まれて初めて、自分を怖がらずに話しかけてくれた相手だった。
――何を言っているんだ、このアホは。
フールの強引さと屈託のない笑顔にワイズは呆れるが、それまで孤独だった自分の胸の奥が、じんわりと温かくなった。
それから二人は、片時も離れず、共に剣と魔法の修行を積み、やがて冒険者となった。ワイズにとってフールは、誰よりも大切な、たった一人の親友だった。
――そんな二人が、十数年の時を経て、今、向かい合っていた。
冒険者パーティ『飛竜の爪』の拠点は、いつもの酒場だった。円卓には四人が座っていた。リーダーのワイズ、女盗賊のミレナ、僧侶のガロン、そして戦士のフールだ。
この四人は、依頼のない日でも、よくこうして集まっていた。誰かの誕生日を祝ったり、失敗した依頼の話で笑い合ったり。腕っぷしだけでなく、気心の知れた、家族のようなパーティだった。
「フール、お前をこのパーティから追放する」
ワイズがそう言った。フールは驚いて、持っていたジョッキを落としそうになった。
「は? ワイズ、今、何て言った?」
「聞こえただろう。追放だ。今日でお別れだ」
「なんでだよ! 理由を言えよ!」
「理由なら、いくらでもあるわ」
ミレナが冷たい目で言った。だがその声には、どこか、絞り出すような苦しさも滲んでいた。
「先週のオーガ討伐、覚えてる? 私たちが罠を準備してる時に、あんた一人で突っ込んでいったよね。あれのせいで、全滅しかけたのよ」
「あれは、オーガが逃げそうだったから――」
「言い訳はいいわ。あんたの腕は認めるわよ。でも、パーティってのは、一人が突っ走ったら成り立たないの。わかる?」
「わかってるよ! でも、体が勝手に動いちまうんだ!」
「フール、お前はいつも『次は気をつける』と言います。ですが、変わりませんでした。私たちは、もう限界なのです」
ガロンが、静かに、しかしはっきりと言った。その目には、責めるような色はなく、むしろ心配そうな光が浮かんでいた。
誰も、フールの顔を見ようとしなかった。ただ一人、ワイズだけが、つらそうな顔でフールを見ていた。
「ワイズ、お前も、俺のこと邪魔だと思ってるのか?」
「……」
ワイズは、しばらく黙っていた。それから、ゆっくりと口を開いた。
「俺はリーダーだ。仲間の命を守る責任がある。お前の腕は、誰よりも知ってる。でも、これ以上、お前と一緒に戦って、みんなを危険にさらすわけにはいかない」
「そんな……。じゃあ、俺はどうすればいいんだよ」
「すまない、フール」
ワイズは、それだけ言って、目を伏せた。
その瞬間、フールの中で、何かが、プツンと切れた。
「……ふざけんな」
フールは、低い声で、そう言った。
「ふざけんなよ! 誰のおかげで、このパーティがここまでやってこれたと思ってるんだ! 俺が体を張って、みんなを何度も守ってきただろうが!」
フールは、円卓を思いきり叩いた。ジョッキが倒れ、酒が床にこぼれた。
「そんなに邪魔なら、こっちから願い下げだ! お前らとは、二度と一緒にやらねえよ!」
「フール、待て――」
「うるせえ! お前が、そう決めたんだろうが! 今さら止めるな!」
フールは、椅子を蹴り倒すようにして立ち上がった。装備を乱暴にまとめると、周りの客たちが驚いて振り返るほどの勢いで、酒場の扉を叩きつけて出ていった。
扉が閉まったあと、円卓には、重い沈黙が流れた。
「……本当に、これでよかったのかしら」
ミレナが、誰にともなくつぶやいた。その声は、いつものキツさが嘘のように、弱々しかった。
「フールさんの気持ちを思うと、胸が痛みます。ですが、これ以上、仲間の誰かが大きな怪我をする前に、決断せねばならなかったのです」
ガロンが、祈るように両手を組んだ。
ワイズは、何も言わず、フールが座っていた椅子を、じっと見つめていた。その目には、後悔と、それでも譲れなかった決意とが、複雑に入り混じっていた。
外に出ると、冷たい風が吹いていた。フールは、夜空を見上げた。
――世界一の冒険者になろうって、約束したじゃねえか。それなのに、こんな終わり方かよ。
「畜生……」
フールは、当てもなく夜の街を歩いた。誰も、自分のことをわかってくれない。そんな気持ちでいっぱいだった。




