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君への愛を世界に叫ぶ

   エピローグ


『魔女の奇跡』と呼ばれる事件から十数年が経った。

 魔導兵器は完全に停止し、ホムンクルスとオートマータも互いを傷つける意思を()って魔術を行使、又は行動することが出来なくなっている。

 戦争が終わり、更にアンジェラの息のかかった者たちが、戦時下体制で利権を貪っていた議員や官僚たちを一掃したお陰で、国の在りようが正常に戻り、各種技術が民間に用いられるようになった。

 それらの動きの先頭に立っていたのは、グラントだ。彼は今、街中を視察と称して歩いている。

 戦後の混乱期こそ、首相を務めるなど陣頭指揮を取ってものだが、今は半分引退の身だ。

 年齢も老年の域に達し、穏やかな顔に深い皺が刻まれるようになっている。

 彼の視界に広がる都市の様相も、様変わりしていた。近代的な高層ビル群が建ち並び、道路には燃料電池式エンジンの車輛が四車線の道路を行き交っている。その景色は、かつてのニューヨークの摩天楼を思わせた。

 彼方の空を鳥のような影、航空機が遠ざかっていくのが見えた。発展の結果、首都以外の近代化も進みホムンクルスは各地に人口を広げている。

 だが、何より変わったのは住人だ。ホムンクルスだけでなく、オートマータもまた同じ都市で暮らしている。歩道を行き交う人影の中に、首元や袖口から球形の関節を覗かせる者が見受けられる。彼らがオートマータだ。

 オートマータは偽りの主人であった機王を失った後、本来の主である人間――メディアの命令、「ホムンクルスと仲良く手を取り合って生きなさい」に従って生きている。

 ホムンクルスと共存する中で、彼らも感情が豊かになってきている。

 グラントの視界に、極彩色のビルが入った。その建物は何と、芸術の才能に目覚めたオートマータが手がけたものだ。正直、グラントの眼にはけばけばしくしか映らないが、建築デザインの業界では高い評価を受けているらしい。

 そういった者はまだ少数派だが、それでも当初は肉体労働しか出来ないかと思われた彼らは、各種分野に進出している。

「おっと――」ビルに気を取られていたせいで、グラントはちょっとした段差に躓いた。

 そこへ、すかさず腕が差し込まれる。

「大丈夫ですか?」と屈強な体格のオートマータが尋ねた。口もとには笑みが浮かんでいる。彼がホムンクルスでないと分かったのは、シャツの襟元から球形のパーツが覗いていたからだ。

「ありがとう」とグラントが笑顔で礼を述べると、相手は「いいえ」と応えて去っていく。

 戦争の最中には在り得なかった事態だ。

(アンジェラ、あなたの想いは確かに実を結んでいますよ)

 先の彼の背中を見送りながら、グラントは心の中で呟く。

 そんな彼の前を、車椅子が横切った。青眼白晳の老女が座り、それを中年男性の外見のオートマータが押している。二人は楽しげに言葉を交わしている。

 グラントの記憶が正しければ、老女は人間だ。メディアのように眠りに就いていた人間がたまに見つかる。そういった人々も、ホムンクルスとオートマータの社会に受け入れられ概ね幸せに生きていた。

 人間を見かけたせいで、グラントはヴァンの故郷で暮らしているメディアのことを思い出した。

(メディア――あなたは今、幸せですか?)

 それが、彼にとっての唯一の懸念だ。


      †


  ヴァンの故郷、トリスケル。そこに、メディアは眠ったままの彼と共に住んでいる。

 背が伸び、大人びた顔立ちとなった彼女は、純粋な彼への想いだけを失わないまま、静かに毎日を送っていた。

 農作業以外の時間は読書をし、時折歳を取らなくなった彼の寝顔を見つめる――人は不幸だと思うかもしれないが、彼女にとって幸福な暮らしだ。


 その日、メディアは夢を()た。内容はヴァンが出てくるものだ。

 彼は満面の笑みを浮かべ「ただいま」と言った。

そして、そっと優しく彼女と口づけを交わした。

 ――目が覚める。耳に静寂が清水のように冷たく染み込んだ。一人の空間ならではの静けさだった。少し淋しい気分を抱く。

寝返りを打ち、隣で眠っている彼の顔を視界に収めようとした。

鳶色の澄んだ瞳がこちらを見つめている。

「――っ」メディアは驚愕の余り息を呑んだ。

「目覚めたら言おうと思ってたんだ」ヴァンは穏やかな笑みを浮かべて告げる。

そして、謳うよう(カンタービレ)に彼は「好きだよ、メディア」とそっと囁いた。

 メディアは喜びで胸がいっぱりになり、呼吸が出来なくなった。彼女は溢れる感情をエネルギーにして、彼に抱きつく。

「私も好き、ヴァン」

 そして、二人は柔らか(ドルチェ)にキスを交わした。

                                 


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