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起承転結に見る、物語の作り方②

 起承転結の”承”だが、転へ繋がるための話って定義することが多い。つまりどういうことだってばよ。もともと漢詩の四つの句から起承転結って言い出した訳だから、何もかもこの通りにってことにはいかない。そもそも転に繋がる話って何だよ、起から繋げろよ。起から読んでるんだからさ。論文なら結論から組み立てるから適してるのかもしれないが。そこでもっと技術として分かりやすい定義を決めよう。

 俺が提唱したいのは「起を踏まえたリアクション」だ。 ”承”はあくまで初っぱなの設定からの対処的行動だ。「起:追われてる→承:逃げる」って具合だ。その後「転:立ち向かう→結:討ち果たす」と続く。なぜこれが必要なのかと言うと、問題の解決には「問題への対処 」と「問題の解消」が必要だからだ。これは道理であって、不変の真理だ。

 今の例で言えば、逃げる必要がないならそもそもそれは追われてるとは言えない。問題は存在しなかったことになる。対処する必要がないことならそれは問題じゃないよな? 問題に対処してる間に、主人公は解決策を見つけ出すんだ。ハリー・ポッターがヴォルデモートの不死の秘密を解き明かした時、追う者と追われる者が逆転したように。

 三幕構成で言えば、「設定・対立・解決」の対立の前半に当たる。三幕の中で一番多く時間を割り当てる部分の前半だ。

 せっかく設定と役者を揃えたのに、いきなりどんでん返ししようとしても、ちゃぶ台返しにしかならない。自分で作った設定を自分で蔑ろにしてるだけだからな。だからまずは設定した諸条件や動機から、物語がピタゴラっていく様を見守ることになる。この中で起こるのは「問題への対処」だ。「追われてる」なら「逃げて一息つく」まで、「探し物がある」なら「手掛かりを見付ける」まで、「倒すべき敵がいる」なら「弱点を知るまで」だ。

 ”設定”で主人公に動機が与えられて一度目のターニングポイント。決意が実行に移って"対立"が始まる。問題解消の糸口をつかんだら、二度目のターニングポイント。物語の”解決”へシフトする。この場合、解決の糸口を掴むパートを”転”と呼ぶことができるな。

 じゃあこれを踏まえて前項の例で続きを書いてみようか。「悪党を倒し姫を救出、友の裏切りの真相究明」がメインクエストとサブクエストだったな。

 ちなみにサブクエストは複数設定してもいい。主人公以外のキャラクターが主体でもいい。例えば姫と主人公のラブストーリーが始まってもいいんだ。だがそれぞれのクエストの進行はちゃんと起承転結考えて作らないと、読者が理解出来なくなって読むのを止めるから注意しろ。

 主人公の動機が固まったが、捕らわれの身から脱出しなきゃならないな。大まかに二つ方法がある。いつだってそうだ。どんな状況でも、必ず二つの選択肢がある。キャラクターを動かすとは選択させることだ。だから主人公に選択させる。「知恵か力か」。

 どっちを選ばせるかでキャラクターの人となりや理念を表現できる。というか、選択なくしてそれらは表現できない。物語において、名は体を表すは通用しない。キャラクターは所詮虚像だから、実際にとった行動だけがその者が何者であるかを決めるんだ。そしてそれを際立たせるのが選択だ。選ばれなかった選択肢にも、このキャラクターはこっちの選択肢は選ばなかったという意味がある。

 「知恵か力か」、どっちの選択肢も大まかなその後の流れと物語上の意味を考ておく。これが推敲だ。言葉選びだけが推敲じゃないぞ。この時、お前たちの大好きなステータス制をイメージすると管理しやすく、読者にも納得させやすい。ただここでいうステータスとは読者にとっての印象を可視化したものだ。作者の決めた細かい能力値なんてクソどうでもいいから間違ってもひけらかすなよ。

 「知恵」のスタンスを選べば、主人公は頭を使ってスマートな方法をとることになる。看守をだまくらかして鍵をくすねるとか、忍び込んで有利な情報を得るとか、そんなパターンだ。その場合の主人公の有り様をステータス化してみよう。繰り返すが、これは読者からの主人公への印象だ。


・知恵のスタンス:危機的状況で知性的な選択をする。

・精神統制:感情と衝動を抑制する。

・文武両道:何でもこなし、他者の助けを必要としない。

・謀略家:策略は必ず成功する。

・完璧な者:常に最適な行動で最大の成果を挙げる。


 こんなところか。知的な行動で成果を挙げるシーンは、そのキャラクターを全能者に見せる。強キャラ感が出るってことだ。こいつに任せれば何だかんだ上手いことやるだろうって印象を、読者に植え付けられる。

 ただこのシチュエーションでは、主人公に以下のステータス修正がかかっているはずだ。


・拷問の疲労:体力が低下する。判断力が低下する。

・焦燥感:行動を急ぐ。行動の精度が低下する。

・裏切りの困惑:行動を急ぐ。怒りが増大する。

・怒り:体力が上昇する。判断力が低下する。


 シチュエーションによると、主人公は感情的になりやすく判断力が低下しやすい状態にあると言える。そんな心身の状態で知性的で完璧な行動を取ったら、じゃあ何がこいつを冷静でなくさせられるんだとなるよな。完璧すぎると読者の感情が着いていけない。

 主人公は読者の感情移入の軸となる重要なキャラクターだ。つまり状況に素直である方が脳でシミュレーションしやすく、腑に落ちやすい。全能者は別のキャラに任せることもできるしな。

 じゃあ「力」のスタンスを見ていこうか。


力のスタンス:危機的状況で武力やスキルに頼る。

強者:強者以外には傷つけられない。

不退転:決して諦めず、反省しない。

噛みつき癖:回避可能な問題を回避しない。

玉に傷:必ず何か落ち度がある。


 脳筋の作法だ。無駄が多く、落ち度があるのは様式美ですらある。頭を使わずに最適化が出来るわけないから当然だ。当然なら必ずそうあるべきでもある。じゃなきゃご都合展開になってしまうからな。

 シチュエーションに照らして見れば、こっちの方が素直な行動だ。無駄は主人公への失望に繋がる可能性も孕んでいるが、悪役サイドが単なるやられ役で終わってしまうのを防げるから今回はアリだろう。

 力による打開を選んだがゆえの落ち度が、今後の困難への布石にもなるから物語的にも引き込み要素になるよな。そして何より、今後主人公の成長を演出するための明確な弱点として読者にチョイ見せしておける。つまり「友情・努力・勝利」の努力のネタになる。一粒で二度おいしいじゃん。

 姫を救うのに冷静さが必要だとするならば、主人公は成長しなきゃならない。賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。脱出は成功したからまだ主人公は落ち度に無自覚だ。つまり愚かさゆえの困難を経験して学ぶ必要がある。そしてこの困難は力で解決できるものであってはならない。

 じゃあ解決不能だろって? そうだよ、主人公独りでは解決不能だ。そこで新キャラの起用が必要になってくる訳だ。主人公の愚かさを諭し、成長を促す知恵の先達だ。主人公は危機を救われ、成長することでこれまでにないアプローチが可能になる。これを”転”としてもいいし、”転”をもたらすための、つまり「問題の解消」の具体的手段を得るための前提としてもいい。

 キャラクターっていうのは本来こうして物語上の役割に対して配置していくものだからな。だから起用という表現をした。無駄に増やしてもろくなことにならないって気付いてくれたか? 役割のないキャラクターは読者の理解の邪魔になるってことさ。増やすなとは言ってないぞ。ただ誰も彼も一緒に出すな。いろんなキャラを活躍させたいなら、いろんな話をやることだ。

 さあ、主人公の選択が決まったな。主人公は脱出の方法として、「力のアプローチ」をとることにした。

武力行使によって逃れる。そこでそのシーンを”平たい目”で見てみよう。

 「主人公は拷問官へ仕返しできなかった」、「悪役の読者へのお目通しなし」、「力ずくで逃げられたことに合理性が乏しい」、「なぜ今まで逃げなかったのか」。こんなところかね。

 難癖みたいになるかもしれんが、どれも当然と言えば当然の感想だよな。アンチスレに書き込むつもりでちょっと立ち止まって粗探ししてみると、留意すべき点を見つけられる。これを踏まえて展開を修正しよう。

 「主人公は拷問官を拷問器具で処刑、復讐を達成する」、「悪役が友の裏切りを伝えた」、「実は友が裏で手を引いて、主人公の脱出のサポートをしていた」、「友のサポートでチャンスができたため脱出を決行」。

 全部理由づけできたな。ちゃんと説得力があるし、都合のいいお助けキャラもいない。友騎士が結構なトリックスターだが、これはこれで友騎士がただの自己中でなくなっていい感じ。できる限りの努力はしてるから情状酌量の余地はありそうだ。

 悪役との因縁がやや薄い気もするから、脱出に際して悪役に恥をかかせるとか、傷を負わせるとかで動機付けするといいかもな。おまけにそれが後々悪役の足を引っ張ってくれたりなんかすると、--例えば手勢を減らして選択肢が減ったりすると--主人公へのこだわりを強められていい感じだ。手勢が減ったせいで寸でのところで主人公に姫をかっ浚われたりなんかすると、もうブチギレ案件だよな。いい感じだ。

 そこで友騎士も追跡に使わざるを得なくなって、主人公を追い詰めるって辺りで急ぎすぎたせいで追跡隊が間延び、悪役と友騎士が分断される。主人公と友騎士の一騎討ちだ。当然勝つのは主人公、敗れた友騎士は生き恥を嫌い介錯を願うが、裏切りの真相を知った主人公は友騎士の死を偽装して、妻子を助けに行かせる。居場所は例の主人公を諭す新キャラに聞けってな具合よ。とまあ、初っぱなの設定がしっかりしてれば、アイデアなんてエンジンかかったように出てくる訳よ。

 今例に挙げた展開はお約束てんこ盛りだが、無難に面白いよな。キャストは主人公、姫、友騎士、悪役、諭す人のたった五人にまとまってる。主要人物は主人公、友騎士、悪役の三人だけだ。読者としても、それぞれの思考をなぞりつつ混乱しないラインに収まってるから書くにしても書きやすいだろう。

 総括の前に、女子率低いし、主人公を諭して知恵や組織力をサポートするのは女キャラにしようか。いっそ属性盛って戦闘メイドにしちまおう。単なるお助けキャラじゃ印象悪いし、読者に媚るに丁度良い配役だ。メイド銃士にしよう。皆好きだろメイド銃士。

 で、改めて総括だ。

「主人公は武力を用いて脱出を図る。友騎士の見えないサポートで脱出は上手くいく。拷問官はきっちり報いを受け、悪役は損害を被り、怒り心頭。だが主人公は致命的なミスを犯していた。そのせいで脱出した先で姫を見付けるも確保に失敗。居合わせたメイド銃士隊に拾われる」

 ここまでが”承”だ。勢いでこの後の展開も出来上がってしまったが、創作にはそんなこともあるよな。モヤモヤするからまとめて”転”の概略も載せとくぞ。

「メイド銃士の策と主人公の武力で、悪役のもとに姫が届く寸でのところで奪還に成功。悪役の怒りが爆発。ターゲットが主人公に移る。友騎士も駆り出され、主人公殺害のために悪役勢が包囲を画策。主人公ピンチ。危機迫る中、友騎士と一騎討ちの後和解。かつての主人公より成長し、危機的状況で知恵を働かせ友騎士の死を偽装し、伏兵化。圧倒的優位の悪役を倒すための策略が始まる」

 ふう、おい誰か書いてくれよこの話。絶対面白いじゃねーか! SF世界にして騎士を別の職業にしてもいい。似たようなシチュエーションでいくらでも話が作れるぞ。

 道理を正し、手順を合理化すれば、誰でも面白い話が作れるんだよ。ここまで読んでどうだ? 俺は当然のことしか言ってないはずだ。確かに奇抜で芸術的な、誰もがあっと驚く作品を作るのは才能がいる。だが単に面白い作品を作るだけなら、才能なんていらない。ただ気を付ければいい。

 次回書くことなくなっちまったな。シナリオが固まってしまった。まあ、とりあえず今回は、”承”は”起”を踏まえた対処的行動を描いて”転”を誘う部分だと覚えておけばいい。この定義に基づいて展開を決めれば失敗はない。

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