戦場へ(改定)
「牛若!」
立ち上がり、彼女の目を見る。
ただでさえ目を引く俺たちが、突然奇怪な行動をし出したので客室がざわめくがどうでもいい。
「…………」
彼女は無言で俺に視線を返してくる。だが、その目は何時もの戦に臨む時の研ぎ澄まされた刃の様な目ではなかった。表面は澄んだ瞳だが、その奥底には微かだが揺らぎがある、拭いきれない迷いがある、おそらくその感情の根は不安だ。
例えどんな敵が待ち構えていようと、牛若が気後れすることはあり得ない。それ位は分かる。それ位は付き合ってきた。だからわかる、その原因は――。
俺は、牛若の手を取り、自分の胸に押し当てる、いや、叩き付ける。
「――牛若」
主殿が真っ直ぐに見つめてくる。
義仲を打ち取った後、直ぐに解除させると思っていた空間は解除されなかった。むしろより強固に、万能感すら伴う温かみのある空間として、某を包み込んでくれていた。
主殿はあの戦の間の記憶は曖昧だと仰っていた。
それは、正直な感想だったのだろう。
だが、自身の身に生じた変化を見過ごすほど寝ぼけていたと言う訳でないのだろう。
主殿は覚悟を決めている、成らば――某がすることは唯一つ。
「――承知、行くぞ!弁慶!」
「了解でございます」
バキンと言う音が鳴り、ロックの掛かっていたドアが無理矢理引き開けられ連結路に風が吹き込んでくる。運転席ではアラームが鳴り、間もなく、車両は緊急停止するだろう。
「では、先行しますでございます」
開け放った扉から、風を押しのけ線路に飛び降り、慎重かつ丁寧に、地面を踏み込む。
一歩。
足元に力場を展開し、敷石を保護しながら歩を進める。
全身のフレームに歪みや疲労がたまっている、バランス調整に余計な労力を割く。加速や小回りにおいては通常の戦闘速度の3割程度しか出せない。近接戦は絶望的だ。
一歩。
回転数を上げられないので、踏み込みを強くすることで速度を稼ぐ。
GENの反応は、指数関数的に増大してゆく。人口密集度合いでは、かつて戦場となった真一様の学校と等しいか、それ以上だろう。だが、今回の戦場は、前々回の十字路の様に、多数の交通機関や、様々な人間が交差し合うある意味無秩序な空間、一歩間違えば壊滅的、間違えなくても大参事だ。
一歩。
不幸中の幸い、線路と言うのは理想的な滑走路だ、直線の専用路で侵入者を気にせずひたすらに加速できる。
だが、それらの問題は些細な事だ、これだけ長期の任務は珍しく、こちらの世界にも慣れてはきたが、所詮は私達とは別の世界、被害が大きかろうが、小さかろうが元の世界には関係が無い。
この先にある戦闘も問題は無い。この世界に渡ってからの記録を元に、敵の強さは計算できる。今までで最大の戦いとなるだけだ。その中で、私の現状ではどれだけ戦力になるか心苦しいが、命令に従い全力でこなすだけだ。
それよりも、問題となるのが牛若様と真一様、否、正確には佐藤真一様。八正を取り込み、八正と同一化した唯一の人類。
あの時、まさに太陽の化身と化した義仲殿に牛若様が一合交わしたあの時、彼は義仲殿が使用していた新型八正を吸収してしまっている。
計測不能、計算不能、予測不可能。現状、生命活動に異常は無いが、今後の事など全く分からない。八正の中核は平家の至宝と言うことで、牛若様でも解析は許可されてはいない。そんなモノと適合していっている彼は最早……。それに、そんなモノを使用している牛若様に問題が無いとは決して言い切れない。
一歩。
余剰メモリーで、纏まらない思考しつつの丁度八歩めだった。線路に沿って世界が変わる。
「――まだ、目標地点まで7kmはあるでございます」
つい、驚嘆と言う名の呟きが口から洩れる、それと同時に、私の隣を何かが高速で通り過ぎていった。
短めですが。
季節の変わり目は体調も不安定になりますねー。




