戦場へ2(改定)
正見、正しい見解。
関係ない、見えるものが見たものだ。
正思惟、正しい思索。
関係ない、主命に従い敵を打つ唯の得物だ。
正語、正しい言葉使い。
関係ない、詭弁も良弁も策の内でしかない。
正業、正しい行い。
関係ない、主命に従うことこそ我が道。
正命、正しい生活。
関係ない、主命に従う事に疑問も不満もありはしない。
正精進、正しい努力。
関係ない、物覚えには多少覚えがある、見様見真似、聞きかじりだけで、たいていの事はそつなくこなすことが出来た。
正念、正しい気づき。
関係ない、自己の状態把握、敵の情報収集を怠ったものは死ぬだけだ。
正定、正しい集中力。
関係ない、正しかろうが、誤っていようが、結果が全てだ。
八正道、中道へ至る聖者の道。
知った事か、某は一振りの刃、一発の弾丸でよい。主の敵を打ち滅ぼす兵器であればそれでよい。悟りだ、涅槃だのは引きこもりの坊主どもに任せればよい。
敵だ、敵だ、敵を討つ。
あらゆる手段を用い、迅速に、確実に敵を討つ。
なるほど、確かにこちらの世界の某もそうだったのかもしれない。某は諸刃の妖刀なのかもしれない。主の敵を切りつくした後は、その血まみれの切っ先が主の敵として映ってしまうのかもしれない。
ははは、確かに某は人として何か壊れているのだろう。幼少から物陰より『化け物』などとよく呼ばれていたものだ。
だが、だが……。
某は、主殿を、真一殿を、化け物以上の何かにしてしまったのかもしれない。
某の本来の主は兄上だ、真一殿は、この世界での仮の主に過ぎない。主命を、GENの討伐の為に協力してもらっているだけの現地人だ。
だが、だが!
それらを承知の上で、真一殿は某をお使いになると言う、某にその身を捧げてくださると言う!
ならばこの牛若!全てを切り裂く刃となろう!全てを貫く鉾となろう!全てを打ち抜く弾丸となろう!
我が歩むは修羅の道、中道などとは程遠い、冥府魔道へ堕つる道、死残血河を築き上げ、兄上の任務を果たし、真一殿の命を救う!
牛若が、左手を真一の胸に添え、呪言を唱える。無限に続く刹那の時の中で、これまでとはけた違いの何かが牛若の中に流れ込んでくる。
重い、遥か地の底にいるようだ。
熱い、太陽の炎に焼かれているようだ。
昼の自分は鍋で茹でられる蛙だった、徐々に徐々に力を加えられ、当に茹であがっているのに気付かずに舞い踊っていた。
それが、今すぐに左腕をぶった切ってやりたいほどに、一気に無尽蔵な力が送り込まれてくる。
いや、違う、これでも加減されているのが分かる。肉体を捨て、魂だけの姿となり、無間地獄にも等しい破壊と再生の中で、常人ならば当に意識など霧散してもおかしくない状況で尚、某を慮って出力を調整しているのが分かる。
世界が反転する、虚数次元に潜むGENを引きずり出し打ち滅ぼす為の空間が顕現する。戦場までははるか遠く、今までの八正では精々直径1km、義仲の八正でも直径10kmだが、これならば、半径10km程度――問題ない!
博多南駅を中心に半径10kmの範囲で展開された八正空間の中、牛若は弾丸のように戦場へ駆け出した。




