第7話 キレッキレのエリカが爆発してコーヒーを噴きそうになった件
「みんなもわかっているとは思うが、このゲームのカギは模擬地雷攻略だ、それに尽きる。」
ハーフタイムに俺はチームに作戦を説明する。俺たち奴隷はナイフが主な武器になる。そのために団子になって行動しがちなのだ。
「ま、自動小銃で一掃される心配がないからね。」
ラザロの言葉に俺はうなずく。
「そのとおり、それで作戦が一本調子にならないための変数が、模擬地雷なんだ。それでチームを分ける。フォワードはエリカ。バックアップはカレブ。そしてラザロが模擬地雷の処理だ。ジョシュアと俺はラザロのガードだ。いいね。」
皆うなずく。
「ルートは規定通り2階から侵入。カレブは退路の確保を頼む。エリカはお待ちかね、切り込み隊長だ。存分に暴れてくれ。とにかく狭いところに引きずり込んでマンツーマンを崩さないように。」
「エリカの場合、ガールツーマンじゃなかろうか。参謀。」
ラザロ、うまいことを言ったつもりか?鼻の穴をふくらませるな、まったく。それはツーマンないんだよ。あれ、今のうまくないか?
「じゃあ、はじめようか。」
チーム全員で手を重ね、気合を入れる。
後半戦は俺たちの攻めだ。会話はほぼブロックサインを使う。注意深く二階から侵入した。まったく間取りが同じ別の建物である。どんな仕掛けがまっていることやら。
無人の二階を通過するとほどなくして階段の下に模擬地雷を発見した。敵チームも俺たち同様、階段に線を張り巡らせて導火線を隠すブービートラップである。ここはラザロの出番だ。ラザロは慎重に切っているつもりだが、傍から見るとかなり早い。
「ほほう。あの地雷処理、かなり手慣れているな。動きに全く無駄がない。」
見ているアモンも感心する。
(何かおかしい)
ラザロも俺も違和感を覚える。線の張り方が弱いのだ。昨日の短い準備時間でここまでやったことはすごいと思うが、これでは模擬地雷が作動しないだろう。俺はラザロに思ったことを耳打ちする。ラザロも同じことを感じていたようで、二度うなずいた。すべてのラインを切除したところで、待ちくたびれたエリカが喜び勇んで降りようとする。俺は腕を掴んで制止する。
「むーーーー。(行きたい、行きたい、行きたーい)」
声を出さずに顔いっぱいの表情で抗議するエリカを見て俺は笑いを噴き出しそうになるのを精一杯こらえた。そして「待て」のサインを出す。ラザロは四つん這いの格好で階段を降り、ジョシュアと俺はガードを続ける。
(あった。)
ラザロが親指を立てる。一番下の段に本物の導火線がはってあったのだ。上に張っていたのはすべてブラフだったのだ。おそらくは、全部解除したんだと思い込ませ、喜び勇んで降下したところを罠にかけるつもりだったのだろう。解除した刹那、敵チームの二人が無防備なラザロに襲い掛かる。これも罠にかからなかった時の、すでに練っていたプランの一つだったに違いない。
ところが、次の瞬間には二人とも想定外の攻撃に、その代案ごと床に叩きつけられ、伸びてしまった。エリカが階段から飛び降りて両足で一度に二人の顔面に強烈なキックをお見舞いしたのである。
「●パ様キーーーっク!」
エリカは得意げに新必殺技につけてはイケナイらしい名前をつけていた。
「ユ●様ってだれよ?」
俺の問いには答えず、両手にラバーナイフを握ったエリカは生き生きとした表情で敵に襲い掛かる。彼女のゴーグルには、先ほどの必殺技の哀れな犠牲者たちから噴き出した鼻血が返り血となって点々とついている。階段下のホールは割と広いので、階段出口で半包囲する作戦だったのだろうか。いきなり突破された敵チームはあっけなく制圧された。俺たちの完勝、いやエリカの独壇場であった。
「ぷ…く…。」
クールなアモンであったが、エリカの必殺技あたりから笑いをこらえるのに必死だったらしく、肩を震わせている。ようやく笑いが収まったところで彼はスマートフォンを取り出すと、午後の予定をキャンセルしてしまった。
「申し訳ないが、午後の決勝も見ていきたい。構わないだろうか?」
アモンの申し出に、大会委員は
「どうぞどうぞ、お食事も用意させましょう。」
と快諾する。
「ついでにもう一人前追加してもらえないだろうか?首都防衛軍参謀ののアンテルス中将閣下もご覧になられたいそうだ。」
大会委員は、軍のお偉いさんを平気でキャンセルできるクレメンス家の権勢に内心驚いていた。
決勝は午後からである。今日は、応援に家族や学校の生徒たちも来ていたのだ。むろん、上にあるアマレク人専用区画での応援だが。俺たちはランチを摂りながら作戦を話し合う。決勝戦は1on1の5本勝負(3本先勝)に加えて、「狙撃防御」が初めて入る。シュミレーションフィールドで狙撃やテロ攻撃を予測したり迅速な判断で阻止する、という頭脳ゲームだ。正直、俺はこのためにレギュラーになったようなものなのだ。俺様の「臆病風」を披露する時が来ようとしていた。
宮●駿先生、徳●書店様、申し訳ありません。