第44話 士師(ジャッジ)、そして代執行人(エージェント)に。
「これからお前を正式に任命する。アマレク人に対し、お前は俺の代執行人となる。」
アーサーは続ける。
「俺には頭脳があっても手足がねえ。おめえさんに俺の手足となって、あの可哀想な子たち(人類全体のこと)を助けてやって欲しい。
あいつらを売っ払ったのはあいつらのじいさんのじいさんのじいさんだ。あいつらが苦しい目にあわにゃならんのは割りにあわねえ。
おめえさんがささやかながらも自分の手で幸せを掴んでいるのは知ってる。だがな、あえてそれを曲げて、それを曲げておめえさんにお願いする。」
俺はゆっくりと口角を上げた。
「いいぜ。契約しよう。」
尊は目の前におかれた指輪を右手の薬指にはめた。王は宣言する。
「不知火尊=パーシヴァル、汝をわが代執行人とし、地上の全権を委任する。我が民に対しては士師と名乗るがよい。この業を成し遂げるなら、汝を王国の公爵に叙し、救国卿の号を授けるであろう。」
「士師を名乗れというのなら、用意は出来ているのだろうな?」
俺は確認を入れる。たった一人で大国相手に喧嘩は出来ない。必要なのは信頼できるスタッフなのだ。これからやるのは戦争の可能性を秘めた交渉なのだ。
「あらかたは出来ている。ただ、仕上げはお前さんの仕事だ。この座標にくるといい。そうしたらお前さんも感極まっておいらに敬語を使うようになるだろうよ。」
アーサーは胸を張った。
「そいつは楽しみだ。さて、その前に忘れ物をいくつかとってこなきゃなんねえ。」
俺の目は言葉とは裏腹に精気にあふれていた。
(あの王様としゃべるとべらんめえ調が移るの、尊。)
「確かにつられるな。」
俺は王とは久しぶりのベリアルが一度も出てこないのはなぜかと思ったが、黙っていた。
(わしはあやつが苦手でのう、まあよい語り部はわしが引き継ごう)
尊が家に帰って来ると、妹たちがじゃれ付いて来る。その相手をしながら尊はアーニャに告げた。
「アーニャ。」
「ん……?」
アーニャは食事の支度を続けながら振り向きもせずに反応する。結婚してからは、尊とアーニャは二人で食事をするようにしているのだ。大勢じゃと話もろくにできんし、あまり深い話もできんのでな。
「今日、探し物が見つかった。」
「そう。」
アーニャはなるべく素っ気ない口調で答えた。続くであろう尊の言葉が怖かったからだろう。
「明日、ネーヅクジョイヤ号に行ってくる。」
アーニャの背中がピクッと震えた。
「修理の算段がついたんだ。」
アーニャは迷っていた。帰れる、ということは両親にとっても、両親と共にこの地に不時着した彼女の民にとっても間違いなく福音だ。でも、同時にそれはアーニャにとっては家族との別れを意味するのだ。
「宇宙船!」
「飛ぶの?兄様」
「きーん!」
妹たちは口々にはしゃぐと、両親の元へ"とんで"いった。きっと報告しに行くのだろう。小一時間もすると、すっかり出来上がった上機嫌の体のローレンさんがクララさんと共に二人の部屋にやって来た。
「尊くん、その話は本当なのかい?」
二人の瞳は期待にキラキラ輝いていた。
「ええ、間違いありません。ただ、お願いがあります。ネーヅクジョイヤをしばらく貸していただきたいのです。」
尊の申し出に二人は顔を見合わせた。
「それは構わないが……説明を聞いてもいいかな?」
「もちろんです。ご存じの通り、私の民はアマレク人によって奴隷とされております。私はこのたび王の代執行人として王のすべての権限を預かりました。そのため、アマレクに戻り、我が民の解放を交渉しなければなりません。その間の移動手段が必要なのです。」
「撃ち落とされたりはしないよね?」
クララさんは心配そうだが、それももっともな懸念ではある。
「その可能性は全く無いとは言いません。ただ、私たちは同型の宇宙船を何隻も所有しております。少なくともお二人が故郷に帰れなくなることはありません。まあ、そいつらが動けるようになるまで少しかかるので、ひとまずお借りしたいのです。」
尊の説明に安心したのか、ローレンさんはお茶をすすった。
「そうか、ずっと故郷を夢見て来たのだが、いざ帰れるとなるとあっさりしたものだな。」
「それで、段取りなのですが……」
尊は続ける。
「まず、私が出掛けている間に、帰国希望者を集めてください。わたしが帰ってきたら、宇宙船に必要な物資を補充するため、そしての宇宙船のクルーとしてのトレーニングを積んでもらうため施設に案内します。」
「どれくらいかかるのかね?」
「2年は必要でしょう。それから、わたしは民を解放し、皆さんと合流します。……そして、お返しした船で故郷にお帰りになれます。」
「あいわかった。」
ローレンさんは思いの外あっさりと承諾した。
「私たちの今の暮らしも君がいてこそだ。君に恩を返す機会が今であるなら、私は喜んで力を貸そう。」
次回、ネーヅクジョイヤ。こいつ……動くぞ。ではまた明日。




