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はるかかなたのエクソダス  作者: 風庭悠
第6章:白鳥の騎士(パーシヴァル)~王との邂逅編
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第42話:手をつなごう。尊とアーニャの選択。

「お礼参り殺人事件、共犯者に懲役5年。」


ラジオのニュースに俺は食事の手が止まってしまった。共犯者もなにも、あそこには俺しかいない。マリアンもそう証言したはずだ。


「単なるおぬしに対する脅しじゃ。気にするな。」

ベリアルが気休めをいった。

「それよりもきちんと食ってくれ。わしを飢えさせる気か?悪いのは政府であっておぬしではない。考え違いじゃ。」


 確かに、今すぐにでも助けにいってやりたいが今のままでは明らかに力不足だ。俺がこうして自由を満喫している間、あいつらは不自由な暮らし-奴隷どころか囚人生活-を余儀なくされている。本当に俺はこのままでいいのだろうか。

 正直、眠れない夜が続いた。


「尊さん、最近夜眠れていますか? 目の下にクマができてますよ。」

アーニャが不意に俺に訊く。俺は

「はは、リアル『医者の不養生』ですね。まあ、ちょっとね。」

と答え、話題を変えようとしたが、アーニャは何を思ったのか、

「そうだ。尊さんの部屋でお泊り会をしましょう。」

と朗らかに提案した。


 無論、二人きりではない。アーニャはチビ3人を連れてくるという。それでは余計眠れないのでは。正直、そう思っていた。喜んだのはチビ3人だった。当然、俺のベッドはアーニャが使うので、床に布団を敷いての雑魚寝の3人は誰が俺の隣に寝るのか、寝床の熾烈なポジショニング争いを繰り広げる。


「はい、喧嘩しない。明日も明後日もありますから、順番っこにしましょうね。」

アーニャがまとめてくれた。って、1日だけじゃないのかい。


 でも、効果は抜群だった。おかげで俺は一人でくよくよする暇がなく、妹たちも力尽きるまで俺を容赦してくれない。相手を終えるころには俺も体力のほとんどを絞りとられていた。そして、最後とどめはアーニャが子守歌をうたってくれるのだ 。


 アーニャの声は柔らかく、とても済んいでて、まるで春の日の小鳥のさえずりのように耳に心地いい。子守歌、といってもヌーゼリアルの歌を標準語スタンダードに直したものを歌ってくれるのだ。アーニャが幼いころはパウラがよく歌ってくれたそうだ。あのだみ声で。


 俺もそれを聞いていると突然睡魔が襲ってきてすとんと落ちるように眠りにつけるのだ。確かにこれは癖になるかも。  


 数日のうちに、俺の精神状況はよくなってきた。しかし、今度は、もっと昔の記憶に悩まされるようになる。俺が地球で自分が死んだ日や、誤って人を死なせてしまった日のことがフラッシュバックのように蘇り、俺を精神的に襲ってくるようになったのだ。


「おぬしの脳もだいぶこなれてきた証拠じゃ。キングとコネクトさえすれば、わしらのコンビが完全復活ということじゃ。」

ベリアルはむしろ喜んでいたが、俺はたまらない気持ちだった。殺すのも、殺されるのも、本当につらい経験だったからだ。


 お泊り会も終わってしばらくたった晩、俺がフラッシュバックに襲われ、涙を流していると、アーニャが俺の部屋に入ってきた。アーニャは俺の枕元に座るとひんやりとした柔らかい手をおれのまぶたの上に充てる。俺は涙がにじんでいた。俺が涙をぬぐうと、アーニャはその手に自分の手をからませる。アーニャは不意に歌いだした。


「手をつなごう、あなたとわたし。

あなたは弱い人。わたしも弱い人。

だから手をつなごう、二人ならこらえられる。


あなたはひとりきり、わたしもひとりきり

だから手をつなごう、確かめ合うために。


だれもあなたがわからない。きっとわたしもわからない。

でも、寄り添うことはできるはず。

だからてをつなごう、歩きはじめるために


手をつなごう。あなたといたいから。

伝わるものを感じよう。


言葉なしでは伝わらない。言葉だけでもつたわらない。

あなたを愛するこの気持ち


支える手、分け合う手、

いやしの手、慰めの手。


楽しいときだけじゃなく

つらい時こそいっしょにいたい。


だから手をつなごう

あなたはわたしの大切な人」。


 心に染みる歌だった。俺の隣にはこのひとがいる。お互いにそばにいることを望み、そうすることを選んでここにいる。手をつなぎあうことはお互いに自由を奪うことじゃない。自由を分かち合うために手をつなぐのだ。


 俺はこのひとを愛している。アーニャは俺に自由への翼をくれた。自由とは無責任を意味しない。自由は無償ではない。現に俺はチームメイトを犠牲にして自由を得た。だから俺の自由は誇りある自由でなければならないのだ。そして、そのための翼がこのひとなのだ。


「尊さん、ねえ。よかった。……寝られたのね。」

立ち上がり、俺の手を放そうとしたアーニャの手をもう一度握りなおす。

「アーニャ。……ずっと私のそばにいてください。」

俺は目をつむったまま言う。

「もう一曲ご所望ですか?」

アーニャは今の話だと思ったらしい。

「私と、結婚してください、ということです。」

アーニャは言葉で答えずに俺を抱きしめ口づける。


その晩、俺たちは一つになった。

お昼から…ねえ。「手をつなごう」は「択べ」、「つかみ取れ」と共にこの物語のテーマだったりします。


ではまた明日。

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