EP 6
キャバクラ豪遊と、次元超越の便所サンダル〜無銭飲食のツケは、第6聖獣の鉄拳で払え〜
ポポロ村から馬車で数時間ほどの距離にある、歓楽街ネオンシティ。
その一角にある最高級キャバクラ『夜の蝶』のVIPルームは、狂騒と歓声に包まれていた。
「火原しゃま〜♡ ドンペリ・ゴールド、もう一本開けちゃっていいですかぁ?」
「おうおう! 開けろ開けろ! 今日は俺の奢りだ! 店にある一番高い酒を全部持ってこい!」
白装束から派手なブランドスーツ(ただし彼の粗悪なコピー品)に着替えた火原 元は、両手に美しい魔族や獣人のホステスをはべらせ、葉巻を吹かしながら高笑いを上げていた。
「(ギャハハハッ! 最高だぜ! あの世間知らずのアホエルフから巻き上げた純金のおかげで、三日三晩、王様気分だ!)」
火原の足元には、ルナから受け取った『純金100kgのインゴット』が、これ見よがしにドンと置かれている。
その圧倒的な輝きと質量に、店のボーイもホステスたちも、火原を本物の大富豪だと信じて疑わず、最高の接待を続けていた。
「いやぁ、火原様。三日連続の貸し切りVIPルーム、誠にありがとうございます」
「ヒヒッ、店長か。いい店だったぜ。そろそろお開きにするから、お会計を持ってきな」
揉み手で近づいてきた黒服の店長に、火原は鷹揚に頷いた。
「かしこまりました。三日間のご飲食代、ならびにホステスたちの指名料を含めまして……しめて『金貨三百枚』となります」
金貨三百枚。約三百万円の豪遊である。
しかし、火原は全く動じない。足元にあるのは金貨五百枚相当の純金塊なのだから。
「ヒヒッ、細かい釣りはいらねえよ。そこの純金塊、持っていきな」
「おおっ……! よろしいので!? これは見事な……ははぁっ、ありがたく頂戴いたし――」
店長が、床に置かれた純金塊を拾い上げようと両手を伸ばした。
――その、瞬間だった。
ボンッ!
気の抜けるような音と共に、純金塊を包んでいた眩い黄金の輝きが、霧散した。
あとに残ったのは、その辺の河原に転がっているような、薄汚れて苔の生えた『ただのデカい石ころ』だった。
「……………………は?」
「……………………え?」
店長と火原の声が、見事にハモった。
ホステスたちも、目をパチクリとさせて石ころを見つめている。
「(な、なんだこれ!? 純金が、石ころに……? 魔法が解けた!?)」
火原の背筋を、滝のような冷や汗が流れ落ちた。
エルフの錬金術は、たったの三日で効果が切れる。
そんな致命的なコンプラ違反仕様だとは夢にも思っていなかった火原の脳内は、完全なパニック状態に陥った。
「お、おい……火原様よぉ」
先ほどまで揉み手だった店長の声のトーンが、地を這うような低いドス声に変わった。
VIPルームの入り口から、屈強なオークや鬼人族の用心棒たちが、次々と無言でなだれ込んでくる。
「ウチみたいな高級店で『石ころ』を出して食い逃げたぁ……随分と舐めた真似をしてくれるじゃねえか。てめえの臓器とスキルを全部売り飛ばしても、金貨三百枚キッチリ回収させてもらうぞ」
「ち、ちがッ! これは誤解だ! 俺もあのアホエルフに騙されて……ッ!」
火原は顔面を蒼白にしながら後ずさった。
このままでは、炭鉱のタコ部屋よりも悲惨なマグローザ漁船(地下労働)行きが確定してしまう。
「ど、どけぇぇぇぇっ!!」
追い詰められた火原は、テーブルの上にあった酒瓶やグラスを両手で手当たり次第に薙ぎ払い、暴れ始めた。
ガシャァァァァンッ!!
高価なグラスが粉々に砕け散り、色とりどりの酒がVIPルームの宙を舞う。
火原は、混乱に乗じて入り口へ向かって駆け出した。
「待てコラァッ! 逃がすな!」
「うるせえ! 俺はチート転生者だぞ! お前らみたいな雑魚に捕まってたまるかぁっ!」
火原が入り口付近のテーブルを蹴り飛ばした、その時だった。
宙を舞った安酒とツマミの汁が、店の隅の『最も目立たない薄暗いボックス席』に、ピチャリと降り注いだ。
そこには、ホステスもつけず、酒も飲まず。
ただ一人で『ルナミスバーガーの特大テイクアウトセット』を黙々と食べている、一人の男が座っていた。
「…………あ?」
地獄の底から響くような、重低音の凄声。
男が、ゆっくりと立ち上がった。
一切の妥協なく超強力ポマードでビシッと固められた、黄金のリーゼントヘア。
顔面は国宝級の超絶美形イケメンだが、その瞳には触れる者すべてを殺すような鋭い眼光が宿っている。
背中には『第6聖獣 麒麟降臨』『全国制覇』というヤンキー文字の刺繍が施された、ド派手な金色の光沢ジャージ。
そして足元は――なぜか、履き古した『便所サンダル』であった。
彼こそが、神界のタイムカードを牛耳り、次元を超越する最強の調停者。
第6の聖獣、陸奥 騎麟――通称『リキ兄貴』である。
「おい、てめえ」
リキ兄貴は、自分の金ジャージの肩口に染み付いた安酒のシミと、テーブルに落ちてソースが飛び散ったルナミスバーガーを交互に見つめ、ギリッと奥歯を鳴らした。
「俺はただ……非番の日に、美味いハンバーガーを静かに食いたかっただけだ。……それなのに、俺のジャージを汚して、メシを台無しにして……その上『食い逃げ』だと?」
「ひぃっ……!?」
火原は、リキ兄貴から放たれる『次元が違う』圧倒的なプレッシャーに、思わず腰を抜かしそうになった。
だが、ここで止まれば用心棒たちに捕まる。
火原はヤケクソになり、ユニークスキル【コピー】で粗悪な鉄の剣を顕現させ、リキ兄貴に向かって振り下ろした。
「どけって言ってんだろがァッ!!」
「……くだらねぇ」
パキィィィンッ!!
火原の剣がリキ兄貴の肩に触れた瞬間、リキ兄貴の強靭な闘気に負け、粗悪なコピー剣は粉々に砕け散った。
「男なら、サクッと喧嘩でケジメつけろや」
スゥッ。
リキ兄貴の姿が、火原の視界からブレて消えた。
――次元跳躍。
空間の概念を無視し、瞬時に火原の眼前の『ゼロ距離』へと移動したのだ。
「えっ――」
火原が瞬きをした時には、すでにリキ兄貴の右拳が、彼の腹部へと深く沈み込もうとしていた。
その拳には、神をも穿つ、無次元の紫銀色の極大電撃(聖雷)がバチバチと纏われている。
「オラァッ!! 歯食いしばれや!!」
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!
リキ兄貴の『聖雷・鉄拳制裁』が、火原の鳩尾に完璧にクリーンヒットした。
数億ボルトの聖なる雷が火原の全身を駆け巡り、物理的・魔法的な防御をすべて無視して威力が爆発する。
「アッヒャバァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
火原の体は、原型を留めたまま『黒焦げ』になり、強烈な衝撃波と共にキャバクラの天井を突き破った。
木っ端微塵に吹き飛ぶ屋根。
火原はそのまま夜空へと打ち上げられ、美しい放物線を描いて、遥か彼方にある『ポポロ村』の方向へと、文字通りホームランされていった。
キラーン、と夜空に星が瞬く。
「…………」
ぽっかりと穴の開いた天井を見上げ、用心棒もホステスも、全員がアゴを外して硬直している。
その圧倒的な静寂の中。
リキ兄貴は乱れたリーゼントをスッと手櫛で直し、何事もなかったかのように便所サンダルを鳴らして席に座り直した。
「……チッ。バーガーのソースが足りねえな。おい店長、ケチャップ持ってこい」
「は、ははぁぁぁぁっ!! ただいま!!」
絶対的な暴力と理不尽な詐欺の報い。
天然の偽金造幣局をカモにした小悪党は、神界最強のヤンキー聖獣の逆鱗に触れ、満身創痍で自らの破滅の地(ポポロ村)へと強制送還されていくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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