episode8
教室の外から、断続的な悲鳴と衝撃音が響く。
黒い影――魔物――が増援として現れた。
胸の奥がざわつく。
黒い剣を握る手に力を込めようとするたび、頭の奥で警告が鳴る。
――使えば、また記憶が消える。
「……まずい……」
思わず呟く。
目の前の魔物は止まる気配がない。
そのとき、後ろから低く鋭い声が響いた。
「ルイ、下がれ!」
思わず目が吸い寄せられる。
さっき自己紹介しただけのクラスメイト――カイが、魔物の前に立っていた。
槍を握った腕に、微かに血が滲んでいる。
息は荒い。
でも瞳は揺るがず、凛としている。
「……カイ……?」
思わず声が震えた。
魔物が突進する。
俺は剣に手を伸ばそうとする――だが、カイは一歩も引かず、槍を前に突き出した。
――衝撃。
魔物の体が吹き飛ぶ。
教室の壁が鳴る金属音。
カイの肩や腕には微かに血が滲む。
「……なんで、そんな……」
思わず口に出す。
カイは荒い息を整えながら、低く言った。
「理由?……俺が先に飛び出すしかなかったんだ」
その言葉に、俺は固まる。
「……え?」
「お前、黒い剣を使えるんだろ?でも、あれは使えば記憶が消える。無理に出せば、必要な記憶まで失う」
「……記憶……」
カイは槍を肩に戻し、俺の目を真っ直ぐに見据える。
「だから俺が前に出る。血の代償を払ってでも、お前の負担を減らすんだ」
――血の代償?
言葉の意味が、体の奥まで響く。
「……血……?」
「俺は、ヴァンパイアと契約してる。力を使うと自分の血を削られる。少しずつだけど、命の一部を差し出す形になる。だが、記憶を失うよりもましだろ?雑魚は任せろ」
息が止まりそうになった。
目の前のカイ――ただのクラスメイト――が、命を削って俺を守ろうとしている。
「……なんで、そんなこと……」
「理由は単純だ。お前を守りたいからだ」
カイの声には迷いがない。
槍を握る手の震えも、血の滲みも、全部覚悟の証。
「理解できたら、次は俺と連携しろ。お前は無理するな。俺が盾になる」
胸に熱いものが込み上げる。
命を懸けて守ろうとする姿。
「俺は記憶を失うのがこんなにも怖いのに…だっせぇな、俺」
カイが槍を握り、俺の前に一歩前に踏み出す。
肩には血が滲み、息は荒い。
「ルイ、下がれ」
その声は緊張と血を失う恐怖に震えているようで、でも決意が滲んでいた。
俺は剣を握る。
――記憶は使わず、ただ残った剣の力だけで戦おう。
すると、突如――
ガシャッ!
黒い装甲と特殊武装を纏った軍人たちが教室に滑り込む。
動きはまるで計算された機械のようで、空気を切り裂く音だけが響く。
カイも俺も言葉を失った。
初めて見る存在なのに、その圧倒的な実力と戦闘の緻密さに圧倒される。
魔物たちは驚き、動きが鈍る。
――空中に飛び出す男女、一瞬でその場の魔物は血祭りとなる。
カイは槍を握ったまま、増援を見て小さく息をつく。
「……た、助かった…のか……」
胸の奥が少し軽くなる。
――力を使わなくていい。
ーーその瞬間ホッとした自分に自己嫌悪する。
今戦っている彼らも何かを失いながら魔物を切っているのだ。
失う恐怖と闘いながらも迷いがない刃。
俺が失うはずだったものを誰かが代わりに失い、そして戦っているのだ。




