第98話 新たな力
「0から、1?」
するとポンさんは、僕がジャンプした瞬間を狙いすまし、僕の右頬をパンチした。「急になにするんだよ!」と怒る僕に対し、「これがいわゆる0の状態やな」と付け加える。
「え、ゼロの状態……?」
「第一に、そもそもウタは無防備すぎんねん。まずスキルの発動中を1としたとき、それ以外の時間を0と仮定しよか」
「1と0……。うん、それで?」
「だーかーら、敵が俺みたいに賢い賢いのんやったりすると、今のウタは攻撃する対象としては死ぬほど無防備やし、死ぬほど無警戒な状態やねん。なんなら常に0を狙って対処するだけで、今みたいにいくらでもやっつけられんねん」
ムスッとしてポンさんのヒゲを引っ張ってみる。
しかしポンさんは自らヒゲを引きちぎり、再び飛び上がるタイミングで僕の右頬をパンチした。
「痛いって。どうしてそんなことするの!?」
「例えばの一例やん。こっから先は、敵もウタの弱点を狙って攻撃してくるかもしれんてことや。賢い奴は、相手のことをよ~く見てるからな。ウタが一番弱くなるタイミングを狙ろて攻撃してくるかもしれんっちゅう例え話やんか」
『大落下』は、物理的落下やステータスの低下などによって発現し、状態異常の消失などを条件に瞬時に消えたりもする。だからステータスの低下も、物理的な降下もなくなった今みたいなタイミングは、スキルが発生せず、生身の僕に戻ってしまう。
「せやからウタは、今後常に1と0の状態を意識して生きてく必要があんねん。ここまではOKやな?」
確かにポンさんの言うとおり、僕の無防備なタイミングは理解できた。
でもだからといって、常にスキルを発動状態にすることは難しい。
「簡単に言わないでよ。僕にもMPの限界があるし、そもそも修行僧じゃないんだから、常に気を張り続けるなんて無謀だよ」
しかしポンさんがポカンと僕の頭を叩く。
「せやからアホや言うねん。最も重要なんは、"如何にして無意識下でスキルを有効化し続けるか" やねんで」
「それは僕も考えたよ……。でも常に状態異常でいるためにスキルを使い続けるのは無理があるし、意識だってずっと保っていられるものじゃないし」
「あんなぁ、そんな無茶をどないかするために『スキル』ってもんが存在すんねん。ちゃうか?」
ポンさんに言われるがまま、僕はスキルの一覧を表示させた。
そして指示されるまま、文字の羅列をスライドさせた。
「ウタもちゃんと考えながら見るんやで。どないしたら、常にスキルを発動させてられるか」
習得できるスキルの一覧は、僕も一通り確認した。
そして自分に何ができるかを考える中で、わかったこともあった。
まず第一に、スキル一覧の中に表示されてはいるものの、僕の基礎ステータスと合致しないスキルは習得することができなかった。考えてみれば当然だけど、そこまで都合が良い話はないみたいだ。そして何よりも、そもそも能力向上系のスキルは『大落下』と相性が悪い。ほとんどのスキルは、使用者の能力を向上させるために存在していた。だから使えるものはどうしたって限られてくる。
「そんな都合の良いスキルがあるなら、僕だって迷わず覚えてるよ。『常時スキル発動』のパッシブスキルとか、『常時病気』とか」
「そんなもんあるかいな、もっと真面目に考えんかい。……そんなら、まずはコイツから考えてみよか」
そんなポンさんが示したのは、とてもわかりやすいものだった。
「『MP消費減少』……。確かにこれは僕も考えたよ。でもこれさ……」
最もわかりやすくて、最も効果が大きいことは僕にだってわかる。
だけど話がそこまで簡単なら、僕だってすぐに実行してるよ。
「そやねん。コレ、習得にかかるSP量が桁違いやし、そもそも習得条件が明らかになってへんから覚えられへんねん。でもまぁ、そんなんを可能にするんが年の功って奴やねんなぁ」
「え!? それってもしかして……」
「うんにゃ。俺、その方法なんとなく知ってんねん」
あまりにビックリしすぎて許容量を越えて地面を蹴ってしまい、激しい爆風が発生する。だけど僕は気にせず、顔に小石が直撃して怒っているポンさんの頬をギュッと引っ張りながら、「なにそれ、どうやるの!?」と問い詰めていた。
「まずは落ち着けて。確かに知ってるんやけど、残念ながらそう簡単なもんとちゃうねん。せやから、これからその準備を進めてくわけやんか?」
居ても立っても居られなくなった僕は、多少地面が爆発することもいとわず大ジャンプした。そして体操選手のようにクルクル回ってから着地し、ポンさんをぬいぐるみのように抱えながら「早く教えてよ!」と激しく揺らした。
「焦んなて。心配せんでも、まだとーぶん覚えられへんから安心しとき。残念やけど、習得に至るまでには到達せなあかんハードルが山積みやねん。こっからウタは、それを一個一個越えていかなきゃならん。わかってるな?」
「うん。頑張る」
「わかったんならはよぅ降ろして」
「うん。わかった」
降りるなり、指し棒片手にベテラン教師のようにカツカツ踵を鳴らしながら僕の周囲を歩いたポンさんは、最後にビシッと身体を捻りながら言った。
「まずはこのスキルの習得からや!」
ゴクリと息を飲む。
そんなポンさんの示したスキルは、僕にとって少し意外なものだった。
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