第93話 閑古鳥の鳴いた店
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「本当に申し訳ありませんでした。ウチのマスターがご迷惑をおかけしまして」
壊れて散々な状態のギルド前の通りで、いつかと同じようにペコペコ頭を下げたニコルは、ギルマスを言い含めた時の迫力が消えてしまったように穏やかに言った。僕も同じようにペコペコ頭を下げながら、こちらこそすみませんでしたと詫びた。
「それにしても、一体何があったんですか? こう言ってはなんですが、あそこまで殺気立ったマスターの姿は見たことがありませんでしたので」
素朴な疑問としてニコルが質問した。
僕が言い倦ねていると、代わりにずっと昼寝していたポンさんが適当に答えた。
「自分が格下と決めつけた奴に攻撃弾かれてイラッとしたんやろ。バトルジャンキーにありがちな話やで」
ふぁ~と欠伸しながら僕の肩に乗るポンさん。しかしニコルにポンさんの言葉は通じておらず、結局僕が代わって言葉のトゲを抜いてから代弁した。
「え!? マスターの攻撃を跳ね返したんですか。もしかしてウタさん、もの凄い冒険者さんなのでは……?」
「あはは……、だったら良いんですけどね。駆け出しのFクラス冒険者です」
トホホと頭を掻いてみる。それでも凄いですよと褒めてくれたニコルは、絶賛片付け中な建屋の奥を一瞥してから、「皆さんは、これからどうするのですか?」と聞いた。
「マスターさんにもお話しましたが、僕らは窯炉を造るという目的がありますので、どうにか石を手に入れられないか、商業ギルドにもあたってみるつもりです」
「そうですか……。しかしマスターがお伝えしたとおり、今はデイリット陛下の統制が敷かれている関係で、商業ギルド経由でもお売りすることはできないと思いますよ」
「だとしても、可能性は探ってみたいので。ご心配いただき、本当にありがとうございます!」
こちらの不手際ですのでと詫びたニコルは、でしたら最後にと、何かを一筆したためた手紙を僕に手渡してくれた。
「これは?」
「今回のお詫びも兼ねて、私がリンデンで一番だと思っているゼラルギーさんのお店に紹介状を書いておきました。いつでも構いませんので、一度覗いてみてください」
僕を元気づけるように両手をグッと握ったニコルに礼を言い、僕らはギルドを後にした。しかしギルドの屋根の上からインフを見つめているギルマスの視線は、いつまでも鋭いままだった。
「来て早々ドンパチなんて野蛮の極みやで。これやから竜族はホンマに……」
肩の上で難癖を付けているポンさんをなだめながら、僕らはニコルに教えてもらった店へ出向くため、リンデンの城下町を歩いていた。
魔道具や日常品の並んだマルシェは人々の活気で溢れ、新鮮な果物や野菜、肉や魚なども立ち並び、食い意地が張ったインフなどは、そのたびに足を止め、「久々に主様の作った料理が食べたいです」と涎を拭っていた。
「ウタは料理をするのか?」
不意にカルラが質問した。
僕は「ハイ」と返事し、時間があれば料理でもして少し休みましょうなどと、束の間の時間を楽しんだ。
「それにしても、まさか鉱石を売ってもらえないとは思わなかったなぁ。どういうことなんだろうね、ポンさん?」
串に刺さった肉を頬張りながらご満悦なポンさんは、簡単な論理やとモゴモゴお口を動かしながら説明してくれた。
「早い話が(もちゃもちゃ)、石は言ってみれば武器の原料や(くちゃくちゃ)。それを他所に売れへんてことは(もにゅもにゅ)、どういう意味やと思う?(ごっくん)」
「それを使いたい理由がある?」
「正解やけど、それだけとちゃうで。そもそも今までは隣国との関係性も拮抗してて、牽制するもん同士、ほぼ対等の立場があったわけやろ? でもここ最近は、その関係性の壁にデッカイデッカイ穴があいてしもた」
「カーズルイン、だね……」
「そのせいで、どこもかしこも『いつ襲われてもおかしないやん!?』て疑心暗鬼の手探り状態になってもた。となると、各国信じられるもんは何かってことになるやろ」
「軍事力、……ってこと?」
「せや。せやから今は他国に力、いわゆる武器の元となる材料の流出を防ぎつつ、自分らは一方的に軍費を増強しようっちゅうことやろな。リンデンの領主であるデイリットってのはホンマにやり手らしくてな。そのへんの判断は誰よりも早いっちゅう噂や」
「だったら、この前のメルビンでの一件も、もしかすると……」
「っちゅう話になってくるやん? せやけど前も言うたとおり、デイリットはそこまで喧嘩っ早い奴やと聞いたことがないねんな。慎重かつ大胆ではあるけど、これまでの歴史を見てても、特に侵略主義者ではなさそうやからな」
「確かに」とカルラも頷く。
「デイリット王が隣国への侵攻を考えているとするならば、我々がこれほど容易く国に入ることなどできまい。何より、まだ石を入手する可能性が断たれたわけでもないのだ。とにかく教えられた店へ行ってみようではないか」
僕らはニコルに教えられた地図を頼りに、リンデン国の商業街の一等地を少し通り過ぎたところにある、見た目といえば少し薄汚れた(?)建物の前に立っていた。
表通りの一見しただけでも優美で見栄えのする商店とは異なり、見るからに安っぽく、外観が古いうえに、通りには人の往来も少なく閑古鳥が鳴いたような見窄らしい店先。「本当にここであってます?」と聞く僕の問いに顔を歪めて頷いたカルラは、手紙に書かれた店名と、店先に掲げられている看板の文字とを読み比べ、ものは試しだと建付けの悪い扉をノックした。
「邪魔するぞ」
薄暗い店内はどこか埃臭く、人の気配もない。これは一杯食わされたかと苦い顔をしたカルラに、店の奥から誰かが「客か?」と声をかけてきた。僕とインフはそそくさとカルラの後に続き、ゆっくりと扉を締めた。
「誰だ、お前ら。ウチは一見相手に仕事はしないんだ、帰ってくれ」
僕らの顔も見ず、店の奥から門前払いするように声をかけたのは店主らしい。カルラは胸に手を当て、自分に駄目押しするように頷いてから、「知人の紹介できたのだが」と一言添えた。
「知人だぁ? 俺にはエルフの知人なんぞいないはずだが」




