第83話 諦め
「はぁ?」と未熟な青年へ向けるような怪訝な顔で呆れているポンさん。
わかってる。
あまりにも稚拙で、あまりにも非現実で、あまりにも難しいことくらい、僕にもわかってる。
だけど、僕はやると決めている。
それくらいでないと、もう僕には生きている価値がない!
「だから、僕は強くなります。まだてんで弱いし、情けないし、本当に無様で馬鹿な子供だけど、どうかお願いします。僕に力を貸してください!」
理不尽なこともわかってる。
道理が通らないことなんか重々承知だ。
それでも不器用な僕には突き進む以外の方法がわからない。
それが唯一、僕にできる償いなのだから。
「なに言ってるのよアンタ。ふざけるのもいい加減にしてよ。あの女が真竜国の女王で、カーズルインを滅ぼしたのはアンタって? しかもレベル590で、そのうえ自分に手を貸せ? アンタ、正気なの!?」
周囲の空気を振り切り、エアリスが僕の襟首を掴んでたくし上げた。
いよいよ堪忍袋の緒が切れた充血した目を僕に向け、グチャグチャになってしまった思考をかなぐり捨て、自棄になっているようでもあった。
「姉様、私がコイツを討つことをお許しください。良いですね!?」
腰に装備していたナイフに手をかけ、エアリスが僕の首元に斬り掛かった。しかし無言で制したカルラは、彼女の手からナイフを叩き落とし、僕に言った。
「ウタ、まだお前の話を全て信じたわけではない。しかしお前のことだ。……恐らく、嘘はないのであろう?」
「姉様!?」とエアリスが驚愕する。
「黙っていろ」と一喝し、カルラは全てを受け入れたうえで言った。
「一つ確認させてほしい。本当に……、お前の命を賭け、ドラゴンたちはもう村を襲わないのだな?」
「はい、絶対に」
「そうか」と答えたカルラは、天井を見上げ、ふぅと大きく息を吐いた。
「……わかった。しかしそれよりも、我々は今、大きな枷をはめられてしまった気がしている。これから我々はどうすべきなのか、まるで想像がつかないよ」
恨めしそうに僕を見つめる。
できることなら、僕もこんな状況にはしたくはなかった。
「……納得できません。姉様、私は納得できません! このような者のどこにそのような力があるというのですか!?」
ナイフを拾い上げ、再び襲いかかってくるエアリス。
僕は魔力防御低下を唱え、ナイフを正面から手のひらで受け止めた。
事もなくナイフは砕け散り、反動の衝撃波が天井に突き刺さった。
しかし間髪入れず殴りかかった彼女の拳が、僕の頬に直接ヒットした。
『大落下』の効力によって、ダメージは完全に無効化されている。しかし僕が瞬きをしている暇もなく、弾き返したダメージが彼女の胸元を押し、そのまま側面の壁まで吹っ飛ばしてしまった。
「グハッ!」
壁に背をつけ、そのまま倒れて転がったエアリスは、何が起ったのか理解できず目を丸くしている。反撃した素振りもない僕にしてやられ、なのに自分はダメージを受け、床に転がっている。そんな怒りにも近いもやもやが、表情の表情から見て取れた。
「無駄や、やめとき嬢ちゃん。そうなったウタは無敵や。どんな攻撃も通らへんねん」
しかしエアリスは躊躇なく地面を強く蹴って、僕に殴りかかった。攻撃を受け流そうとしても、何発かは直接反転してしまい、そのたび彼女を弾き、壁に張り付けにした。
「ぐっ、グフッ……」
成す術なくやられている自分に腹が立ち、「クソっ!」と地面を叩く。
僕は彼女に手を差し伸べ、「もうやめましょう」と提案した。
「なんなのだキサマらは。女王だの、カーズルインを滅ぼした張本人だの、我々を弄ぶように翻弄し、好き勝手しやがって。本当は我らのことを馬鹿にして笑っているのだろうが!?」
手を伸ばした僕の顔に風魔法をぶつけられ、反動で倍の威力になった魔力の塊が洞窟の天井に風穴を開けた。パラパラと岩盤の欠片が落下し、何事だと部屋の外で待機していた村人が顔を覗かせた。
確実に攻撃を当てていた。しかし傷一つない僕の様子に怯え、エアリスが思わず後退った。
「よもやこのようなことがあろうとは……」という言葉に留めた村長は、様子を見にやってきた村人をなだめながら、全てを諦めるように言った。
「皆のもの、なんでもない、大丈夫だ。エアリス、それにウタ殿も。……話はここまでにいたしましょう。あとのことは、私から彼らに話をしておきます。もう金輪際、村に危険はなくなったのだと……」
こうして困惑する村人たちを任せたまま、僕らの話し合いは終結した。
文字どおり、誰一人納得する者はなく、僕も、カルラも、ポンさんも、エアリスも村長も、それぞれ胸につかえたもやもやが消えることはないんだと思う。
何よりも、僕は彼らに重い十字架を背負わせてしまった。僕やインフとの関係性が世に知れてしまえば、今後彼らにどんな不幸が降りかかるか想像することもできない。
しかしだからこそ決心したこともある。
彼らを守るため、僕はもっと強くならなきゃいけない。
どんな敵が現れても、平気な顔をして立っていられるほど強く――




