第38話 会心の一撃
僕は僕にできることをするしかない。
混沌とした北門の前線へと飛び出した僕らは、速度低下のスキルを使うなり、壁になって攻撃を止めている衛兵を乗り越え、モンスターの列に突っ込んだ。
「お、おい、そんな無茶な!? って、嘘だろ……?」
僕のスキル『大落下』は、相手の力が強大になればなるほど効力を発揮する。相手の圧力が大きければ大きいほど、そして数が多ければ多いほど、反発力は格段に増していく。
闇雲に突進するだけでも、相手から直接攻撃を受けさえすれば、それを何倍かにして跳ね返してくれる。
疲弊し、もはや引くことすらできなくなっていた衛兵のみんなに、休む時間を少しでも与えられればそれでいい。僕はその一心で、ゆっくりではあるけど確実に、攻め入るモンスターを削っていく。
「す、凄いぞ、あの若いの。おいみんな、あの子を援護しろ。モンスターを押し返せ!」
僕の突進力を利用して、衛兵たちも攻勢に打って出る。血みどろの戦いは、絶えることなく続いていく。
「ポンさん、倒しても倒しても数が減らないよ!?」
「しゃーないやろ。……この一帯のモンスター全部が集まっとるんや。これでも削ったほうやで。しかしまぁ、そろそろ潮時かもな」
ポンさんが振り返った先では、先程まで見えていた乾いた煙ではなく、黒みをました、重量感のある黒煙が立ち昇っていた。西門の具合が芳しくないようで、風に乗り、これまで以上に大きな悲鳴や怒号が聞こえていた。
「中に入られてしまったら、もう打つ手はなしや。今のうちに作戦を切り替えて、町の人らを避難させた方が懸命かもしれんで。しかしそれも、どっか一ヶ所の関所を突破できたらの話やけどな!」
僕は頷き、どうにかこの北門を突破口にするため、再び敵へと突っ込んだ。しかしモンスターの壁は分厚く、易々と突破させてくれそうもない。
「なぁウタ、ずっと聞きそびれてたけど、おのれ俺に黙ってることあるやろ」
「え゛? いや、今はそんなこと話してる場合じゃないよ」
「なら黙って聞いとき。こうなったらしゃーないわ。あんときのアレ、いっちょカマしたれ」
「アレ? アレってなにさ!」
立ち塞がったオークの腹をぶち抜き、血の雨が降り注ぐ。しかしそれを避けもせず緑に染まった顔で僕を睨んだポンさんは、「アレしかないやろ」と呟いた。
「アレって、やっぱり……」
「川をカラッカラにしたアレや。ウタの様子がおかしいから黙ってたけど、アレ、おのれの能力やろ」
どうにか誤魔化してきたけど、もうポンさんには隠しきれそうもない。
僕は「わかった」と頷き、覚悟を決めた。
「せやけど加減するんやで。後ろには町のもんもぎょーさんおる。巻き込んだら終いやで」
「うん。でもそんな都合よく加減できる力じゃないんだ。どうなっても知らないよ」
「難儀な能力やな。せやけど、やってみる価値はあるで」
後ろへ続く衛兵たちを爆発に巻き込むわけにはいかない。僕は背後の衛兵に「少し離れていてください」と伝え、一旦スキルを解除して足を止めた。
「……いくよ、準備してて」
「ええで。俺もフォローしたるわ」
衛兵が急ブレーキをかけたのを見届けてから、僕は『跳躍』スキルでモンスターが密集している地点の真ん中へと飛び上がった。地上蠢くモンスターの視線が一点にこちらへ向き、地上から一斉に攻撃が開始される。
落下を始めた僕を狙い、多数の武器が飛んでくる。両腕で顔を隠した僕は、視界を奪われ、どこへ向かえばいいかがわからなくなった。
「ポンさん、どっちに落ちればいい!?」
「そのまままっすぐ右前方や。いけ、カマしたれッ!」
全身に直撃する物理攻撃。
僕の体ごと押し返すように弾け跳んでいく魔法攻撃。
それら全てを吸収し、蓄積したエネルギーが、落下の衝撃をプラスして、一気に足元で爆発する!
着地と同時に、周囲百メートルほどのモンスターが、一瞬にして光の渦に飲み込まれていく。僕の背中にしがみついているポンさんが落ちないように右手を添えた僕は、改めて自分が放つ非常識な一撃の威力を垣間見て、大きく息を吐いた。
「ほえ~、ホンマにエゲツない威力やで。おのれ、マジでどないなってんねん?」
しかし僕はいつかの光景がフラッシュバックし、右手で顔を隠したまま「ごめん」と言うので精一杯だった。
「別に謝ることちゃうで。それに、今ので結構な数が削れたで。なんなら敵さんらも何が起こったかわからずパニック状態や。叩くなら今しかない!」
「一気に行け!」というポンさんの声(実際には神獣語だが)をきっかけに、待機していた衛兵たちも一斉に攻撃へと打って出る。
北門の戦いは、これまでの防戦一方が嘘のように一転し、そのままの勢いで一気に町の外へとモンスターを追いやった。所々で上がった勝鬨のような歓声が、また新たな勢いへと移り変わり、衛兵たちの表情にも活気が漲った。しかし――




