第33話 スリラー
「なんやおのれ、……笑ってんのか? こんなときに何がおもろいねん!」
そうだと思う。
多分僕は、不気味に微笑んでいたんだと思う。
ずっと僕を苦しませ続けてきたこの大嫌いな『習性』が、人生で初めて、生まれて初めて、裏返った瞬間だったんだから――
「うん? ってことはデコのコレ、モンスターの血ぃかいな!? オゥェ、キモッ、クッサ!」
緑色の液体を拭うポンさんの背後から、さらに数匹のモンスターが迫りくる。僕は彼を抱きかかえ、再びスキルを発動させて突進した。
「ちょ、ちょ、待ちぃなー!」
速度低下、突進、速度低下、突進と繰り返すたび、モンスターの残骸が周囲に積み重なっていく。言うまでもないけど、そのたび抱えられていたポンさんの顔には、多量の血が浴びせられている。
「オゥェ、クッサ! 待ち、待ちて、死ぬ、クサくて死んでまう!?」
もともと薄汚れている彼の顔面が真緑色に染まりきった頃、僕は壁上にいた全てのモンスターを倒していた。
こんなバケモノたちを前にして、僕になにができるんだろう。その疑問に初めて一つの可能性を示せた気がして、この世界にきてから初めて僕は本当に笑えたんだと思う。
「ゴラァ、ウタ!? おのれ、どないなつもりや! 可愛らしい俺のプリチーフェイスが真緑や、真緑!」
「ごめんよ。必死だったからポンさんのこと忘れてた、本当にごめんね」
「ごめんで済めば牢獄はいらんねん、覚えとけや!」
頭から煙を吐き出し怒るポンさんを尻目に、脳内に声が響いた。
スキル『速度低下』のレベルが上がりました
「え?」と無意識に聞き返す。
慌ててステータスでスキルを確認すると、速度低下の隣の数字が2に変化していた。
「スキルのレベルが上がったんか。あんだけ連発すれば嫌でも上がるやろ。それよりウタ!」
「ちょっと待って。スキルのレベルって、使えば使うほど上がっていくの!?」
自分を上回る勢いで僕に質問され、ポンさんがドン引きして「せ、せやで」と返事した。フゥフゥと深呼吸した僕は、これまでの事態を整理するため、現状を慌ててまとめてみることにした。まず……
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レベル:564
HP : 97054 / 98123
MP :103088 / 109121
STR:2365
DEF:2350
DEX:2338
AGI:1905
INT:2223
MND:1458
LUK:9
CHA:902
SP :114432
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ステータスを確認する。
気にしてなかったけど、HPやMPはなんとなく想像が付く。だけど他の値はなんなんだろう?
「連続して聞くけど、STRとかDEFって?」
「急になんや。STRは力とか攻撃力とか筋力値とか言われてんな。DEFはいわゆる受けの力、防御力っちゅうんかな」
「ほ、他は!?」
「DEXは器用さとか繊細さとかやな。AGIは素早さとかスピードとか言われてたな。INTは賢さとかスキル覚えるために必要な値やったっけ?」
「だったらこっちは!?」
「MNDは気力とか精神力とか言われてて魔法に関係するとかしないとか。LUKはどんだけツイてるかって値やな。んで最後のCHAは魅力や。高いとモテたり人を惹き付けたりする言われてるで。……って、こんなん説明してる場合か!」
一般的な数値はわからないけど、ポンさんの反応を見る限り、僕の数値はレベルに比例すると、それなりに違いない。そして、
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【 スキル 】
・大落下
・神獣語
・跳躍(Lv.1)
・速度低下(Lv.2)
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説明を読む限り、スキルにはアクティブスキルとパッシブスキルというものがある、みたい。大落下や神獣語は僕の意思とは別に発動するタイプのスキルみたいだけど、跳躍や速度低下は僕の意思で発動させるタイプのスキルらしい。
「ねぇ、跳躍や速度低下はいつでも使うことができるの?」
「そらそやろ。でも使うにはHPやMPが必要やから、そもそも0やったら無理やろ。知らんけど」
スキルにも色々あるみたいだ。
しかし跳躍はここへ着くまでも数多く使ったけど、まだレベルは1のまま。レベルの向上にも基準みたいなものがあるのかな……?
「す、スキルって、僕が欲しいものを全部覚えられるの!?」
「ちと落ち着けて。俺の質問には答えへんのに、自分ばっか難儀なやっちゃで。当たり前やけど、スキルはなんでもかんでも覚えられるわけちゃう。資質のないスキル覚えられへんし、そもそもSPなかったら覚えられへんし。その点、ウタはいっぱい余ってるで、選択肢が広いことは確かやな」
神獣語の取得が1000Pで、跳躍と速度低下がそれぞれ100P。残ポイントはまだ114432あるから……
「スキル覚え放題じゃん!!?」
吐き出すような一人ツッコミ。
急な大声にポンさんの肩がビクゥゥゥッと跳ねた。
「おっきい声出すなや。ほれみい、また敵さん集まりだしたで」
声に気付いたモンスターが、新しい獲物だと言わんばかりに駆けてくる。しかし全てを相手してる余裕もなく、僕らは慌てて身を隠せる場所を探した。
「ウタ、そっちに降りられる階段があったで。追いつかれる前に急ぐで!」
ポンさんが見つけた城壁の階段を下った僕らは、時折城壁に備えられた窓から見える町の様子を確認しながら進んだ。傍から見れば侵入者と疑われかねない方法で町に入ったにも関わらず、防御で手一杯な衛兵たちが僕らを気にする素振りはない。
「それでポンさん、僕らはどこへ向かえばいいですか!?」
くんかくんか鼻を動かしたポンさんは、戦火が燻る中から、神獣特有の能力と自称する力を用い、匂いを嗅ぎ分けている、らしい。
ただ血で汚れた顔を左右に振っている様は少し不気味で、ゾンビがスリラーを踊ってるみたいだった。
「町の中央から嫌な感じが漂ってるな」
「町の中央っていえば……。やっぱりアレかな?」




