第18話 天才料理人
「どうだ、よく眠れたか……って、まぁ聞くまでもないか。どうする、やめとくか?」
階段を降りてきた僕を見つけ、旅の準備を整えたサロムが表情なく言った。
きっと僕の顔はどんよりと暗く、目の下もクマだらけで、それはそれは酷いものだったんだと思う。それでもサロムは、敢えて僕に聞いてくれた。やっぱりサロムは良い人だ。
あれから一晩中、僕は初めてゆっくり考えた。
これまでのこと。
おかしな世界にきてしまったこと。
おかしな力を手にしてしまったこと。
自分がしてしまったこと、そしてこれからのこと。
納得はできなかった。でも、これ以上現実から逃げ続けるには無理がある。
どうやら僕は知らない世界にいる。そしてどうやら、僕はこの世界で生きていかなきゃならない。
両親や友人は心配してるだろうか。
僕がいなくなって困る人はいないだろうか。
色々考えたけど、どうしても答えは出ない。そもそも前の世界に帰れるのかどうかもわからない。
それに後悔はきっと……。
いや、恐らくは、ずっと消えない。
僕の人生は、いつも後悔しかない。負け続けの人生だから、負けるたび、負けるたび、後悔ばかりを何度も繰り返してきた。
だからきっと、この先も僕は後悔し続けていくんだと思う。失敗して、後悔して、失敗して、また後悔して……。きっと死ぬまでそうして生きていくんだろう。
だけど一つだけ。
確実に言えることがある。
僕は、天性の負けず嫌いだ。
負けても、馬鹿にされても、打ちのめされても、一度だって諦めたことはない。僕は、僕自身は、一度だって足を止めたことはない!
「……行きます、行きますよ。絶対行く。行くから、行きますから、僕を行かせてください!」
無意識であれ、意図的でなかったであれ、相手が極悪人であれ、僕がカーズルインを滅ぼしたという事実は、きっと変わらないし、変えられない。
過去は戻らない。
そして僕の過ちを咎めてくれる人もいない。だったら全て自分で受け止め、受け入れ、自ら進んでいくしかないんだ。何をしでかしたとしても、人は前を向いて生きていくしかないんだから。
ゾンビのように縋り付く僕に、サロムは困惑しながら「わかった、わかったから離れろ」と、食事が用意された席に僕を座らせた。
「そうでなければ困ります。しょれでこそ、我が主様といふもにょ(モグモグ)」
誰も気付かぬうちに隣に座っていたインフは、自分だけさっさと料理に手を付けながら相槌を打った。
「なぁ二人とも、無理しなくても良いんだぞ。今回はダンジョンでアイテムを入手するだとか、食料に困窮するような切羽詰まったミッションってわけでもないんだ。俺も無理強いはしたくないし、そもそも動けなくなって足手まといになるだけなら、最初から諦めてくれた方が――」
「嫌です、絶対行きます!」
僕の勢いに押されるまま腰掛けたサロムは、「本当に大丈夫かよ」と呆れた様子。レビンも同じように心配顔ではあるものの、頑として譲る気がない僕のテンションに圧され、頷くしかないみたいだった。
「わぁーった、わぁったよ。そのかわり、俺が無理だと思ったら、すぐに引いてもらう。合わせて、俺らの指示は絶対だ。無茶するようなら、殴ってでも帰らせる。いいな?」
全力で首を縦に振った僕は、目の前に置かれた朝食を一気に口の中へ放り込み、昨晩のうちに準備した荷物を背負い「いきばじょう(行きましょう)!」と叫んだ。
「ったく、先が思いやられるぜ……」
△ ▽ △ ▽ △ ▽
準備を終え、村の中央に位置する円形に縁取られた小さな噴水のほとりに集合した僕ら三人は、他のメンバーが集まるのを待っていた。
しばらくすると、どこからかサロムを呼ぶ声が聞こえ、彼と同じ衛兵の格好をした男女三名が手を振りながらやってきた。
一人はサロムと同じ歳格好の戦士風の男性で、二人はシーフの様な格好をした女性と、どこか見覚えのある魔法使いのようなローブを着た女性だった。
「おお、珍しいな。三人がまとめて現れるなんて」
「それはこっちのセリフ。サロムが集合場所に最初にくるなんて奇跡かしら。今夜はきっと嵐がくるわね」
一言目にグサッと言葉のナイフを刺した女性が、サロムの同僚であるシーフ兼、魔法剣士のビータ。ショートの黄色髪に軽装な見た目は派手そのもので、言動も少々勝ち気で勢い優先といった雰囲気。どうやらこのパーティーの舵役は彼女で、パーティーのムードメーカーみたいだ。
「確かに」
ボソッと一言で肯定した彼女は、サロムの妹であるレビンの幼馴染のエリル。
全身紫みのある黒色の形容し難いローブに身を包み、顔だけがポンと乗ったような異様な見た目をしている。しかも両目は前髪で隠れていて、表情は窺い知ることができない。手には厨二病が好きそうな身長くらいある杖を持っており、杖の尻で小刻みにカツカツ地面を叩いている。
暗いわけではないが率先して話すこともなく、要所要所で言葉を挟むタイプみたいだ。
「家まで呼びに行く手間が省けたってもんだ、ガッハッハ!」
最後は見た目からして大味な感が漂うサロムの幼馴染、カッセ。ボサボサの茶髪に、頬には大きな十字キズ。似合いの戦士装備に加えて、とても重厚でバーサーカーしか使わなそうな巨大斧を背負っている。発言は大胆だけど、おおらかそうで、きっと悪い人じゃないと思う。
「で、百歩譲ってアンタがいるのはいいとしましょう。で、そっちのお二人さんはどこのどなた?」
ビータが僕らを指さしながら聞く。
フフンと不敵に笑ったサロムは、聞いて驚くなと前置きしてから、さも自分のことのように言った。
「こっちは冒険者のウタ、そちらのお嬢様はウタとパーティーを組んでるインフちゃんだ。そして聞いて驚きやがれ、……なんとウタは、泣く子も黙る『天才料理人』だ。味は俺ら兄妹が保証する!」




