第13話 料理人ウタのお気楽クッキング
インフに促されるまま外に出ると、そこに奇妙な人集りができていた。何事ですかと目を丸くする僕らが目撃したのは、ドンドンドンと高く積まれたモンスターの姿だった。
「こ、こ、これは……!?」
「今晩の食料として用意いたしました。どうぞご自由にお使いください」
「お、お、お使いくださいって、これ……」
堆く積まれたモンスターの姿に腰を抜かし、瞬きすら忘れたレビンが座り込む。僕は彼女の仕業なのが明白なことに加えて、面倒になるのが火を見るより明らかだったため、驚きを必死に隠して死物狂いの言い訳を並べ立てる。
「じ、じ、実は、ここへやってくる前に、別の町で肉を分けてもらったんです! こ、これは、ええと、彼女が、そう、彼女が個人的に持っていたもので!」
「こ、個人的にって、この量をですか!? そ、それにこれ、ヘルビーストにデルタタートル、こっちはホブゴブリンキング。これなんか、発見しただけで町が一つ滅びるとまで言われるレアモンスター、" 滅びのウサギ " まで!?」
僕が血走った目でインフを睨むと、彼女もマズいと思ったのか、「某国の貴族に分けていただき、アイテムボックスに保管しておりました」と柄にもなく嘘をついた。
「ぼ、某国の貴族って、そ、そんな太っ腹な貴族がいるのでしょうか……。私の知る貴族とは違うような……、嗚呼、少々めまいが」
呆然と僕らがモンスターを見上げていると、用を終えたサロムが戻ってきた。しかしレビンと同じく折り重なった高レベルモンスターの姿を見るや否や、悲鳴に近い声を上げるのだった。
「なんだこりゃ……。東の荒れ地に生息する伝説級のモンスターがどうしてこんなところに。まさか、これの影響なのか、さっきの話は!?」
ひとり何か口走り、サロムがゴクリと息を飲んだ。しかし絶対それじゃないと知っている僕は、「違う違う」と全力で否定し、取ってつけた言い訳で誤魔化すしかないのであった。
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「でぇ、あの化物モンスターの肉は、お前とインフちゃんが持ってたアイテムで、今晩のおかずに使ってくれ、だと? バカ言え、あの馬鹿げた量、何食分だと思ってんだ!?」
モンスターの肉や皮などを一旦ギルドに全て預けた僕らは、サロムの家に缶詰にされ、改めて詰められていた。重要なのはそこじゃないでしょうと兄をたしなめたレビンは、これ以上聞いても堂々巡りねと僕らの証言を諦め、ハァと大きなため息をつく。
「ご、ごめんなさい……」
「別に謝ることでは。ですがもし今回のことが善意だったのであれ、あれだけの高ランクモンスターを人目ある町の真ん中でひけらかすようなことはどうかと思います。最悪の場合、賊に目をつけられ襲われる、最悪は命だって狙われることもあるんですからね!」
「命って、そんな大袈裟な……」
「大袈裟じゃありません! お二人はあの大量のモンスターのことを『肉』とおっしゃいましたが、むしろそこではありません。あのモンスターの皮や牙、目や毛や爪の価値を、お二人はご存知ないんですか!!?」
僕もインフもまるでピンときておらず、同時に首を横に捻った。嘘だろコイツらと引きつった顔で僕らを見るサロム兄妹は、無駄だと悟ったのか、頭を抱え、それ以上言及しなかった。
「ともかく、あの大量のモンスターについては一旦ギルドで預からせていただきます。扱いについては、また後日相談させてください」
「お、お願いします。すいません……」
「ま、まぁまぁ、話はひとまずそこまでにしようぜ。もう遅くなっちまったし、そろそろ取ってきた食材を料理して食べねぇか? ほら、今日はこんなに肉もあるし、さっさと着替えて食事としようぜ」
必要量だけ切り分けておいた凶悪モンスターの肉がテーブルにドンと乗っている。その肉すらも、市場価格でいえばとんでもないんですからとレビンが補足し、空気がまた微妙になったのは黙っておく。
妙な雰囲気になってしまったので、ここは一発空気を変えるため、僕が料理を買って出た。こうなれば心機一転、僕の実力を見せてやると台所を借り、食材の調理に取り掛かる。
こうみえて、僕は子供の頃から家事全般について口酸っぱく叩き込まれてきたタチである。
いつどんな時も困らないようにと両親に育てられました。父さん、母さん、お二人にはとても感謝しています。よって、たとえ相手がモンスター肉だろうが、バケモノ肉だろうが、絶対に僕は屈しない!
「まずは肉全体のスジを切ってから、レビンさんにいただいたこの酸っぱい実の果汁に漬けておく……。こっちの脂身多めのお肉は、可能な限り脂を落とし、表面だけを一気に焼いて旨味を凝縮する。そして今日採ってきたこの爽やかな実のさっぱりした果汁と、すりおろした野菜を和えて作ったタレをつけて食べればサッパリとした口当たりになるはず。キノコや薬草だって香草だと思えば用途は沢山あるし、添え物は……ブツブツ」
「な、なぁ、ウタの奴、なんかナイフ持たせたら性格変わってないか?」
「た、確かに。だけど恐ろしい手際で食材を処理をしてますよ……」
食べる専門のインフは、既に着座しナイフとフォークを握りしめ生唾を飲み込んでいるご様子。ならば仕方ない。キサマらに存分とお見舞いしてやろうじゃないか!
「まずは下処理したこの高級肉を、いただいた果実酒でフランベし、特製ソースを施しただけのシンプルな一品からお楽しみいただきましょうか!」
さぁさぁ、料理は見た目からだよ!
このありふれた量産品の雑多なお皿の上で、食材が躍るような優雅な彩りを散りばめ、美しく焼けた肉と色鮮やかなソースをポンと乗せ、芸術的に仕上げていく。
さぁ君たちに、僕の芸術が理解できるかな!?
「どうぞ、食べてみてください!」
シェフを気取って皆々の前に皿を滑らせる。困惑した様子が気になるが、恐る恐るフォークに肉を刺した三人は、同時に口へと放り込んだ。
「な、な、な……、なんじゃこりゃ~!」




