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第98話

「私たちは今、国より大量の魔石確保の依頼を請けています」


「魔石…ですか?」


「はい。その通りです。

 ご存知かもしれませんが、一般的には魔石の需要はほとんどありません。

 それ故、市場にも魔石はめったに出回らない。

 ですがレンチェスト王国にとっては、魔石は極めて重要なものなんです。


 ここ、王都ステイリアの近くには川もなく、これと言った水源がありません。

 ですが、ご覧いただいた通り、ステイリアは大変栄えています。

 水路も整備され、住民たちも水に困ることはありません。

 ではなぜ、水源もないのに水に困ることがないのか。

 実はそれは魔石のおかげなんです」


「???」


「これは一部の者しか知らない話ですが、レンチェスト王国には、

 はるか昔から受け継がれる”神秘の聖杯”というものが存在します。

 ”神秘の聖杯”とは、その名が示す通り大変神秘的なもので、

 その聖杯の中に魔石を入れると、とめどなく水が溢れ出てくるんです。

 そのおかげでステイリアでは、水不足に困ることなく皆が生活できています」


「へぇ…不思議なものもあるんですね」


「はい、本当に。

 …ただ、聖杯に一度魔石を入れればそれで終わりというわけではないんです。

 それだけですと徐々に溢れ出る水の量が減っていってしまうのです。

 おそらくは、水を生み出した分だけ魔石のエネルギーが減っていき、

 やがてはそのエネルギーがなくなってしまうのだと思います。

 ですので安定した水量を確保し続けるためには、

 定期的に次の魔石へと交換する必要があるのです」


「なるほど…」


「ただ…最近では魔石の確保が思うようにいかず、

 国が所有する魔石も残り僅かになってきたのです。

 このままだと近い将来、ステイリアの水が枯渇してしまう。

 もしそうなってしまえば、国の一大事。

 そのため国は、我々”烈火の剣”に魔石確保の依頼を出しました。

 ご存知かと思いますが、魔石は魔獣の体内に存在しますから」


「…じゃあ、ナイチに行っていたのも?」


「はい。辺境ならばステイリア近辺に比べ、魔獣が多いと思いまして。

 結局、成果はほとんどありませんでしたが…」


「そうだったんですね。

 でも魔石だったら…。ねぇ、ユイトさん?」


「あぁ、そんなことぐらいだったら、いくらでも手伝えると思うぞ。

 魔石の在り処にも心当たりあるしな」

「ほ、本当ですかっ!?ユイト様っ!!」

「あぁ、もちろん」


ユリウスたちの顔が見る見る明るくなっていく。


「じゃあさ、俺たちが採ってくるから、悪いけど何日か待っててもらえるか?」

「いえ…そんな…、ユイト様たちだけにお願いするわけにはいきません。

 ぜひ我々も連れていってください」


同行を懇願するユリウス。

しかし、ユイトから返されたのはユリウスの期待する言葉ではなかった。


「うーん、でもなぁ…。

 あそこはみんなにはちょっときついと思うぞ。

 まぁ連れてってもいいけどさ、それでも、そうだな……1人だけだな」


まさかの言葉に動揺を見せる”烈火の剣”。

レンチェスト王国一の冒険者パーティーと謳われ、強さにもそれなりの自信がある彼ら。事実、これまで数多くの魔獣たちを葬ってきた

だが、そんな彼らであっても厳しいという場所。

ユリウスは、ユイトが思うその場所の名を聞かずにはいられなかった。


「我々Sランクパーティーでも厳しいというのですか?

 それ程までに危険な場所とは一体…?」


「多分、今のユリウスさんたちじゃあ目的地の半分までも辿り着けないだろうな。

 なぜなら、これから行こうとしている場所…そこは終末の森 その中心部、

 この世界で最も危険な場所だ」


「なっ……」

あまりの衝撃に”烈火の剣”が凍りつく。


「…しゅ、終末の森とは、足を踏み入れたが最後、二度と戻ってこれないという、

 はるか北方に広がるあの大森林のことでしょうか?」

「あぁ、そうだぞ」


「………」

終末の森、しかもその中心部。

ユイトの言葉を聞いたユリウスたちに迷いが生じる。


「ユリウスさん。無理することはない。

 俺たちが行って、サクッと採ってくるからさ」


「………。

 ユイト様、1つだけ教えてください。

 そこに行けば、確実に魔石が手に入るのですか?」

「あぁ、それは間違いない。それに関しては何の心配もいらない」

「…分かりました。それでは私がお供します」


「おいっ、ユリウス!お前、本気なのかっ!?

 まじで終末の森なんかに行くつもりなのかっ!?」


ユリウスを激しく心配する仲間たち。

ユリウスはそんな仲間たちの顔を見つめ、無言で頷いた。


「ユリウスさん…本当にいいんだな?」

「はい。私も同行させてください」

その顔に一切の迷いはない。


「…分かった。じゃあ一つだけ約束してくれ。

 移動中はあまり俺たちから離れないようにしてくれ。

 あまり離れると守り切れない可能性があるからな」

「分かりました。肝に銘じます」


まるで死地にでも向かうかのような表情を浮かべるユリウス。

そんなユリウスの言葉にユイトは小さく頷いた。


「よし。じゃあそうと決まれば早速、行くか」


「…ユイト様。その前に1つだけよろしいでしょうか?」

「んっ?」


「ユイト様はなぜ、終末の森の中心部に魔石があると思われたのですか?」

「いや、思ったって言うか、あるって知ってんだよ。

 だって俺、そこに住んでたからさ」


「………。えぇぇーーーーーーーーーっ!?」


何だか、しまらない感じで出発するユイトたちであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 無名(アンネームド)がレンチェスト王家とどう関わるのか気になる所。 この烈火の剣との接触の件が王家に伝わり、奇しくもユイトの仮初めの出身たる終末の森の最高級魔石の回収ミッションという…
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